松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆LGBT法(2)この法律は女性を不安に落とし入れるのか

2023-06-26 | 1.研究活動

 法律ができて、LGBT法をめぐる狂騒は、収まってきている。極端な事例を取り上げて、はやし立てるやり方は、長続きしない。

 ただ、LGBT法の一連の動きは、興味深かった。普段から、男女共同参画にお金を使うのはとんどもないと言っている人たちが、LGBT法から「女性を守る」と言っているのは、よくわからないかった。要するに、単なる理由付けなのだろう。

 これはなぜLGBT法に反対なのか、理由を明確に言えないためだろう(女性トイレが問題なら、その対策を講じればよい)。こういう主張をする人の年代や暮らしぶりは興味深いが、ここでは論じない。

 少し落ち着いてきたので、この法律をソフトランディングする方向性を考えていくのが、丸投げされた自治体の役割である。

 1.まず、この法律は、基本法型の理念法なので、方向性は示されているが、具体的なことは今後である。具体的なことが何も決まっていないのに、法律をつくるのはおかしいという議論があるが、それは間違いである。第一、方向性が明確でなければ、具体的な仕組みはつくれない。

 2.したがって、この法律には、外形男(心は女と言えば)が女子トイレに入ってよいなどとはどこにも書いていない。

 3.この法律ができたので、LGBTの権利ばかり優先されて、多数者の平穏な暮らしが妨げられるという議論もあるが、これも誤りである。どんな権利も内在的な制約や公共福祉による制約がある。表現の自由があるからと言って、何でもかんでも表現できるものではない。おかしな表現がはびこるから、表現の自由を認めるべきではないという議論が正しくないからである。内在的制約や公共の福祉との接点を探る作業が大事で、今後のガイドラインによる。

 4.最大の問題は、過剰反応である。過剰に反応して、外形男(心は女といえば)が女子トイレに入るのを妨げることに躊躇するという問題である。この問題は、たしかにある。同じ問題は個人情報保護でも起こった。

5.この懸念があるからと言って、LGBT法はやめるべきだと議論は正しくない。個人情報保護法できて過剰反応があるから、個人情報保護法はつくるべきではないという議論と同じである。その接点を詰める作業が必要で、今後のガイドライン作りでこれが行われる。

6.制定者は、この法律は社会の基盤と言っている。たしかにその通りで、憲法の基本規定は、憲法13条であるが、憲法13条の個人の尊重の意味は、一人ひとりの個性が最大限尊重されることが、誰もが平穏に暮らせる社会をつくる基盤であるというものである。これは日本国憲法がめざす日本の生き残り戦略でもある。

7.一人ひとりが、その持ち味を発揮して、新たな発見や発明をして、社会を豊かにしていく。人しか資源がない日本では、一人ひとりの知恵や行動が生き残る道である。みんなが同じことをしていたら、世界の国々に負けてしまう。一人ひとりの持ち味を最大限に活かせるかどうかで、私たちの未来が決まってくる。

8.法律第1条の目的には、「性的指向及び性同一性の多様性を受け入れる精神を涵(かん)養し、もって性的指向及び性同一性の多様性に寛容な社会の実現に資すること」を目的とすると書かれている。多様性を受け容れる社会が、日本の生き残り戦略という前提で、「多様性を受け入れる精神を涵養していく」ための法律である。だから、この法律は、社会の基盤をつくる法律と言える。

9.身体男心は女の人にとって、男風呂に入るのは、おそらく苦痛なのだろう。しかし、社会のルールとして、男風呂に入らなければいけない。そこには、葛藤もあるだろう。この法律は、こうした人たちが、そうした葛藤を持っている悩んでいることに思いをはせ、理解する法律である。そこから、次の落としどころが生まれてくる。

10.ネットを見ていて感じるのは、自分は病気をしない、貧困にならないと思い込んでいる人が多いことである。しかし、誰だって、いつでも病気になり、一転して、絶望のどん底に落とされる可能性はある。そう考えると、他者のことも他人事ではなくなる。これが多様性理解の近道であるが、現状十分でない反面として、このような法律が企図され、賛成多数で、制定されたのである。

11.誰もが住みやすいまちは、AかBかの二分法ではつくれない。歩み寄りや妥協、漸進的な進歩になるが、その分、その実現は、簡単なことではない。知恵を絞り、工夫しながら、一つずつ実現していかなければいけない。その困難な作業をしていく役割を私たち住民に投げかけたのがこの法律であり、それを支えるのが自治体の役割なのだろう。

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