安易な条例づくりがはびこっている。特に議会提案条例には、そう言った条例が散見される。基本は、条文をつくれば条例だと、誤解している人達がいるということである。
最近話題になった埼玉県の埼玉県虐待禁止条例改正案は、小学3年以下の子供を自宅や車内などに放置することを禁じ、4~6年生については努力義務とする内容である。
これは改正条例で、もともと
(養護者の安全配慮義務)第六条 養護者(施設等養護者及び使用者である養護者を除く。)は、その養護する児童等の生命、身体等が危険な状況に置かれないよう、その安全の確保について配慮しなければならない。
3 児童を現に養護する者は、その養護する児童の安全を確保するため、深夜(午後十一時から翌日の午前四時までの間をいう。)に児童を外出させないよう努めなければならない。
という規定があった。今回は、それに加えて、
(児童の放置の禁止等)第六条の二 児童(九歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にあるもの に限る。)を現に養護する者は、当該児童を住居その他の場所に残したまま外出 することその他の放置をしてはならない。
2 児童(九歳に達する日以後の最初の三月三十一日を経過した児童であって、十 二歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にあるものに限る。)を現に 養護する者は、当該児童を住居その他の場所に残したまま外出することその他の 放置(虐待に該当するものを除く。)をしないように努めなければならない。
という規定を追加したものである。
典型例は、子どもを車に置いたままパチンコに行って子どもが熱中症で死んでしまったケースだろう(ただし、この事故を受けて、パチンコ業界では、警備員による車の見回りをやっている)。
ただ、議会の答弁では、「子どもだけの登下校や短時間の留守番なども禁止行為にあたる」ということになって、多くの市民の批判を呼んだ。これでは、話にならず、結局、委員会議決を経ているのに、撤回となった。
この条例づくりに、安易な条例づくりの弊害が出ている。
(1)立法事実 立法事実があいまいだから、「こどもだけの登下校も対象」みたいな話になる。なぜ、この条例をつくろうと思ったのか、訳があるはずである。その訳をつきつめれば、この条例の範囲や表現方法も限定されてくる。他方、訳もなしに、頭のなかで考えたのなら論外である。
条例をつくるには、既存の法律では足りないことが前提である。虐待については児童虐待防止法で定めているが、これでは足りないのか。ただし、県は児童虐待防止法で可能だとして「(新たに)県として、条例を提案するというニーズは持っていない」(県知事)とのことである。
(2)政策事実 子どもだけの登下校や短時間の留守番なども禁止行為にあたるとしたら、それをせざるを得ない人へのサポートの仕組みが必要である。どのように準備し、どのような対応をしようとしたのか。
「条例案の提案までに県の執行部に意見を求められたことは一切なく、改正案の内容についての説明もなかった」(県知事)とのことで、条例を動かす行政部局との連携・相談もなかった。この点の確認を欠いた条文づくりになったようだ。
(3)適正手続き 市民の意見聴取は前提である。パブコメもやったらしいが、それについては公表していない。この面からも問題がある。
埼玉県議会は、ヤングケアラー条例のような全国初を提案したが、今回も全国初を意識しすぎたのだろう。
政策法務側の問題もあると思う。議会に対して、安易な条例づくりを勧めていないか、条例づくりが(1)から(3)の内容、手続を踏むものであることをきちんと説明しているのか。研究者側も問われているのだと思う。