都立高専交流委員会ブログ

都立高専と城南地域の中小企業(特に製造業)との交流・連係を図り、相互の利益と地域社会・地域経済の発展を目指します。

ご報告 と 当面の活動の課題 / 学生海外派遣、コミュニティカレッジ 政策要望 など 

2012年09月02日 | Weblog
  ☆★☆☆ 大田支部 都立高専交流委員会 よりのご案内 2012. 9. 3 ☆☆★☆
 
 
 平素より、大変、お世話になります。
 
 7月17日(火)の「都立高専/産学交流会」
 8月6日(月)委員会運営会議以降の活動の進捗について、
 ご案内させていただきます。
 
 
1.本年度の 学生海外派遣 の スケジュ-ルの確定 について
2.11月支部例会/テクノシティ城南コミュニティカレッジについて
  (9月4日(火)午後1時より 理化学研究所 大森整 氏 と 打合せ)
3.東京都への政策要望/原案 と 政策対話のテ-ブル形成 について
  (須永様より、ご意見をいただきました。)
4.本年度の 中小企業家経営塾の 日程 について
4.都立高専図書館 中小企業家経営塾のコ-ナ- 書籍寄贈 について 
 
  
 
   本年度の 学生海外派遣 の スケジュ-ルの確定 について
 
 
 本年度の 中小企業家経営塾 学生海外派遣 のスケジュ-ルが確定いたしました。
 下記をご覧いただけば幸いです。
  http://blog.goo.ne.jp/ota-doyu-kosen/e/9438b982e353f84bd56933073218486e

 
 企業訪問は、
 大連アルプス電子有限公司、キヤノン大連事務機有限公司
 三菱電機大連機器有限公司、大連浅間模具有限公司 様 の 4社様
  最初の2社は本社が大田区、三菱電機では、現場実習もしていただきます。
 大連浅間模具有限公司 は、中小企業の日系金型メ-カ-です。
 
 そのほか、大連市政府、経済技術開発区(金州新区)管理委員会
 現地の工業高校、大連外国語学院日本語学院(学生との交流あり)訪問
 
 また、みずほコ-ポレ-ト銀行 大連支店長(大連日本商工会前理事長)
 日経新聞社大連支局長 のお話を伺うなど、
 
 大変、充実したプログラムとなりました。
 
 昨年は、大震災の余波を受け、事前学習に行き届きませんでしたが
 本年は、8月10日に、事前学習の機会を持つとともに、
  http://blog.goo.ne.jp/ota-doyu-kosen/e/53487f9cbaf3cf6f1c77ba48c7acddde
 学生の皆さんに、より多くのものをつかみ取る機会にしていただきたく
 学習文献を指定する学習指示を出しております。
  http://blog.goo.ne.jp/ota-doyu-kosen/e/539726268d2505318d9081f3a4ee4baf 
 
 
 
 
  11月支部例会/テクノシティ城南コミュニティカレッジについて
 
 
 11月支部例会 = テクノシティ城南コミュニティカレッジ(第6回)は
 
 下町深海探査基地始動
 「江戸っ子1号」プロジェクトと産学連携・オ-プンイノベ-ションの課題(仮題)
  http://edokko1.jp/
  http://edokko1.jp/docs/20120827_01_topics.pdf
 
 
 日程/11月16日(金)午後6時30分前後より、
 会場/大田区産業プラザ コンベンションホ-ル が 確定いたしました。
 
 深海挺「江戸っ子1号」プロジェクト 委員長の
 ㈱杉野ゴム化学工業所 杉野行雄 氏を中心とした人選を進め、
 
 このプロジェクトを共同で進める 海洋研究開発機構 の方などに
 ご参画いただくべく、杉野氏と打合せをしておりましたが
 
 この点で、いくらか問題が生じ、
 従来より、私どもの産学連携にご協力をいただいている
 理化学研究所大森素形材工学研究所 大森整 氏に、ご参画をいただくこととなりました。
 
 以下が、今回のシンポジウム の 講師/パネラ- となります。
 
 「江戸っ子1号」プロジェクト推進委員会
  株式会社 杉野ゴム化学工業所 杉野行雄 氏 (確定)
  東京東信用金庫 中小企業応援センター コーディネータ 桂川正巳 氏(予定)
 理化学研究所大森素形材工学研究所 大森整 氏 (確定)
 
 
■ 9月4日(火) 理化学研究所 大森整 氏 と 打ち合わせ
 
 直近ではございますが、
 このシンポジウムについての 大森整 氏との打ち合わせを
 9月4日(火)午後1時より 理化学研究所 板橋分所 にて行います。
  http://www.riken.jp/r-world/riken/campus/itabashi/index.html
 
 
 ご参加可能な方は、当方にご連絡ください。
     
  
 今回のシンポジウム
 産学地域連携によるオ-プンイノベ-ションのプラットホ-ム形成を
 実践的に進める一歩といたしたいと考えております。
 
 学生海外派遣(9月17日~)の前に、企画の概要を確定し
 運営体制づくりを並行して進めて行きたく考えておりますので、
 宜しくお願い申し上げます。
 
 
 
  東京都への政策要望/原案 と 政策対話のテ-ブル形成 について
 
 
 皆様にご案内させていただいた 東京都への政策要望/原案 を
 交流委員会のブログに掲載させていただきました。
 
 第一部が、
 世界経済のグロ-バル化 と 産業政策の地域化、分権化、補完化 を
 中間(広域)自治体の課題から扱った「総論」
  http://blog.goo.ne.jp/ota-doyu-kosen/e/d9e6d75d7dabcb012330a60dc28095e5
 
 第二部が
 公立大学法人首都大学東京への移管をめぐる問題点と高等専門学校のあり方
 地域産業コミュニティに立脚したオ-プンイノベ-ションのセンタ-形成という
 「各論」となります。
  http://blog.goo.ne.jp/ota-doyu-kosen/e/a78795e619194552326ef36b1ab7a621

 
 この「政策要望/原案」を作成した目的は、
 特定の政策要望を行政にすること(だけ)ではありません。
 
 むしろ、次世代人材育成、産業の担い手の生涯教育
 産学地域連携による地域産業コミュニティの将来ビジョン形成という
 地域社会の持続的発展に欠かせない課題について
 地域社会自身がコミットメントしていく機会をつくることにあります。
 
 そのために、必要な基本的課題について扱うことにより
 政策対話のテ-ブルを形成していくことが、本「政策要望/原案」の目的となります。
 
 
 この点について、
 学校の卒業生であり、この間の産学連携プログラムにご参加いただいている
 須永様より、下記のメ-ルをいただきました。
 
 
  7月17日「都立高専産学交流会」参加させていただき有り難うございました。
  また、会場の写真などのメールも送っていただきながら、
  お礼が大変遅くなってしまい恐縮です。
 
