「おいおいお前~ええ女連れてるんじゃん」
「お前のようなやつにはもったいないと思わないんですかぁ?」
「ほんとほんと、彼女もさぁ、こんな変なやつよりも、俺達のほうが良くない?」
やっぱりか……と思った野々野足軽。いや、むしろ実際この時代、そんな安安と他人に絡むなんてかなりの馬鹿でも無い限りやらない行為ではある。だって誰が撮ってるかわからないのだ。そしてSNSでも上げられたら炎上なんてして人生終了コースもありえなくはない。
けどどうやらここには勇者がいた。いや『バカ』という勇者だけどね。そして問題は奴らが絡んだやつもまた『バカ』という勇者なんだよね。とりあえず自分をイケメンだと思い込んでるやつと一緒にいる美女は絡んできた男たちを一切無視してる。
いやあれは無視なんて優しいものではない。存在を認識してないという感じだ。野々野足軽はなんかちょっとあの美人のお姉さんもちょっと怖くなった。けど――「ハハッハハハッ」――と気持ちいいくらいの高笑いで思考が仮面を被った危ない奴に移る。
「なにがおかしい!?」
美女にまったく相手にされてない事を笑われた――とでも思ったのか、絡んだ男の一人がそんなふうに声を荒げる。けど仮面をつけた彼は一向に怯むことはない。むしろ余裕いっぱいである。
一回脚を組み直して、更には上になってる太ももに肘をつけて前に体を傾ける。そしてその肘の先の手の甲に顎をおいて「ちっちっち」という。もうこの時点でこめかみがピクピクとしておかしくない。
実際絡んでる奴らはすでにそうなってる。さらに決め手になる一言を彼はいう。
「自分の顔、見てみな?」
プッチーン――である。いや、言われた絡んだ奴ら……だけじゃなく、この店にいてその成り行きを見守ってた奴ら全員……男性の皆が一斉にこう思っただろう。
「「「お前にだけは言われたねーよ!!」」」
――ってね。だってだ。なにせあいつは仮面してるのだ。いやむしろもっというと『変な仮面』をつけてる。そんな奴に言われたら血管ピッキーンとしても何も不思議じゃない。
けど野々野足軽だけはわかってる。彼があんな事を言う理由。そこに一片の曇も無い理由……それはあの人が自分は『理想のイケメン』になってると本当に思い込んでるからだ。野々野足軽は今また思ってた……
(なんて恐ろしい力なんだ……)
――ってね。
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