松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆附属機関条例主義を考える①長の組織編成権との関係で

2018-12-29 | 1.研究活動
 地方自治法138条の4第3項では、地方公共団体は審査会・審議会等の附属機関を法律または条例に基づき設置することができると定められており、地方公共団体の長が独自に附属機関を設置しようとする場合には条例によらなければならないこととされている。
 附属機関条例主義であるが、ここでは、長の組織編成権の観点から考えてみよう。

1.実は、この問題は、附属機関だけの問題ではない。
 ①支庁、支庁出張所、地方事務所、支所又は出張所の設置(155条)、②保健所、警察署その他の行政機関の設置(156条)、③地方公共団体の長の直近下位の内部組織の設置及びその分掌する事務(158条)、④地域自治区及び地域協議会の設置(202条の4、202条の5)も類似の問題である。その他、⑤副知事、副市長の定数(161条)、⑤地方公共団体の職員の定数(172条)も延長線上の問題である。
 つまり、自治体の長の組織編成権の問題なのに、なぜ議会の条例によることが求められているのかという問題である。

2.この問題の意味を理解するには、地方自治は二元代表制を採用していることから出発しなければならない。
(1)国は議院内閣制である。
 国は、国会は選挙で選ばれた国会議員により組織される国会が最高機関である(憲法㊶条)。一方、内閣については、内閣総理大臣は国会で指名され(安倍さん)、「内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ」(66条3項)。内閣は直接に国民に責任を負うものとはされていない(議院内閣制)。
 この議院内閣制では、内閣の組織について、国会が定めることができるのは、当然ということになる。

(2)地方は二元代表制
 他方、地方は、二元代表制である。議会を構成する議員のみならず、市長も、ともに直接住民が選ぶ。二元代表制では、2つの住民代表の統治機構があり、両者が自治体の共同経営者として、互いに政策競争をすることが想定されている。
 つまり、市長も市民によって選ばれた存在で、長は議会に勝るとも劣らない民主主義的正統性を持っている。だから、長は独自に、組織編成権を持っていて、そこに議会が関与するのはなぜなのかという問題である(逆に、議会の組織について、長が関与しないのは、不自然だとはだれも思わない)。

3.考えられるのは、二元代表制といっても、議会の優位を認める方が合理的という評価があるということである。
 ①議会と長とでは、民主的正統性の程度が違う(議会のほうが、多様な意見を反映した、あるいは反映できる組織体だる)、②議会と長の権限でみると、予算、条例等の最終決定権は議会にある。自治体経営の最終決定権は議会にある。

 次のような規定や事情もそれを裏付ける。
(1)住民の権利を制限し、義務を課すには条例でやること
 規則でもできるのか、考え方が分かれていたが、立法的に解決した。これは規則よりも条例のほうが民主的正統性があるという言うことなのだろう。
(2)役所内部における市長の権限の強さ。人事権等をてこに、その権限の強さは言うまでもないであろう。市長も住民によってえらばれて、民主的な存在として選出されているが、個々の政策決定の場面では、専制に陥りやすい。民主主義の要諦が価値の相対性だとする
と、議会のほうは、一人親方の集まりなので、上位下達にはならない分、民主的と言える。

4.長の組織編成権に議会の関与があるもののうち、
(1)支所、保健所等は、市民生活に密接に関係する。市民代表の市長が提案し、市民代表の議会が議決することで、ともかくオール市役所で決定するのにふさわしいものといえるだろう。
(2)長の直近下位の組織、つまり部の設置は、ある意味、市民生活に密接に関係することと言えないこともない。
(3)附属機関について、中には市民の権利義務に直接にかかわるような審査会等もあるが、そうでもないものもあり、後者(訴訟になった市民参加の懇話会のようなもの)に焦点を当てると、議会を関与させる意味が分からず、138条の4は、行き過ぎで、無限定にすぎると思う。

5.長の組織編成権と議会の関与
 二元代表制から考えて、市長の組織編制権に、議会が関与するのは、変則的・例外的なことであるから、これら規定の解釈や規則への委任事項を考える場合、市長の組織編成権に関わる条例の枠付けは、限定的・制約的に考える必要がある(たとえば、条例から規則への白紙委任はできず、個別・具体的であることが求められるが、その個別・具体の内容は、厳格に考えなくてもよいということになる。
 
6.附属機関条例主義の解釈
 以上から考えると、附属機関条例主義を金科玉条のごとく、何でもかんでも条例にしなければいけないというものではなく、この規定の趣旨、目的、効果等から考えて、論理解釈して、条例で定めなければいけない附属機関と要綱で定めてよい附属機関があるというのが、私の立場である。
 そのメルクマール等については、『現代自治体論』(萌書房)に書いたので、ここでは省略しよう。

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