  また、8月6日の
  都立高専交流委員会の運営会議も拝聴させていただこうと思っていたのですが
  伺えず、残念に思っています。
 
  ところで17日にいただきました『東京都への政策要望/原案』
  今頃読み終え申し分けないのですが、
  常に地域産業の活性化を考えておられることに敬服致しました。
 
  政策要望の内容、私にはちょっと難しく全部が理解出来たとはいえませんが、
  グローバル化の中での地域産業の活性化のキーは
  財源的裏付けをもった地域分権にあると、私も思います。
  記載された要望が実現することを期待しています。
 
  また、雑感で済みませんが読ませていただき二点ほど思ったことがあります。
 
  1.・・・高専のあり方・・・の2項のなかで
  
  「本来、『高等専門学校の教育は……「7年間を要する高校段階から大学工学部レベル
  の教育を、重複なく5年間で完成する一貫教育を行う」とするもので……」とありましたが
 
  多くの高専に専攻科が設置されたことで、
  この明確な目標・意気込みというか自負というかそういうものが欠けていくのではと
  危惧しています。
 
  専攻科ができた時、仕事に就いたOB・OGが
  業務の中でさらに高度な知識習得の必要性を感じたとき、学べるような
  夜間制の仕組みだったら良かったのになどと思ったものです。
  
  2.・・・東京都の果たすべき役割 の5項で 
 
  「東京国際空港跡地や……、整備していくべきは、展示場やトレードセンターではなく……」
  とありますが、日本で国際**展示会と称している展示会も
  まだまだ、国際化しているとは思えません。
  
  規模的な面でもサービスの面でもっと充実させ
  海外からのバイヤーとベンダーをもっと呼び込めるものにすべきと感じます。
 
  規模的に力のある企業が最適な場所に自ら展開していくのは良いことと思いますし、
  それらをサポートする仕組みも充実させることは大切ですが、
  多くの中小企業は地域を基盤とすることで成り立っているのだと考えます。
 
  多くのバイヤーとベンダーが海外からも来るような展示会が
  頻繁に身近なところで開かれる様になれば、
  中小企業にとって情報発信と情報収集の機会になるはずです。
 
  もちろん地域の産業が次の技術、次の商品を生み出す力なければ
  情報発信/情報収集もないわけですが、生み出す力を養う仕組み作りと合わせ
  情報発信/情報収集の場の充実も大切ではないかと思います。
 
  都立高専のOBとして、種々高専の教育を支援されていることに感謝しています。
  これからもよろしくお願い致します。
 
 
 ご意見は2点ですが、
 
 特に、「7年間を要する高校段階から大学工学部レベルの教育を、
 重複なく5年間で完成する一貫教育を行う」という高専の教育の実践的目標について
 
 多くの高専に専攻科が設置されたことで、
 明確な目標・意気込み、自負が欠けていくことを危惧する……とされているのは重要です。
 
 公立大学法人への移管のプロセスも、
 なされているのは、高等専門学校の教育の発展 ではなく
 既存の教育制度(大学教育)の漂流をどうするか? の議論の中に
 高等専門学校が吸収されていったように見えるのは、何故でしょうか?
 
 ご意見を拝読させていただいて、
 改めて、考えるのは、高専の改革なるものが、高専の大学化 に捻じ曲げられ
 特に、東京では、公立大学法人 首都大学東京 傘下に入ることにより
 埋没しつつあるのではないか? ということです。
 
 専攻科については、
 須永様のおっしゃる通り、下記のように議論されてきたはずです。
 
 「改革構想の根本は産学公連携……
  専攻科の特色は地域産業界との産学公連携と昼夜開講。
  これは生涯教育、生涯教育時代に即応するもの……
  エネルギ-を専攻科と(総合科学)交流センタ-に振り分けていくこと、
  本校がアイデンティティを持って生き延びていくにはこれしかない……」
 
 (伊藤邦彦教授『学科改組・新校舎完成記念誌/二十一世紀を翔ける』より) 
 
 高等専門学校の教育のあり方、目指すべき目標について
 改めて、原点に立ち戻った議論を進めていくことが問われます。
 
 
 二点目の 
 海外情報提供 また 海外への情報発信 のより広い取り組みを進めるのことも
 当然のことです。
 
 特に、これを基礎自治体の仕事に組み込み、
 広域自治体(都道府県/中間政府)が、強くバックアップすることが問われます。
 
 そのためにも大切なのは、市場環境の変化を理解することです。
 
 下記は、日中の経済動向のうち 工作機械 について扱ったものです。
  http://www.jc-web.or.jp/JCobj/Cnt/2-2-3_%E5%B7%A5%E4%BD%9C%E6%A9%9F%E6%A2%B0.pdf
 
 
 世界四大工作機械展覧会のひとつ「日本国際工作機械見本市」に対して
 上海国際機床展の出展企業数が2割以上上回り、
 海外出展国数は2倍の48か国にのぼるということです。
 
 基本的な競争優位にある工作機械でも、これが現実です。
 我が国が 東アジアのロ-カル市場 になりつつある現実を前提に
 地域産業コミュニテイの、独自の対外戦略を組み立て、
 独自の情報発信を進めていくことが、今ほど、問われているときはないでしょう。
 
 
 「東京都への政策要望/原案」を、どのように使っていくかを
 これから考えていきますので、
 
 皆様のご意見をいただけば幸いです。
 
 
 
     本年度の 中小企業家経営塾の 日程 について
    
 
 第11期(2012年度)中小企業家経営塾 日程 が、下記のように決まりました。
 (時間は昨年と同じ、10:25~12:00です。)
 
  第1回 11月 9日(金)
  第2回 12月 7日(金)
  第3回 12月21日(金)
  第4回  1月18日(金)
  第5回  2月 8日(金)
 
 現在、講師の選定を進めておりますが、
 上記の日程を基本に、スケジュ-ル調整を進めてまいりますので、宜しくお願い申し上げます。   
 
    
 
   都立高専図書館 中小企業家経営塾のコ-ナ- 書籍寄贈 について
 
 
 都立高専図書館 中小企業家経営塾のコ-ナ- に、
 下記の書籍を寄贈させていただきました。
  http://blog.goo.ne.jp/ota-doyu-kosen/e/c4c15cfa3517be20ee0a248ded52f6f8

 
 今回が6回目、
 図書館のシステム変更のため、現在、図書の登録を停止しており
 学生の皆さんの所へ書籍が届くのは、夏休み明けとなりそうです。
 
 今後とも、皆様のご協力を賜りますようお願い申し上げます。
 

東京都への政策要望/原案 第1部 グロ-バル経済と産業政策の地域化・分権化・補完化、中間自治体の役割

2012年09月01日 | Weblog
 東京都への政策要望/原案 の 第1部 となります。
 
 地域の産業と人材育成、地域社会が直面する課題についての 政策対話のテ-ブルづくり のため
 
皆様の議論の「下敷き」にしていただけば幸いです。
 
 
 
