空き家の様子を実際に見る実態調査をやってみると、空き家問題の別の面が見えてくる。
住宅・土地統計調査では、全国の空家率は13.5%にもなる。100戸のうち、13戸は空家という数字は、これは実感とあっていないだろう。統計的にはそうかもしれないが、いわゆる「空き家」が、地域にこんなにあるなどというのは、実感とはずれている。私が住む三浦半島は、とりわけ空家率が高いとされる。たしかに注意して歩くと、いつ通っても、カギがかかったままで、洗濯物が干されたり、窓が開けられところを見たことがない家が、ポチポチとあるが、これはどこかに空家はないかと、あえて探してみて初めて気が付くものである。これは、調査でいうところの空き家と私たちが問題と考える空き家との違いである。私たちが問題にしているのは、管理不全の空き家である。
現時点で大半は、こうした管理されている空き家で、おそらく家の中には、家財道具や仏壇などがあるのであろう。それらを守るためにも、きちんと管理されているのだろう。しかし、こうした空き家も、管理する人がいなくなれば、いずれ管理されていない空き家に移行する予備軍である。
空き家と管理不全の空き家の違いは、そうなった原因についても微妙に違ってくる。「なぜ空き家になったのか」については、国土交通省の調査があり、それに準拠して、各自治体でも調査しているが、「なぜ管理不全の空き家になったのか」については、きちんとした調査はない。これは管理不全の空き家そのものが、個別自治体ごとになると、そう数があるわけではないためだと思われる。これらを集大成するのは、国や県の役割で、早期に、こうした調査が行われることを期待する。
空き家になった理由から推察すると、管理不全の空き家になった理由は、次のようなことが考えられる。
①だれも管理する人がいなくなった場合。居住者が死亡して、相続放棄があったり、あるいは、戸籍上は相続人はいることになっているが、どこにいるかもわからず、管理する人そのものがいないため、管理不全になった場合である。
②管理する人が病院に入り、あるいは遠方に住んでいるため、事実上管理ができない場合。これはやる気があるが、事実上できない場合と考えてよいであろう。
③相続人間で意見が統一できず、管理人が決まらない場合である。これは①の派生形といえるかもしれない。
③経済的理由でできない場合。これもやりたいが、事実上できない場合で②の類型にも入る。補助等が対策になってくる。
④管理しようという意識がない場合。モラルの低下もあるが、病的・福祉的対応が必要なケースもある。
こうした多様な原因ごとに、それぞれ違った対応策が必要になる。勧告、命令、代執行で対応できないものもある。
空き家問題は実に根が深い。ここではそもそも不動産とは何かというも問われている。もともと不動産（とりわけ土地）は、財産であり、それを守るために、歴史がつくられてきた。不動産をめぐって、日本ではずっと戦いが行われてきた。それほど不動産は重要なので、不動産の管理や処分のための仕組みは、重厚である。事業を行うため所有者の確定のために、多大な時間と労力を使っているのはよく知られるようになった。相続財産管理制度や不在者財産管理制度は、重装備で厄介だし費用もかかる。
そもそも不動産所有権の放棄もできないとされている（昭和４１年８月２７日付民事甲第１９５３号民事局長回答）。無主の不動産は、国庫に帰属するという法律（民法２３９条２項）もあるが、国は簡単には引き取らないという運用になっている。ところが、今日では、不動産が負債になってきた。田舎の不動産を相続したが、使う予定もなく、税金ばかりかかってしまう。もし、その不動産が原因で誰かに被害を与えたら、法外な損害を取られるかもしれない。いっそ不動産を放棄したいと考える人も増えてくる。不動産の持つ意味が変化したのに、それに対応した制度が整っていないというのも、管理不全の空き家問題の原因になっている。
この問題は、おそらく千年、二千年と続いてきたしくみを見直す試みであり、ひいては国のかたちにも絡む大きな話なので、どこからとっかかっていいか、呆然としてしまうが、私は、地域という観点から考えるのが役割なのだろう。いずれにしても、大きな話になってしまった。
