ぐうぅぅぅ――
そんな風な音が夏空に響く。夏空だけど空気的にはさわやかとかじゃない。田舎だし、山の中だし、本当ならさわやかな状況のはずだ。けどここはそんなことは全然ない。小頭は嫌な感覚をずっと感じてる。まるでねばつくような、ねっとりした空気。けど日本の夏なんだから湿気だろ……とか、そういうのではない。だってこっちはそこまでねばつく空気は感じてなかった。関東よりももっとさっぱりしてると小頭は思ってた。けどここにきて全身に沸き立つ鳥肌と嫌な空気……これはきっと勘違いじゃないだろうと思ってる。
そんな中の気が抜けるような音。一体何? と思って隣を見ると、女鬼が「へへっ腹減っちった」――とかいってる。美人な顔で無邪気に笑うその姿は鬼でなかったら思わず惚れてしまいそうなほどだった。
「お腹、ですか? 何かあったかな?」
小頭は小さなポシェットをガサガサとまさぐる。けどそれを止めて鬼女はこういった。
「いいよ。だって、食料は目の前にたくさんあるだろ?」
「え?」
次の瞬間だった。風が吹き抜けたと思ったら、鬼女の姿は消えてた。そして魑魅魍魎の行列に突っ込んでいって彼女が行った部分が大きな衝撃で一瞬で見えなくなった。鬼女がなにかしたんだろうけど、小頭には何をしたのかなんて全く見えない。けどズドドドドドドド――ととてつもないことが目の前で起こってる事は理解した。
「えっと……止めなくていいの?」
「あいつはああいうやつだ。それに……」
何やらは鬼男が抱えてる小頭をジッとみてくる。なんだが居心地が悪い。おろしてくれてもいいんだけど、でもそうなると逃げる時にまた抱えられることになるし、鬼男は小頭の重みなんて全くもって感じてないようなので、甘えることにしたんだ。確かに最初は兄以上に近くに来られることに拒否感があったが、力ではどうせかなわないのだ。なので諦めて受け入れてたら、馴れたみたいだ。
「あいつが腹を空かせてると、お前を食うかもしれないからな」
「え……」
一瞬、鬼男が何を言ってるのかわからなかった。だからちょっとおどけた感じで「そんなバカなぁ~」とか言ってみる小頭。けど鬼男はただ小頭を見るだけだ。それが真剣なまなざしで……え、マジ? と頭で思う。けど小頭だって考えた筈だ。鬼なら、人を食べるのか? と。そしてその最初の犠牲者が兄である野々野足軽ではないのか? と。実際違った訳だけど、「鬼」なんだし、人を食べるのも無いわけじゃないのかもしれない。
「彼女にはお腹いっぱいになってもらおう」
「それがいい」
哀れな魑魅魍魎達に野々野小頭は静かに黙祷をささげた。