  世界経済グロ-バル化の新段階と地方自治体の新しい課題
 
  産業政策の地域化、分権化、補完化と中間自治体としての東京都の果たすべき役割
  
 
1.地方分権改革と地域産業コミュニテイに立脚した産業政策の地域化、中間自治体の役割の明確化
 
 5月25日(金)の日経産業新聞1面「ものづくり現場発/墨田発」は、墨田区の中小企業の先端的取り組みを紹介するとともに、大田区との対比で、都内のそれぞれの地域の産業構造の違いを紹介しています。
 それぞれ、両区の産業構造は、3~4千といった製造業事業所のうち20%余りが「金属製品」を扱うことは共通していますが、墨田区は印刷、繊維、皮革製品へ展開し、大田区では、生産機械、汎用機械、電気機械(計39%……金属製品と合わせて約60%)へと地域産業の展開が進められてきました。
 墨田区では、明暦の大火(1657年)以降、多くの職人が在住し、様々な生活用品生産し、日用雑貨、医療、衣料、皮革製品などの最終消費財に広く展開する伝統をもち、先端的な製品開発においても、建設、医療、衣料、美術品保護などに展開し、18社の中小企業が、スカイツリ-開業に合わせた地域の観光資源として、電気自動車を開発するなど、地域密着型の展開を進めているといえます。(以上、日経産業新聞紙面より)
 一方、1960年代から大規模生産拠点が地方へ、そして、途上国へ移転していった大田区では、大企業の製品開発拠点が、首都(東京)圏の西側に集中的に立地したことにより、これと結びつき、試作、金型、生産設備、高機能部品等、わが国の国際競争力の担い手であった機械、電気/電子など、大企業の製品開発を支える生産財を提供することによって発展し、工業専用地域の存在などにより、高付加価値製品を生産する(従業員規模100名前後の)中核的な企業群を生み出してきました。1995年、大田区産業プラザ開所に合わせた「APEC・大田区中小企業国際フォ-ラム」では、10名の地元中小企業経営者からなる起草委員が「『ナショナルテクノポリス』から『グロ-バルテクノポリス』ヘ……新しいステ-ジへの挑戦」という「宣言」を発しております。わが国 → グロ-バル経済の産業中枢 に、生産財を供給することにより、産業集積の基軸を形成してきたのが、この地域です。
 多摩地域は、電子・情報・通信などの分野のテクノロジ-開発で、中小企業が重要な役割を果たしています。
 いうまでもなく、それぞれ独自の産業集積は、基礎自治体の境界に沿ってつくられているものではありません。大田区の名称は、大森+蒲田から来ていますが、大森駅前の半分は品川区です。一体化した産業集積が続いていて、大森駅前から品川駅を越えると、ソニ-や明電舎の本社工場があった地域となります。多摩川沿いにあるキャノンの本社からガス橋を渡った川崎市の一帯には、大田区と同様に、機械工業の高度な基盤技術をもった工場群が続きます。
 これらから理解されることは、地域社会の産業コミュニテイが、自治体(地方政府)レベルでは、単一の基礎自治体を超える地域に形成され、中間自治体を超えて(グロ-バルに)展開されていくことです。
 猪瀬直樹副知事/東京市政調査会西尾勝氏が、7名の委員の一人として参加された地方分権改革推進委員会の「勧告、意見等」では、地方分権改革=「中央政府と対等、協力の関係にある地方政府の確立」(「基本的考え方」)の基盤として「団体自治と住民自治」を一体で強化し(「中間的取りまとめ」*)、「最も身近なところで、行政のあり方国民・住民がすべて自らの決定・制御できる仕組みを構築」(「基本的考え方」)する……そのために、基礎自治体を(最)優先し、「民主主義の原点」としての「自治体単位から小学校区単位」の住民自治を再構築する(「中間的な取りまとめ」)としています。(地域社会が次世代人材育成に責任を負うスク-ルボ-ド=学校理事会などが想定されているでしょう。)
 (*「『団体自治』の拡充と『住民自治』の実質的な確立」)
 一方、中間自治体としての東京都の産業政策もまた、地域の実態に合わせ、東京圏の広域基礎自治体を領域とする「地域産業コミュニテイ」を、その基盤に据えて、地域化していくことが急務になっているといえます。
 そのために必要とされるのは、東京都の産業政策の基礎を、東京圏の多様な産業集積やそれぞれの産業コミュニテイの直面する課題、各基礎自治体の産業政策や関連するセクタ-の現状に対する評価におき、それぞれの地域の実情にあわせたコ-ディネ-タ-の役割を果たしながら、それぞれ地域の産業コミュニテイの歴史的形成に合わせた、多様で独自の産業発展の道筋や産業環境形成を進めることです。
 地域産業の発展と次世代産業人材育成、産業人材の生涯教育と新市場、新製品、新産業創成を一体で進めていくことは、地域の産業コミュニテイの持続的発展に欠かすことのできないことです。この意味でも、東京都の果たすことのできる役割、果たすべき役割は、大変、大きなものがあります。
 国政が、国民が「正当に選挙された国会における代表を通じて行動」する間接民主主義を原則とするのに対して、憲法95条(地方自治特別法の住民投票)や地方自治法が「議会」「執行機関」の前に「直接請求」を置いていることにも明らかなように、地方自治は直接民主主義を基盤とするものです(地方自治の本旨)。
 地方分権改革による地方政府の基盤に座るのもこの市民参加=直接民主主義に他なりません。民主政治の最良の学校としての市民政治と国政全体のあり方を決する間接民主主義の二つが一体となって 国民主権 が実現されていくものです。
 その政策形成、執行プロセスに、地域産業や地域における産業人材育成の担い手、様々な地域社会のアクタ-達を参加させ、「団体自治」と「住民自治」を一体で強化する地方自治体の産業施策にとって、中間自治体が、一方的に「上からのビジョン」を形成したり、一律の基準で政策を進めること、また、新興国の国家予算並みの予算を使って「目玉事業」を行うこと、特定の基礎自治体の枠内だけでの政策執行を進めることは、市民や地域社会のそれぞれの担い手が自らの責任で自らのあり方を決していく阻害要因になりかねません。
 これからの地域の産業の発展に必要とされているのは、地域の産業の担い手たちや人材育成、研究開発など、これに関連する様々なアクタ-が能動的に参画し、ここに、複数の基礎自治体や公的機関が関与してオ-ブンイノベ-ションを進めるとともに、共同の議論の中から地域社会の産業環境整備を進め、様々な公的機関の施策を効率的に連鎖させていく、新しい型の産業イノベ-ション拠点の形成でしょう。
 中間自治体としての東京都が果たすべき役割は、高度な政策知の集積と、産業政策が執行される現場の実情の広範な把握を前提に、地域の産業コミュニテイを基盤として、東京圏に複数の産業イノベ-ション拠点を形成して、地域産業の担い手たちを、ここに大胆に参画させるとともに、その担い手自身が、それぞれの産業コミュニテイの独自の発展を生み出していくコ-ディネ-タにつきるでしょう。
 地域の産業コミュニテイの中核に位置する東京都立産業技術高等専門学校のキャンパス、産業技術研究センタ-などのプラットホ-ム、首都圏に立地する多様な研究開発機能/人材育成機能、基礎自治体の産業政策などを上手に結び、特に、次世代産業人材育成、生涯教育と新市場、新製品、新産業創成を結ぶラインを地域産業コミュニテイと深く結び付けていくこと(産業政策の地域化、分権化、補完化)が東京都の産業政策の基軸になるはずです。
 すでに、冷戦終結により始った 世界経済のグロ-バル化(国境を超えた一体化)は、新しい段階に入っています。地方分権改革(の新しいステ-ジ)が「掛け声倒れ」になる時代にも、私たち自身の意志で終止符を打たなくてはなりません。
 東京都の産業政策のこれまでの基盤となっていたものを正しく検証し、地方分権改革と地域産業コミュニテイに立脚する産業政策の新しい基軸を形成していくことが要求されます。
 
