専決処分は、誤解を受ける制度である。「市の代表である市長が決めるのだから、市長が決めて、どこがおかしい」という意見をもつ人もいるだろう。
問題意識を持ったのは、次の2つの条例と政策である。
いずれも専決処分が行われている。
いろいろ議論がされているが、基本が飛ばされていて、生産的な議論になっていない。
1.大前提は、条例や予算について、市長は提案権はあるが決定権はないこと。
地方自治法は、二元代表制をとっていて、市長も議員も市民の代表であるが、重要な案件は、議会が決定するという制度をとっている。つまり、条例や予算については、市長は提案できるけれども決定はできない。
したがって、提案側の市長は、決定権を持つ議会が理解でき、賛同できるように、意を尽くし、説明資料を用意して、議会が「なるほどわかった」と納得できるように粘り強く、説明する責務がある。
こうしたことは、特別なことではなくて、私たちが普通にやっている。契約をとるために、相手側に意を尽くし、提案のよさを説明している。総会や会議で、みんなの賛同を得るために、力を込めて説明する。これは提案する側が、普通にやることである。
2.専決処分はその例外の制度
専決処分は、提案権者がこの説明手続をすっ飛ばして、決定権者になる制度である。北朝鮮のような国ならば、提案者が決定者でもよいが、日本のような安定的な民主主義国では、これはとらない。専決処分はイレギュラーで特別のことになる。
ただ、実際は、議会は会議体だから、すぐに決定できない場合がある。たとえば、津波で流されて、議員が散り散りになり、集まれないような場合である。その場合、救援活動をすぐに行い、そのための予算を決定しないといけないが、この場合、他に方法もないので、市長が決定する。
普通は、津波などの災害に備えて、それなりの予算を確保している。専決処分は、それでは全然足りないという異常事態に適用される。だから、専決処分が行われるのは極めて例外的な場合である。
専決処分ができる場合を一般化すると、「何らかの事情により、長にとって議会の議決を得ることが社会通念上不可能ないしこれに準ずる程度に困難と認められる場合」である。社会通念上不可能であるとの説明は、市長がする。
3.ここで問題にしているのは条例や予算の内容が良いか悪いかではない。
ここで問題にしているのは、条例の内容がよかったのか、予算の内容が妥当だったかではない。それ以前の問題である。きちんと定められたルールを守っているかである。専決処分の濫用は、住民訴訟の対象になる。専決処分がルール内に収まるのは、議会の議決を得るのが社会通念上不可能か、それに近いといえる場合である。
コロナの条例も企業誘致も、あちこちで議会の議決を得て、山のように行われている。ただ、今回の2つのケースが、他とは違って、なぜ特別なのか、その説明が求められるということである。
4.専決処分の濫用は住民監査請求、住民訴訟の対象になる。
住民監査請求は不当、違法な行為、住民訴訟は違法な行為が対象となる(地方自治法242条、242条の2)。この制度は、市の財産を守る制度なので、その行為が財務的行為(つまり市の費用を使うかどうか)であることが必要になる。
条例の場合も、それによって、具体的な支出行為があれば(たとえば市がマスクを配るなど)この制度の対象になるが、「マスクをつけましょう」といった理念条例の場合は、住民訴訟までは難しいだろう。
他方、予算が伴う行為は、不当、違法ならば住民監査請求、違法ならば住民訴訟の対象となる。違法性の判断は、議論があるが、判例の考え方は、「その売価が不適正で,かつ,本件売買契約の締結が,いわゆる専決権の濫用である場合」には違法としている。
繰り返しになるが、専決権の濫用かどうかは、「議会の議決を得るのが社会通念上不可能かそれに近いか」による。
5.無印良品で思うこと
率直に言って、東京の資本をまちに持ってこようという発想は、前時代の発想である。つまり、ここでまちの人が買い物をすれば、その富は、東京に持って行かれる。製品も、その多くは、市外、海外で生産されたものである。地域に還元されるのは、従業員の給料などほんのわずかである。
他方、地方創生の時代は、地消地産である(地産地消ではない)。地域で消費(お金を使う)するものは地域で生産する。要するに地域のお金を地域で回すという考え方である。
これは、漏れバケツ理論と言って、「地域というバケツにできるだけたくさん水を注ぎ込もうと(つまり、地域にお金を引っぱってこようと)、政府からの補助金獲得や企業誘致などを行っても、せっかく地域に注ぎ込まれたお金の多くは、すぐに地域外に漏れ出てしまう」という考え方である。
かつてのように、高度成長で、どんどんバケツに水を注ぎこめる時代ならば、漏れ出すよりも多くの水を注ぎこめるが、もうそんなことはできなくなった。
これに対して、地消地産では、まちの人たちが買う商品が、地元の原料を使って地元で生産された場合、消費者が払ったお金が生産者に行き、その生産者は、その得た金を地域で消費し、また原料生産者に代金を払う。その金をもらった原料生産者も地域で消費するといったように、まちの人が買った商品代金が、地域で何度も使われていくという考え方である。
