一体何が起きたのか。そして兄である野々野足軽たちに何があったのか……鬼は走りながら語ってくれるらしい。どうやら鬼も、わかってることは完全ではないらしい。
完全ではないというのはどうして野々野足軽が鬼に入れ代わったのかの理由が100%ではない……ということだ。けどどうやらある程度のことはわかってるらしい。それには……
「俺達には、入れ代わった相手の記憶がある程度ある」
ということだ。それでどうやら朝起きた時、小頭を見て「こいつが妹か」とわかったらしい。そして母も。じゃあそこに愛情はあるのか? と小頭は聞いた。だって相手は鬼である。鬼といえば凶暴で凶悪。物語ではだいたい悪に染まってるの種が鬼ではないだろうか? まあ最近は鬼が主人公とかの作品とかもあるとは思う。けどそんな作品でも、鬼の中で主人公だけ特殊とかだろう。
つまりは鬼は凶暴で凶悪なのは前提なのだ。実際こうやって抱かれても緊張してしまう。そもそも異性に触られる……という経験があんまり小頭にない……というのもある。
なにせ小頭はまだ彼氏なんていたこと無いのだ。だからこれだけ近くに来たのは兄である足軽以外だとこの鬼が初めて……ということになる。
(ないない、これはノーカンだから)
いくらこの鬼が足軽の代わりにここにいると言っても、小頭にとってはそうは思えない。ただ一つ、一人の別の存在としか思えない。だからこそ、気にしない、気にしない……と思えば思うほどにその兄とは違うたくましい腕、厚い胸板、野々野小頭の体を包み込むそれを意識せずにいられないというか? でも相手は鬼だがら……と思い込む。
(でも、鬼も私達とそんなに変わらないのかも?)
そんなことをちょっと思ってた。だってこうやって原因の場所に行くことになったときも、二人はちゃんと謝ってくれたのだ。鬼ならその屈強な体から繰り出す暴力で言うことを効かせるんじゃないか? と小頭は思ってた。でもそんなことはなかった。
鬼たちは目覚めたときからずっと、理性的だ。そしてどうやらただの暴力だけの野蛮な存在でもない。
「記憶があるが気色悪い……というのが素直な感想だ。なにせこの記憶は強制的に植え付けられてる」
「強制的?」
それってどう言うことだろう? と小頭は思った。それに気色悪いって……なんか失礼であるともおもった。けどそれはしょうがないのかもしれない。だって強制的に植え付けられた記憶で愛情を持てるか? と考えたら無理だろう。確かに自分で想像してみたらきっと気持ち悪い。
「だが、自分たちのやることはわかる」
「やるべきこと?」
え? なに? その言葉にはなにかちょっとした熱? があったような、そんな気がした。いつもはこの兄に成り代わってしまった鬼は感情を表にださない。けど今の言葉はなにかちょっとした期待といえばいいのか? そんなのを小頭は感じたんだ。