2.世界経済グロ-バル化の新しい段階 に 照応した 新しい自治体ビジョン の形成
 
 世界経済グロ-バル化への対応は、言うまでもなく、民間(企業等)が先行して進めてきたものです。
 地方分権改革推進委員会の「勧告・意見等」が、「国境を超えた地域間競争」の時代と結び付けて「地方政府の確立」を議論し、東京国際空港の国際化などを介し、多くの基礎自治体のビジョンの中にも、この課題が取り上げられるようになりました。
 ところが、東京都の「アジアヘッドクォ-タ-特区構想」が、同時に指定を受けた川崎市の「京浜臨海部ライフイノベーション国際戦略総合特区」と比べ、明らかに、具体性に欠けるように、それぞれの基礎自治体の「国際交流都市構想」などを含め、まだまだ、地に足のついたものになっているとは言えません。
 経済のグロ-バル化は、言うまでもなく、わが国企業や産業のグロ-バル展開(従来の「貿易立国論」等)を意味するものではありません。冷戦終結による単一の世界市場の形成と、これを介して、世界経済がグロ-バル化(国境を超えて統合、一体化、ボ-ダレス化)したことを意味します。この結果、ものづくりの分野では、労働集約型のプロセスが、一気に、先進諸国から途上国に移転、東アジアが世界の生産センタ-として、一体として機能するようになるとともに、国境を超える工程分業により各国の産業構造の転換、競争力基盤の再構築が要求され続けてきました。
 中国の国内自動車販売台数は、2006年にわが国を、2009年に米国を越え、昨年、2010年には、わが国の4倍に当たる1800万台強となりました(このほとんどを中国国内より供給)。リ-マンショックを介して、国際経済の構造は大きく変化し、先進国が世界の経済を主導する時代が終わりました。同時に、わが国は「GDP世界2位の経済大国」の地位から降り、わが国国内市場の相対的価値は、急速に低下しています。新興国では、国民の所得が飛躍的に向上し、これに照応した産業構造の転換が急務となり、市民社会を基盤とした国内政治/社会秩序確立の社会革命の前夜に入りつつあります。
 このような国際経済環境の激変の中で、わが国は、2010年の「地域貿易バランス」において、アジアに対して10兆円余り貿易黒字を計上しています(中国+香港に3.2兆円、台湾に2.5兆円、韓国に3兆円の貿易黒字)。これは、わが国の産業界が、産業システムの国境を超えた工程分業に対応して、その競争力基盤を、不断に再構築し続けてきたその結果です。これまで言われてきた中国脅威論、産業空洞化論、「世界を制覇するサムソン、追い落とされる日本企業」などとは、別の現実をわが国企業と産業界がつくりだしてきたことを意味します。
 一方、国境を超えて一体化した産業構造の工程分業のあり方を超えて、市場の構造全体が激変し、新興国が産業構造の高度化に本気で取り組む環境で、わが国の産業界が直面しているのは、激変する市場環境に順応する と同時に テクノロジ-を産業社会に運用する新しいステ-ジを創造する という、世界経済グロ-バル化の新しい段階の課題です。
 これからの自治体の政策の前提もまた、国際環境の連続的な変化に対する自主的な認識を基盤に据えることなしに成り立ちません。このことが、中央政府と対等、協力の関係に立ち、国境を超えた地域間連携、地域間競争を進める地方政府(地方自治体)の政策基盤をうち鍛えていくでしょう。
 国際経済(アジア経済)における従来のわが国の特別な位置が、このまま温存されるという幻想に立って描かれるビジョンは、必ず、現実から拒否され、地方自治体に不良債権を積み上げることになるでしょう。一方「国際ビジネス交流都市」をつくる等の環境変化依存型の問題設定は、「ビジョン」の体をなしていません。国際交流都市の中で、都民(市民)は何をするのでしょうか?(ウエイタ-や交通整理のガ-ドマンでしょうか?) 地方自治体の国際ビジョンに要求されるのは、私達が新しい市場環境にどう対応するのか? 国際交流都市において、その地域の担い手たちがどのような役割を果たし、どのような新しい価値を世界に発信するか? 以外でありようがありません。
 