今の時代は、こうした地域循環の経済システムも希求すべきだろう。それを国を挙げてやろうというのが、地方創生である。
むろん地域で回っていくような商品を開発するのは簡単ではないので、それには、多くの人たちの知恵や知見、さらには実践を結集することが必要である。一人で考えられることは限界があるし、どうしても自分の体験や心象風景に囚われてしまう。何よりも多くの人たちの協力が必要になる。
こうした議論ができる仕組みのひとつが議会である。議会に出せば、当然、漏れバケツのような議論が出てくる。そこから、次のアイディアが出てくる。さらに、市民に問いかければ、なるほどという意見も出てくるし、なによりも、市民の当事者性がつくれる。
6.私たちの社会
何度も書いているが、私たちの社会の活力源は、価値の多様性である。いろいろな人の発想や意見、提案を集め、そこから、「これいいね」という政策にまとめていく。それが憲法13条の個人の尊重であるし、地方自治のだいご味である。
私たちの国は、資源が乏しい国なので、唯一の強みは、人という資源である。一人ひとりが存分に力を発揮できる社会をつくっていくのが、私たちの生き残り戦略だと思う。これが私の「励ます地方自治」であり、何よりも、いろいろな人と話して、自分では気がつかない発想や意見に出会うと、うれしくなるではないか。
一人が決めるという専決処分は、例外的で特別なことであるという意味が、ここにある。
みんなで大いに知恵を出していこうではないか。
議会としては軽視されたことに反発しておりそれが頓挫の原因であると感じます。専決処分にしても議会の承認を得ようとしたところ不承認ということになったのでその分のお金については実際払われていません。結果市のお金は外に出ずに済んでいますが、ある意味、この過程は拙速に映ります。確かに議会を経てのプロセスを踏むことが定説ですから。なぜ踏まなかったのか?それは市長の議会に対する絶望が反映したものと考えます。経済活動にはスピードが求められます。今朝の日経でも報じられていますが、多くの自治体での開発計画がインフレにより大幅な修正を求められており、見直しを迫られています。ここの某議員は大手企業が来るのなら大歓迎、土地を高値で買い取ってくれるのなら大歓迎と一般質問で述べています。大臣や知事に会ってこい、ということもよく市長に伝えていますね。そういう大企業や地位の高い人に来てほしい、注目してほしいのなら、インフレ化にある経済状況に気配せできないでどうする、という気がします。魅力的な場所だったら、何もしなくても大企業の方から声を掛けるんですよ。全国に目を張ってるんですから。それを公募したら?などと悠長なことをよく言えたものだと思います。そんな中、指定管理者である「株式会社」が良品計画を誘致したなら御の字だと思います。つまり、今回は経済観念の極めて弱い議会により計画は頓挫した、というイメージが強いです。また、専決処分にしても議会に承認を求め、後にはなるが本決裁に関しても議会の承認を求めるつもりであったのなら、軽視には当たらないのではないか。
また、地産地消ということですが、それはさすがにどこの自治体もかなり力を入れていると感じるし、そもそも年寄りばかりになってしまった自治体において、地産地消を中心に経済活動そのものを活気づけるのはかなり現実から乖離していると思います。大企業である良品計画が来れば地元の雇用が増えたり、地元の名産に特化した商品づくりも約束してくれたのだから、地産地消にも協力しており、地元に利益は確実にある。しかも、固定資産税や法人市民税だってある。そういう可能性を消してしまいました。もちろん全国展開している企業だから東京のようなところにも利益は行くのでしょうが、基本的には地元に利益をもたらします。この記事での大きな結末が「地産地消」になっているのは、残念ですが、学者の方が書いているにしてはものすごく弱いと感じました。
1. さて、そもそもからの話ですが、地方自治では、いろいろな人を対象とします
経済的に活躍している人もいるし、高齢者、障がい者、子どもなどさまざまです。そのさまざまに応じて、利害も関心も異なります。答えは、一気通貫にはいきません。それを粘りづよく説明し、理解を求め、合意を得ていくのが、行政経営者の役割です。
私の友人で市長だった人に、ある時、いつも政策に反対されて、「いい加減にしろ」と思わなかったですかと聞いたところ、「人の意見には、それぞれ背景や思いがある。反対意見にこそ注意すべき大事な意義がある」と言われてしまいました。そういうことだと思います(結局、その市長さんは、説得し、政策は通していきましたが)。
だから、「議会に絶望して」という理由が本当ならば、自治経営者としては、情けないですね。スジを通して説明し、何度も説得し、得にはひざを交えて談判し、そうやって、政策が決まっていくます。これはどこでもやっています。そこから信頼も生まれてきます。これはさまざまな人が一緒に暮らす地方自治ならでは仕組みですね。
2.きちんとルールを踏んで政策を行うのが地方自治です
これは本文に詳しく書きました。後から説明しようと思ったなどは、説明にはなりません。
