松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆クレーマーと政策論の距離(富山市)

2016-08-06 | 1.研究活動

 今年の富山はやはり暑かった。北陸というと雪のイメージで、確かに冬は寒いが、実は夏はとても暑い。東北の夏も暑いが、やはり北陸のほうがずっと暑いだろう。その富山で2泊3日、自治体と法務の問題を考えた。

 最近、各自治体に弁護士さんが任期付きの臨時職員として採用されるようになった。これは役所・住民側の事情と弁護士側の事情が合致したためだと思う。かつては、対住民との関係では、「そこを何とか」で済んでいたが、住民サイドも、あるいはそれを受けた役所内部においても、課題を法的な見地からきちんと整理することが求められるようになったためである。政策法務では、「守りの法務」とされる分野である。

 富山市の職員弁護士さんは、福島武司さんである。弁護士の実務経験二十数年(?)のベテラン弁護士さんで、事務所を畳んで、任期付き職員になったとのことである。福島さんの所属は、研修所付きで、いくつかの研修を担当するとともに、自らも研修講師として法務研修などを担当しているようだ。メインの仕事は役所内部の法務相談で、年間では500件以上の相談があるらしい。口コミで評判が広がり、職員が気楽に相談に来るようだ。実は職員だけでなく、私も難しいことがあると、福島さんに相談し、ヒントをもらっている。

 だから富山に行って、楽しみなことの一つは、社員食堂で270円のそばを食べながら、一緒に話をすることである。自治体現場から離れてだいぶ時間がたつので、リアルな自治体の問題意識はとても参考になる。

 福島さんによると、人気の研修はクレーマー対策だそうである。この講座を開くと、たくさんの人が参加する。それだけ切実な問題だということだろう。たしかに改めてネットで調べてみると、クレーマー関連の記事は山ほどある。毎日、役所にやってきて、あちこちの窓口で文句を言い、怒鳴り散らす人がいるといった記事であふれている。クレーマー対策の研修をやりますという人もたくさんいる。

 私が役所にいたことは、クレーマーに強いおじさんが必ずいて、クレーマーを蹴散らしていた。そのうち、「にこやかで親切な役所キャンペーン」でこうした職員は、駆逐されてしまった。同時に、どこの職場も女性の比率が多くなった。男女平等とは言うが、男女の体力差は否定できない。威圧的なクレーマーも、女性にはより威圧的になる。とりわけ保育園のようなところは少数職場で、クレーマーに対応できる資源がもともと十分でないので、より問題が深刻化しやすいようだ。

 クレームは宝だという。確かにその一面はあるが、みんなの迷惑という一面もある。意味のないクレームのために、職員が1時間時間をとられたら、税金の無駄遣いである。私の税金をそんなことに使わないでほしいと思う。役所の人はまじめな人が多いので、クレームを一人で抱え込み、それが原因で鬱などになったら、ご本人や家族も気の毒である。社会的にも大きな損失である。市民は主権者であるというのもその通りで、権利を主張することは結構であるが、だと言って、権利の乱用は許されない。一面的な議論は大人の議論ではない。

 そうした損失を減らす工夫を正面から考えるタイミングになったということだろう。権利とその乱用の境目は難しいが、その判断を個人の研鑽だけでなく、組織的に行う仕組みが必要である。この点は、とても大きな課題なので、今後の研究としたい。

 富山は今日から富山まつりである。しかし、私の旅は、いつもまつりの前か、終わった後である。

 

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