3.わが国の地方自治体のグロ-バル展開の時代の扉を開く
 
 すでに、大田区では、タイ現地に、現地の企業と連携(現地企業が全面出資)し、区内の企業が現地進出する「オオタテクノパ-ク」という「開発区」を設置して5年を超えます。
 地方自治体の国際展開は、第一に、国内とは違った困難な環境で事業経営をすすめる海外進出企業や海外で活動するすべての人々を支援することでなくてはならないでしょう。このための、地方自治体自身の海外進出、海外拠点形成と海外活動が、今ほど要求されている時はないはずです。
 中国/大連市は、戦前のわが国が、日本国内を越える近代的都市を建設しようとし、中国が日中国交回復後の対日人材育成の拠点とした都市です。大連市政府は、わが国のものづくり企業を中核に改革開放を進め、わが国企業が(開始系企業では)初めて(合弁ではなく)独資で中国国内に進出したのもこの地域です。これらの企業により(独資を基本とした)日本的のものづくりや日本的経営を進めてられてきた地域でもあります。
 1989年、大連市に進出したキヤノン(最初の中国拠点)は、以降、毎年、大連市キヤノン杯日本語弁論大会を開催(昨年が第22回)、毎年、1万人を越える大連市市民がエントリ-し、現地での日本語人材育成に尽力しています。1987年、経済技術開放区に最初に進出したマブチモ-タ-は、農村地域における小学校建設などを進め、「中国において優れた社会貢献をした外資企業50社」に選定、多くの日系企業が現地における社会貢献で評価されています。東京都の中小企業では、大田工業連合会、東京中小企業家同友会大田支部が、同じ大連市で、現地の 鍍金排水対策 や 国境を超えた人材育成 の地道な取り組みを進めています。
 こうした地域にすら、わが国の地方自治体が戦略的に進出することは、ほとんどありませんでした。
 戦後、東アジアにおける「雁行型発展」のモデルを形成し、この地域の発展に貢献してきたのがわが国です。多くの地方自治体が、早い段階で国際展開し、地域の中小企業などの海外進出を支援し、地域社会とわが国のビジョン、歩んできた道、産業や文化などを紹介し、現地の地域社会に貢献するとともに、国内と現地の教育機関などを結んで、国境を超えた人材交流、人材育成などを進める戦略拠点を形成し、こうした地方自治体の戦略拠点が、アジアの各地に広がっていたとするならば、わが国の世界経済グロ-バル化への対応は、まったく違っていたものになったに相違ありません。
 冷戦終結によって進んだ世界経済のグロ-バル化は、すでに、新しい段階に入りつつあります。
 今日、地方自治体に問われているのは、「国際化」をめぐる勝手なビジョンを描くことではなく、地方行政のあり方、地方政府の行動様式全体を、国境を超えた地域間連携、国境を超えた地域間競争の時代に相応しいものへと変革していくことです。
 言うまでもなく、地方自治体の国際協力/国際連携は、国境を超えた都市と都市、地域と地域、そして、市民と市民の協力/連携を意味します。実体経済と情報、金融などの社会基盤が国境を越えて一体化していく中で、それぞれの都市、地域、その担い手としての市民が、新しい環境に能動的に対応する能力、相互学習の機会、国境を超えて活動する機会や国境を超えた社会関係資本をどれだけ手にし、これをどれだけ活用しうるかの能力構築競争の舞台が、国境を超えた地域間連携/地域間競争に他なりません。
 議員の相互訪問や行政(機関)間の協力は、その入口として、初めて意味を持つものです。地方自治体の課題は、逆に、この分野で行政に先行している民間企業やNGO、様々な市民の活動をうまく取り込んで、地域間の連携を拡大するとともに、国境を超えた人材育成、人材登用、社会的課題に共同で取り組むスキ-ムを確立して、地域社会と市民が能動的に地域間協力を進める仕組みづくり、海外拠点づくり進めることです。
 これまでの経験を総括して、明確な達成目標をもった地域間連携、地方自治体の海外拠点づくりを進めるべきです。特に、東京都は、基礎自治体の対外進出を支援し、アジアを中心に、縦横な対外都市間連携を進め、多数の対外拠点を形成して、充分な対外社会貢献を進めるとともに、海外の多文化と活力を国内に深く取り込み、都市と地域社会と市民が、新しい国際環境の主体として能動的に活躍する地域文化をつくり上げていく総合戦略を形成し、コ-ディネ-タの役割を果たすべきです。
 
4.東アジアの中の日本を意識した東京国際空港の上手な使い方の確立
 
 世界経済のグロ-バル化を介したわが国の国際ポジションの変化の第一は、わが国が(東)アジア諸国と共に生きる国になったことです。わが国の地域別貿易(輸出)の56%はアジア向け、1985年は約40%が北米向けであったことからみるならば、国際環境の変化を介して、わが国の生き方が変わったことを理解することができます。
 地方自治体の国際展開の主たる対象となるのが、アジア諸国であることは言うまでもありません。
 東京国際空港の国際化、成田と羽田の一体運用 並びに 棲み分けについては、東京国際空港を、わが国と(東)アジアの関係の中に上手に位置づけていくべきです。韓国、台湾、中国といった近隣地域に、成田経由で向かうことは、明らかに不合理です。東京国際空港において対欧米便を増発するのではなく、東京国際空港を国内各地とアジアを結ぶハブ機能と位置づけ直すとともに、充分なストップオ-バ-が可能な経由地として、世界とアジア結ぶ東京国際空港を位置づけるなど、わが国と東アジアの関係を基軸に、成田空港との棲み分けによる国際化を実現すべきです。(主に、東京都が国へ要望すべき課題として …… )
 
5.臨海地域に、サイエンスとテクノロジ-を結び、次世代技術、次世代産業を創成する研究開発拠点を
 
 わが国の国内市場の価値は、新興国市場の爆発的拡大により相対的に低下し、人口構成の超高齢化と人口減少によって絶対的にも低下しつつあります。携帯電話に象徴されるように国内市場に依存した製品提供を進めてきた産業分野は、「ガラパゴス化」し、衰退へと向かいました。
 不動産開発やトレ-ドセンタ-、展示場を建設すれば、多国籍の高度人材をわが国に引き寄せられると考えるのは、既に、時代遅れの考え方です。わが国が、こうした、高度人材を国内に引きつけられるのは、わが国が、世界が必要とする次世代の技術(や次世代のサ-ビス、マネ-ジメントシステム)を創造して、発信し続け、社会の信頼性や自由と民主主義(市民社会)の価値観において、真に、尊敬されうる社会を築いていく時だけでしょう。
 一方、携帯電話、スマ-トホンを生産する中核製造装置を世界に提供し続けてきたのは、東京城南地域の中小企業です。自動車産業の生産財を提供する中小企業では、リ-マンショックでは、売上が70%余りも減少いたしましたが、海外メ-カ-との取引拡大、異分野への進出により、環境変化への対応を進めています。東京同友会IT部会のアウトソ-シング先は、モンゴルなどを含めたアジア各地に広がっています。
 アジア諸国が、急速なキャッチアップにより、労働集約型産業構造からの離脱を速めているとき、私達に要求されるのは、このプロセスが要求する 人/もの/技術 を提供し続けるとともに、このキャッチアップの「坂の上のその先」…… テクノロジ-を産業社会に運用する新しいパラダイムを提示していくことにつきます。
 地方自治体の産業政策に問われるのは、「産業空洞化論」と闘い、国内のテクノロジ-、その担い手としての高度人材、生産システム(闘うマザ-工場)を守り、地域のものづくり中小企業の本社機能強化を支援して、これらの国内の産業機能に、改めて、磨きをかけると同時、これを基盤に、次世代産業のコア技術創造へと、地域の産業の担い手が舵を切っていく環境を整備していくことです。
 特に、わが国産業の製品開発を支持することにより、わが国産業の国際競争力の中核部分を担い、ものづくりの上流における高度な機能を果たしてきた城南地域の産業集積を守り、首都圏の地域社会と結びついた生産的機能を維持し、発展させていくために、この地域の産業の担い手が、次世代型テクノロジ-創成に取り組む新しい環境を整備していくことこそ要求されているといえます。
 東京国際空港跡地やその先に広がる中央防波堤埋立地などの臨海地域に設置、整備していくべきは、展示場やトレ-ドセンタ-ではなく、理化学研究所等の研究機関やトップ企業の次世代技術創成センタ-です。この地域の産業コミュニテイ また 製造業の基盤技術と深く結び付けて、これらの研究開発センタ-を設置、整備し、サイエンスとテクノロジ-を深く融合して、新しいテクノロジ-、新しい製品、新しい産業連携を生み出し、ものづくりを高度に知識産業化する新しい型のテクノポリス「ものづくり創造都市」こそ、私達の目指すべきものです。
 