ルールを守ることが、地域に暮らすさまざまな人々の思いを守ることになるからです。スピードという理由で、これを無視してよいとなったら、まるで北朝鮮や中国ですね。
他の町では、普通に議会にかけて、その合意をえて、決めています。それがなぜできないのか私には不思議です。もたもたせずに、執行部しっかりがんばれと言いたいですね。。
3.議員を侮ってはいけません
最近、ネットでは匿名をいいことに、人を馬鹿にする傾向がよく見られますね。地方議員さんは、その最たるものです。
では、自分の問題として考えて、あなたは議員になろうと思いますか。
多くの人はノーと言います。
理由はいくつもあります。下手をすると4年で無職になる。保険も年金も扶養手当も退職金もない。四六時中監視され、ネットでいろいろ書かれても反論できない。
いろいろ理由はありますが、自分ならできないことをやるなんてすごいと私は思います。しかも、何百人、何千人の支持を得ての話です。誰でもできることではありません。
大事なのは、そういう人をリスペクトし、その良さを引き出すことではないですか。良さを引き出せば、どんどん力を出します。もったいないですね。
やや感情的に言うと、「自分が議員になる勇気も力量もないのに、よく言うよ」ですね。
4.簒奪に合わないために
良品企画が、安芸高田市に、本気で入れ込んでいるのかは、私は分かりません。ただ、安芸高田市が、ひどい目に合わないためには、最低限、次のようなこと取り決められて、そのうえで出店されることが不可欠ですね。
・少なくとも10年は撤退しない(確約)
・安芸高田市の商品開発というのなら、良品企画は毎年一定金額を投資する(単に出店経費ではなくて)
・この商品をターゲットに商品開発していくというプロジェクト。そのための仕組み等が具体的に話し合われている。
最低限、これくらいは、すでに決まっているのでしょうね。抽象的での合意だけならば、売れ行きが悪ければあっという間に撤退します。こうした合意があるならば、きちんと説明すればよく、それで風向きは変わるのではないですか。
5.地消地産の意味(地産地消ではありませんよ)
これから、ますます私たちの暮らしは厳しくなります。日本全体の経済的な窮乏が背景になりますが、これまでならば、政府に要求し、文句を言っていれば済んだでしょうが、もう、それもできなくなります。
本文にも書きましたが、今後の生き残り戦略は、市民の当事者性です。一人ひとりが持っている、知識、経験、行動力を存分に発揮して、そこを活力に、新たな発見や発明が生まれてくる社会をつくっていくことだと思います。10年、20年かかるかもしれませんが、そうしなければ、日本は世界から取り残されてしまいます。
地消地産はその地域における市民の当事者性の実践のひとつですね。市民にパワーをつける方策です。
自治経営者に求められる能力は、こうした市民の力を引き出し、まとめ上げて大きなパワーにしていく能力ですね。
6.カンチさんへ
まじめな質問だと考えて、私なりの意見を書きました。書ききれないことも多々あります。私は名乗っていますが、ただ、私は、カンチさんを存じ上げていません。HPの上に、メール番号がありますので、私に一度連絡ください。ここはそういうページだとご理解ください。むろん、これは当事者間のことなので、個人名を外に漏らすような対応はしません。
私は、議員を侮辱したつもりはありません。ただ、多くの年配の方が立候補し、年間実働日数が4、50日くらいですか、その中で一般質問もろくにせず、居眠りを絶えずする様子には意見を挟みたくなります。もちろん多くの時間を割いて多くの市民の声を聞かれている方もいらっしゃるかと思います。そういう方は素晴らしいと思います。例え有期で選挙に落ちれば次はどうなるか分からないと言っても、派遣社員だって次はどうなるか分かりません。フリーランスも同様です。いくら世の中に名を知られるからと言ってもそれは先刻承知のこと、むしろ先生と呼ばれることに無上の喜びを感じる方だって数多くおられるのではないでしょうか。
プロセスを軽視していると感じたのは既に書きました。その中で経済スピードに触れました。こんなことをしていたら、中国や北朝鮮と同じではないか、ということですが、実は北朝鮮はともかく、中国にも良い点はあるのです。経済のことを考えたら、鋭く知恵のある者の独裁は民主主義に勝ります。中国の指導者が果たして鋭く知恵のある者であるかどうかはここでは触れませんが。ただ、株式会社の構造を振り返ってみれば、代表取締役には専決事項がありますし、民主主義社会の中でも経営能力のある者が引っ張っていくことは認められていますね。必ずしも独裁主義と民主主義の二元論では片付けられないと思います。確かにみんなの意見を反映できたら素晴らしい、しかし経済市場はそれを待ってくれません。インフレは否が応でもやってきて、当時進めていれば安く済んだものが今同じことを実行しようと思っても2割増し3割増し。残酷なものです。
安芸高田と良品計画の取り決めの内容は詳しくはわかりません。そこまで考えられていたら良いですね。
地産地消と地消地産の違いは知りません。不勉強で申し訳ありませんが。その理論は一般的なものですか?
