松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆議会・議員の役割が変わっていく(新城市)

2015-08-18 | 1.研究活動

 新城市での講演の補足。これからは地域課題の解決は、首長や議会が決めて、住民に理解を求めるというパターンだけではやっていけないだろう。住民が議論して、ある程度議論して、最後は首長や議会が決めるという、新たなパターンでやっていく必要がある。これは議会の役割が減少したというのではなくて、立ち位置が変わってきたということであり、政策決定を地域に議論を委ねれば委ねるほど、議会の役割は、重要になっていくと思う。

 敷衍しよう。
 今回の住民投票で、小規模庁舎案に票が多く集まったのは、穂積市長も、的確に認識しているように、「国力の衰退、人口減少、地方消滅論の蔓延、社会保障の不安定化、安全保障体制への挑戦などなど、生活をとりまく視界不良状態」などの住民の将来不安が、現れたものであろう。

 こうした住民の不安は、解消するというよりも、今後、ますます増えてくるだろう。こうした社会状況の中で、自治運営は、ますます困難になる。とりわけ新たな負担を伴う決定をますます困難にさせる。仮に首長や議会が決定しても、住民投票などで、簡単に、ひっくり返されるリスクが増えてきたということである。こうした中で、最悪なのは、リスクを取らない市政運営に走ることである。首長や議員は安泰であるが、地方自治全体のじり貧は明らかである。

 こうした社会状況をポピュリズムと批判するは簡単であるが、指摘だけでは何の問題も解決しない(地方自治は具体的な実践がだいじで、実際に汗を流してなんぼである)。ポピュリズムは、パワーを持っているので、これをいなし、まちづくりのパワーに転換する道を探ることになる。この場合、最悪は、ポピュリズムを煽るリーダーである。リーダーたちに求められているのは、こうした不安を煽るのではなく、この住民間にある漠然とした不安を前向きなまちづくりのパワーに変えていくことである。何とかしなければと思い始めた人たちをまちづくりの担い手に転換していくことである。これは容易なことではないが、こういう時代だからこそ取り組まなければならない(そうしないと私たちの未来がないということである)。

 それには、自分たちのまちのことを考え始めた住民が、その思いを燃やし続ける道を探ることである。私の提案は、その試みとして、地域施設の問題を考えてみたらどうかというものである。地域にはいくつかの施設があるが、これを地域で管理し、その将来を考えてみるという提案である。身近なのでわかりやすい。

 地域の施設を地域住民が管理する場合、大事なのは、組織と仕組みである。指定管理を受けるには、法的には法人格は必要とされていないが、現実的には、一定の組織でないと難しいので、施設を管理する組織を考える。例えば、NPOをつくったらどうだろう。つまり地域コミュニティでは、目標が多元的なので、その分、腰が定まらないが、具体的目標を実現するのにふさわしい組織形態や民主的な決定ルール、責任体制を考えるのである。

 この際、特に留意すべきは成功体験である。うまくいったという自信が次につながる。二度とやだと考えると、住民は地方自治に近づかなくなる。そこで、地域施設の管理にあたっても、成功体験である。地域住民が手に余るような施設ではなく、うまくいきそうで、大きな課題がなさそうというものを選ぶのである。議会だけでなく、当然、行政のバックアップも必要である。これも協働である。

 その成功体験を前提に、本丸である地域における施設の将来計画づくりを考えるのである。その前提には、きちんとした財源の見通しと公共施設の老朽化等の展望が不可欠である。その結果、あれもこれもというわけにいかないから、施設の優先順位や統合の可能性などを住民間で考えることになる。

 ここでも成功体験が必要で、高望みはすべきでない。この検討の中では、みんなで考える機会ができたら成功と考えるべきだろう。住民間で、施設の優先順位や統合などを決定できたらすごいが、そうは簡単にはいかない。遅れてくる市民の問題も出てくるし、なぜおまえたちが決めるのだという地域組織の正当性が問われるからである。ポイントは、住民間で大いに議論し、問題が実に複雑で困難であることを理解することで、そのためには相応の仕組みとその時間が必要になる。

 ここでは専門家としての議員、地域代表としての議員の役割が求められる。正確で豊富な情報をわかりやすく伝えるのが主たる役割である。あれもこれもというわけにはいかないという厳しい現実を伝えるのも議員の役割である。

 住民間の議論の結果、A案,B案、C案ができるが、それぞれが良さと弱点を持っている。完璧などという案は、地方自治ではありえない。ここでもいくつかのルールが必要になるだろう。例えば、①時のものさし。検討する時間を最初から決めて、その時間で終わりにするという合意である。②手戻りしないためのいまどこにいるのか道中マップも常に示していくべきだろう。③何が論点で、どこまで議論したのかが簡単にわかる、一覧論点表などもつくるべきだろう。これをアドバイスするのも、議員の役割である。

 A案,B案、C案はできたが、どれにするか。住民間では決められないだろう。当事者ゆえに決定しきれないという問題である。そこで、やや離れた位置にいる議会、議員の出番となる。何といっても選挙で選ばれたといった民主的な正当性は強みである。ここで、議会・議員の決定は厳しいものになるだろう。みんなを満足させるものはできないからである、ここで、みんなにいい顔をしたり、一人だけ抜け駆けして、いいことを言ったらぶち壊しになる。辛いかもしれないが、共同経営者としての議会、議員の頑張りどころだと思う。

 いろいろと述べたが、要するに、議員の役割は、市民が自ら学び、考えることをサポートする役割にシフトしていくということである。また住民で議論し、最後は議会が決めるという政策形成パターンは、ほとんど未開でルールも決まっていないし、先功事例もほとんどない。しかし、今回の住民投票が発信しているメッセージは、今こそ、こうした新たなルールを模索すべきということだろう。議会・議員にとっては、手探りで、難しい道であるが、新城市だからこそ、取り組めるし、ぜひ取り組んでんでもらいたいと思う。

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