6.労働市場の開放と多国籍の中核人材登用を進める地域社会の国際化を 
 
 経済のグロ-バル化に乗り遅れたことを感じた大企業の一部が、あわてて、ヘッドクォ-タ-への多国籍人材の登用を進めていますが、少なくない中小企業では、早い段階(1990年ごろ)から、アジア人留学生の採用を進め、海外営業などに登用してきました。一部の企業では、帰化して日本国籍を取得したアジア人留学生出身者が、経営陣(取締役)に加えられています。最近では、ものづくり企業の生産現場が、アジアの理工系大学出身者の採用を進め、これらの留学生が、設計や技術革新の担い手、現場のリ-ダ-として活躍し始めています。
 アジア諸国とのEPAの課題の一つも、看護師、介護福祉士などの社会の中核人材を、国境を国境を超えて登用する開かれた労働市場の形成です。ところが、まだまだ、形だけにとどまっており、むしろ、海外の看護師協会から 抗議の声明 が上がるほどです。
 技術職や管理職、看護師、介護福祉士等の有資格者など、社会の中核人材が地域社会で(また、内外で)共に働く労働市場の形成、多国籍の中核人材がともに手を取りあって生み出していくグロ-バルシティこそ、経済のグロ-バル化に対応する国内環境整備となり、地方自治体の国境を超えた地域間連携、地域間競争の 地に足のついた基盤 となるものです。
 この障害を外すための旗を振り、施策を生み出していくことこそ、地方自治体の役割です。
 在留外国人の日本語学習の機会を広く設けるとともに、特に、EPA協定などにより、就労を目的に来日する外国人の日本語学習や資格取得を支援すること、この障害となっている仕組みなどをよく調査して外していくこと、国境を超えた地域間協力や自治体の海外拠点の施策により、現地における日本語人材の育成を進めること、国境を超えた教育機関の連携などにより、国境を超えた人材育成を制度化していくこと……これらが地方自治体の施策となるでしょう。
 社会の中核人材の国境を超えた登用を進める地に足のついた基盤があってこそ、より高度な人材を、有効に国内に引き寄せることが可能となります。研究開発をになう人材やこの地域全体の将来を決して行く政策スタッフなど、アジアの将来を決して行くヘッドクォ-タ-を担う人材を国内に引き寄せる(その前段階の)条件づくりこそ、今日、私達が進めていく施策であるべきです。
 
7.「アジアヘッドクォ-タ-特区構想」と東京都の自治体施策の基盤について
 
 「アジアヘッドクォ-タ-特区構想」については、これが、国内に「割拠」し、およそ国際競争と無縁の世界に生きてきたと思われる業界の皆さんの提案(「総合特区に係わる民間事業者からの提案」)を基盤としていることが不思議でなりません。
 東京都は、わが国の首都であり、わが国の経済中枢に位置する自治体です。中小企業、大企業を問わず、わが国の産業全体を網羅する多くの民間セクタ-との結びつきの中からビジョンが提示されてくるのが当然です。、
このプロセスこそが、本来の意味で、自治体の政策基盤を強化するものでしょう。
 「アジアヘッドクォ-タ-特区」は、新しい課題に取り組むわが国産業の将来 や 21世紀の東アジアの地域ビジョンの中に生きる私達の将来 を 照らすものでなくてはなりません。  
 

東京都への政策要望/原案 第2部 公立大学法人への移管と高等専門学校のあり方/産学連携連携の新しい課題  

2012年09月01日 | Weblog

 東京都への政策要望/原案 の 第2部 となります。
 
 地域の産業と人材育成、地域社会が直面する課題についての 政策対話のテ-ブルづくり のため
 
皆様の議論の「下敷き」にしていただけば幸いです。
 
 
 
  
公立大学法人への移管後の東京都立産業技術高等専門学校のあり方と
  
   産学公地域連携によるオ-プンイノベ-ションのプラットホ-ム形成について
  

1.25年を超える産学地域連携の蓄積と都立高専の公立大学法人化からみえてくるもの
 
 東京中小企業家同友会では、本部、それぞれの地域支部が、様々な課題をもって、地域の教育機関と産学連携を進めてきました。
 特に、東京都立産業技術高等専門学校/品川キャンパス(旧東京都立工業高等専門学校)とは、地元の大田支部を中心に、1984年以来、一貫して続く、交流/連携の歴史があります。
 私どもは、戦後の経済成長に立脚する産業の成熟、連続的な技術革新の中で、テクノロジ-を扱う生産現場や企業の経営課題が急速に変化する実際を、幾多の工場訪問(研究室などの相互訪問)の中でお示しし、学生の皆さんに、学校で学ぶ技術が企業の現場でいかに運用されているかを学んでいただく実習教育(今日のインタ-ンシップ)の可能性について、注意深く探り、学校の先生方と公開講座を開催して問題意識の共有化を進めるなど、産学が共同で企画した共同事業を通して、相互の意識を変革し(交流開始当初の取り組み)、これを、ME化に対応する学科改組(生産システム工学コ-ス創設)、新校舎建設、総合科学交流センタ-(当初は、地域の産学が共同で運用する施設を要望)構想などと結びつけ、学校と共に、東京都教育庁に政策要望し、地域の教育機関改革に参画させていただきました。これを、この産学交流の入口をつくり、政策要望を進めた私どもの会員経営者は次のように述べています。
 「我々はとにかく高専の先生と人づくりをやっていこう、こういう社会的実験はもう絶対にあり得ない、こんな素晴らしいことができたら、学校の教育機能も変わるし、地域の社会的機能も変わる。そういう夢をずっといだいてやってきた……」(平成14年2月10日刊 学科改組・新校舎完成記念誌『21世紀を翔る』より)
 その後も、様々な試行錯誤を学校と共にさせていただき、10年前、学生への中小企業経営者の講義として始めた「中小企業家経営塾」(当初は学生有志を対象にした「私塾」)は、3年目より学校の選択科目となり、この共同運営が、現在も続いています。中小企業家経営塾よりは、担当教授の提案による「大都市産業集積論」(学生が地域の中小企業を訪問して、地域の産業集積をテ-マにレポ-トを作成)、当時の地域連携担当教授による「学生に海外学習の機会を与えたい」という提案には、地域の中小企業、東京中小企業家同友会、同窓会の寄付、財団法人鮫洲会の協力による「大連学生海外派遣」が実現し、私どもの会員が委員として参加した「高専改革検討委員会」では、長期インタ-ンシップの実施、学内インキュベ-ションオフィスの設置、中小企業経営者の講師招へいや外部人材の登用などを提案させていただきました。
 昨年のインタ-ンシップでは、品川キャンパスの本科の77名の参加学生のうち30名を、私ども(理化学研究所/大森素形材研究室など、私どものネットワ-クから参画している研究室、企業を含む)で受け入れさせていただきました。
 教育基本法の「主語」は日本国民です、次世代の育成は国民自身の仕事であり、地域の産業界の将来の担い手の育成は、その地域の産業の担い手自身の仕事でもあります。
 一方、高等専門学校は、「深く専門の学芸を教授し、職業に必要な能力を育成」し、高度な専門知識と実践能力を持った企業の「中堅技術者」を育成することを目的することにより、社会との接続を明確にし、産業構造の変革に結びつく、連続した学校改革をにより、制度成立以来、一貫してその機能を維持することにより、戦後の教育制度のなかで、突出した成果を上げてきたものです(数少ない成功例の一つ)。
 地域の産業界に産業人材を送り出す、地方自治体の教育機関に、地域の産業コミュニテイが協力するのは当然のことです。
 特に、実践的な高等技術教育を進める高等専門学校では、そのテクノロジ-を、それが運用される生産現場と結びつけて学習し、生産現場の技術革新や生産管理の高度化と結びつけて、学習内容を変更し、また、産学連携による新市場、新技術、新製品創造などのオ-プンなイノベ-ションの場に、学生自身が参加することにより、確信をもって、自らの将来を選択していくことこそ大切です。
 大企業の生産拠点が首都圏より姿を消した現在、実践的技術者を育成する高等専門学校が、中小企業を中心とする地域の産業コミュニテイとの深い結びつきの中から(また、国境を超えて一体化する産業システムの産業連関や爆発的に拡大する新興国市場などを身近に知る環境で)、自らの将来を決していくことの意義は、これまで以上に高いものになっています。
 多様で高度な製造装置を駆使して、様々な分野の多品種少量生産に取り組む中小企業、試作/金型などで、トップ企業の製品開発を支える企業、狭い市場ではあっても、トップレベルのシェアをもつ製造装置メ-カ-、高機能製品や新技術に挑戦する革新的企業、学会などでも活躍する研究開発型企業、また、これらの企業の属する産業コミュニテイとの産学連携の場は、すでに、この学校の学生が実践的な技術を学ぶ、他にない場になりつつあります。
 また、本来、多くの研究者を有し、次世代の担い手を育成する教育機関が、地域の産業コミュニテイの様々な問題を解決し、新技術を発信し、次世代の育成をともに進める拠点となるのは当然のことです。
 