また、議員になる勇気云々については、そもそも私は議員になるつもりはさらさらありません。ただ、そんな勇気なりなる気がどうの、がどうしたというより、「議員は市民の代表」なのだから常に市民の厳しい目に晒されるのは仕方ないのではないでしょうか?そして、市民は匿名により厳しい意見を言うことはアンケート等や市役所へのメールで保証されているのではないでしょうか?
以上、別に権力とは無縁の一市民の意見でした。もしも学者である松下様のお気に触ることがありましたらここにお詫びいたします。今後ともお身体に気をつけて良い研究をなさってください。
1.まず、あなたに、「私に一度連絡ください」と書いたのは、何も名前をここに示せと言っているわけではありません。
名前をさらすリスクは、理解しているつもりですし、若い人ほど、センシティブなことは知っています。
私が、前提にしているのは、どこのだれか分からない人とは、真面目な議論はできないので、お互いを知ったうえで、話を深めようということです。
これは社会では当たり前ですよね。日常生活や仕事でも、きちんと名乗って、話し合い、詰めた議論や相談をしています。
だから、メールで、やり取りして、そのうえで、ブログ上では、ハンドルネームでも、問題ありません。実際、そういう人もいます。
「気に障る」などということはなく、むしろ、メールが来るのを楽しみにしていました。いろんな世代や、いろんな体験を持つ人と、真面目な話をするのは、楽しいことだからです。発見にもなります。
だから、ぜひメールをください。もちろん、あなたの個人情報を外に漏らすことはあり得ません。
2.議員については、「あなた」は、カンチさんをさすものではありません。
安芸高田市のケースは、リアル(学会)では誰も相手にしていませんが、ネットでは一定の盛り上がりがあり、そのなかで、地方議員に対する無知や偏見に基づく発言が多いからです。
「議員が市民の厳しい目に晒される」のは当然ですが、基礎知識(これは中学校レベルですが)の欠如した発言が目立ちますね。
それもありますが、何度も書いていますように、私たちの社会の基本は、「個人の尊重」(憲法13条)です。人はだれでも価値があり、その優れたところを伸ばしていくことで発展させていく社会です。
他者を馬鹿にし、軽く見るような行為は、人としては、していけないこと、恥ずかしい事です。
そういう意味で、一般論として書いたので、誤解を与えたようなので、書き方を注意すべきでした。すいませんでした。
3.会社と自治経営は違います
会社員の方から見れば、社長が決めて当然ではないか。即断即決しなければ、後れを取り、競争に負けるのではないかと考えると思います。
おそらく、多くの人が誤解しているのは、ここだと思います。
でも、市長は、会社の社長と違います。これは本文にも詳しく書きましたが、地方自治では、市長には重要項目の最終決定権がないのです。
決定権は議会にあり、市長は「これをすすめたい」と提案するだけです。市長は議会がOKと言わないと決められない存在です。
ここを誤解すると、専決処分を誤ります。
他方、北朝鮮や中国は会社の社長方式ですが、その分、スピードや推進力はありますが、だれも止められない怖さがあります。
日本のなかでも、中国のようなやり方を期待する声もありますが、少なくとも地方自治は、まったく妥当ではありませんね。
それは、地方自治が、弱い人、声を小さい人に寄り添う仕組みだからです。その分、時間もかかるし、決定も中和的になります。
分かりやすく言うと、地方自治は福祉や助け合いの論理で動いているので、会社とは違うのです。
4.地消地産は、私のブログの2つくらい前の記事に、「漏れバケツ理論」というのがあります。宮崎に小さな町の事例が出ているので、分かりやすいと思います。
5.繰り返しになりますが、せっかく、こうしたことに関心を持ったのですから、一緒に議論を続けましょう。メールなら、もっと詳しく、基本的な事柄やあなたの議論を発展させることもできると思います。メール待ってますよ。