 6年前に進められた都立高専の二校統合、4年前の公立大学法人化にあっては、民間人校長の赴任もあり、学校の改革がより進展し、オ-プンイノベ-ションを進める場を、様々な関係者と共に共同で運営していくことが可能になることを期待をしておりました。
 ところが、実際は、産学連携事業の運営は、地域の産業コミュニテイからより離れたところで行われるようになりました。私どもが5年前より進めてきた国際連携事業/大連学生海外派遣についても、学校の皆さまとの議論を深め発展させていきたく考えており、繰り返し、現状の報告やこれからの課題、将来の可能性について、学校の担当責任者に説明させていただきましたが、共同で事業を発展させるためのアクションはなく、学校の方針も明示されませんでした。
 私どもは、地域社会の利益のために、産学が、お互いの立場を乗りこえて、共同でつくりあげていくものが産学連携事業と考えておりましたが、公立大学法人への移管のプロセスをへて、これが「奥の院」に仕舞いこまれた …… というのが正直な実感です。
 
 地域の公共機関は、東京都民(国民)の税金によってまかなわれる地域社会の財産です。
 地方自治において、市民(地域住民)は、公共機関の運営に、直接参画し、これを育てる責任、義務と権利を有しております。そもそも、地域の様々なセクタ-が共同でつくりあげていくのが 地域社会 です。
 言うまでもなく、産学連携は、特定の団体の間で進められるものでも、特定の団体の成果として取り込まれるものでもありません。
 学校では、それぞれの先生方が、大変、広い研究者のネットワ-クをお持ちです。もちろん、地域の企業や産業コミュニテイも、その内外に、大きく広がるネットワ-クをもっています。
 このような私達の有する地域の資産をよりよく動員して、地域社会の新しい可能性を開き、次世代の育成を進めていく オ-プンイノベ-ションの場が、地域社会を基盤とした産学連携であり、私達が作り上げようとしてきたものです。
 何故、このことが機能しなくなったのか? を考え、以下の点について、提案させていただきます。
  
2.高等専門学校教育の目的、その発展を目指す実践的指標、ビジョンの明確化を

 第一に、都立高等専門学校の公立大学法人首都大学傘下への統合プロセスを、一から見直していただくべきであると考えます。
 公立大学首都大学東京の「改革加速アクション・プログラム」は、「制度疲労に陥った既存の教育システムを変革していくには、まず、大学における教育改革の実行が不可欠」とし、制度疲労に陥った既存の教育システムの頂点にある大学改革を進めるのが、公立大学法人設置の目的であったことを明示しています。
 ところが、一般の義務教育、普通科高校、大学という教育課程が制度疲労し、工業高校などの専門職業教育の担い手の多くが、産業構造の変化に対応できずに荒廃する中、当初より、社会との接続を明確にするとともに、産業構造の高度化に対応し、教育プロセスの改革を進め、卒業生受入先企業など、社会よりの高い評価を維持し続けてきたのが 高等専門学校 の教育です。
 産学連携でも、品川キャンパス(旧工業高専)では、学校の機能を外部に提供する(学校中心の)段階から、地域の産業コミュニテイとの共同事業、その産学地域連携を基軸とした学校改革へと歩を進めていた段階です。
(荒川キャンパスでも、学生による人工衛星軌道投入を地元の企業が支援しており、同様の取り組みを進める基盤が形成されています。)
 本来、高等専門学校の教育は、「制度疲労に陥った既存の教育システム」改革の教訓をくみ取ったり、改革の実践的指標となるものであったはずです。ところが、公立大学法人傘下への統合プロセスでは、産業界や地域産業コミュニテイに対して、また、学校で学ぶ学生が自らの人生を能動的に選択するうえでの肯定的な役割を果たし続けてきた 高等専門学校 の教育の独自の発展が考慮も、意識もされなかったようです。
 改革で先行するセクタ-が、改革を先送りし「制度疲労に陥った既存の教育システム」の一からの改革のプロセスに同居を強制され、新しい目標を設定することに、雁字搦めに足かせを嵌められるようであれば、どこから本来の改革を主導する原動力が生まれてくるのでしょうか?
 改革で成果を上げたセクタ-に、予算がと人員が配置され、新しい課題に挑戦する環境が整えられず、制度疲労に陥ったセクタ-の手当てだけが考えられるのであれば、成果主義は死滅していくでしょう。
 本来、高等専門学校の教育は「深く専門の学芸を教授し、職業に必要な能力を育成することを目的とする」ことにより、企業の技術開発(製品開発)、生産管理などの現場に直結する担い手に要求される能力を育成し、「7年間を要する高校段階から大学工学部レベルの教育を、重複なく5年間で完成する一貫教育を行う」とするもので、明確な目標をもち、また、産業構造の高度化や環境変化に対応して教育プロセスを不断に変革することにより、その目的を達成してきたものです。
 公立法人首都大学東京には、高等専門学校の教育についての専門的な担当者がいないようですが、一般の大学教育や「制度疲労のシステムからの脱却」に埋没しない 高等専門学校教育の目標設定と実施基準がつくられているのでしょうか? また、予算や人材配置の基準はどうつくられているのでしょうか? ほとんど、理解に苦しむ(客観的に説明できない)状態であろうかと思われます。
 東京都総務局(首都大学支援部) ならびに 公立大学法人首都大学東京に、高等専門学校の教育や地域産業コミュニテイに精通する専任の担当者を置き、東京における高等専門学校の教育の目標やその果たすべき役割について、再定義を進めるべきです。
 
3.地域産業産業コミュニテイに立脚した学校(各キャンパス)の地域機能の再生、再構築を
 
 東京都立産業技術高等専門学校には、荒川と品川という都内を代表する産業集積地に、二つのキャンパス(多摩地域には国立高専)があります。ところが、それぞれの地域機能を重視し、それぞれのキャンパスを独自に発展させようとする意志がなく、上部機構が決められたことを決められた通り、横並びに執行していく考え方になっており、それぞれの産業コミュニテイを基盤に、産学が共同の事業を進めていくことが成り立たない環境なっています。
 品川キャンパスでは、学科改組、新校舎建設へ向かう平成3~4年当時、「品川、大田地域に都立高専があって、企業の方との交流も進んでいるんだ。こういう例は全国にもありません。これは我が校の宝だし、東京都の宝だし、国の宝なので、これを大事に育てないで、なんで教育なんだ」「地域交流を基にした(企業との)共同研究を柱にしていかないと本当の意味のお宝はできないんだ。高専の特徴はそこにあるんだ」(当時の校長飛田満彦氏 平成14年2月10日刊 学科改組・新校舎完成記念誌『21世紀を翔る』の「座談会」より)とし、学科改組、新校舎建設後を展望する平成13年には、「ここに来て、再び改革の大きな嵐に直面し……学校の存在そのものが問われる……一方では、地域の中で高専の存在がますます重要になっている」(前述の『21世紀を翔る』「座談会」/司会の三浦勝也教授/当時)「まず改革構想の根本は産学公連携……専攻科の特色は地域産業界との産学連携と昼夜開講……1学級減の余ったエネルギ-を専攻科と(総合科学)交流センタ-に振り分けていく」(同前/伊藤邦彦教務主事/当時)と、学校改革の基軸に、地域の産業コミュニテイとの産学連携を据え、学校の独自性を追求しようとしていたことを考えるならば、ほとんど180度の方向転換がなされたといえます。連続する組織改組により、この(180度の方針転換がなされた)こと自身が、校内でも認識されていないように思います。
 荒川キャンパスでは、学生による人工衛星投入を地域の中小企業が寄付で支援するなど、地元企業の強い支援があり、荒川、墨田、葛飾の地域には、私達の会員やネットワ-クに、早稲田大学、一橋大学、研究機関など産学連携を進め、新技術を開発や企業間連携のものづくりによる地域おこしを進めるグル-プがあり、ここにおいても、産学連携を基軸とした学校改革の条件があります。学校の地域機能を強化するためのよいアイディアを生み出せないか? 地域コミュニテイとの産学連携を、解りやすく学校改革の指針に位置付けるなど、そのアイディアを生み出す環境が与えられていないか? のどちらかであろうと思われます。
 私どもが、25年を超える紆余曲折のなかで、この共同事業を育ててきたように、産学公地域連携の共同事業を発展させていくためには、長期にわたる地道な取り組みと、それを可能とする条件整備、それぞれの地域の産業コミュニテイのあり方や環境の違いへの深い理解(相互理解)に基づいて、それぞれ、独自の事業を発展させていくことが必須の条件となります。「上部機関」の意向により、学校の基本的在り方がコロコロ変わるようであれば、この条件づくりを進めることは、ままなりません。
 
4.産学連携を進め、学校の地域機能を強化していくため、統括的な運用機構を各キャンパスに
 
 学校の機能を社会に開放し、様々なセクタ-と共同事業を進め、これを学校の地域機能の強化へと、効果的に結び付けていくためには、この全体を統括する機能が必要です。
 これらの活動と情報を集約し、学校の機能開放や他のセクタ-との共同事業から、日々生じていく、新しい課題、新しい社会的結びつきやその可能性などについて、正しく評価し、事業全体を発展させ、学校の地域機能を強化するとともに、より広く、より深く、他のセクタ-と共有し、拡大していく方針を決定していくのがこの統括機能の役割です。
 かつては、品川キャンパスの総合科学交流センタ-が、学校長をトップとした委員会によって管理されると共に、様々な検査室、実験室、測定室、技術相談室等の(対外)共同利用施設など、850㎡を管理下において、包括的な運用機能を形成していました。ところが、この機能が、なし崩し的に解体されると、学校に、対外共同事業を創出したり、これに方向性を与えていく自主的能力が失われたように思います。
 学校の対外活動が、行政事務の業務分掌のように、中小企業家経営塾(中小企業経営者の講義を軸とする選択科目……ただし、これを実施するセクションに担当教授が入っていない)、インタ-ンシップ、国際化(学校の国際化と中小企業家経営塾学生海外派遣のあり方は??)、現役技術者の再教育、小中学生へのものづくり教育、共同研究等々が、それぞれがバラバラに行われていれば、学校の地域機能についての情報を集約、評価し、全体の目標を設定し、地域の産業コミュニテイや様々な社会的セクタ-との共同事業を有効に組み立てたり、産業経済社会の激しい変化を、有効に、学校運営のなかに組み込んでいくことはできません。
 この対外統括機能は、学校(それぞれのキャンパス)の地域機能強化を目的に、学校長(または、その直轄のそれぞれのキャンパスの責任者)をトップとて、それぞれのキャンパスで、独自のセンタ-機能を持つものでなくてはならないでしょう。
 もちろん、研究者集団としての学校のあり方や研究テ-マ設定 と 地域社会の公共機関としての学校のあり方を結びつける結節点に位置するのも、このセンタ-となるでしょう。
 
5.高等専門学校の教育に対する正当な評価、その独自性の理解にもとずく人員の配置、予算配分を 
 
 卒業生のうち、就職希望者の求人倍率は15倍(リ-マンショック前は20倍)、受け入れ先の産業界より、高い評価を受け続け、OECDの調査団に、「日本の大学、特に、大学院教育は弱い、けれども、高専は素晴らしい、感心します」(世界思想社刊『技術者の姿……技術立国を支える高専卒業生たち』より)と評価されたのが、わが国の高等専門学校の教育です。
 戦後のわが国の教育制度の中で、社会との接続を意識した明確な目標を持つとともに、知識をその知識を運用する実践的な能力と合わせて形成し、憲法の「職業選択の自由」を、実践的に保障する能力を学生たちに与え続けるとともに、わが国ものづくりと知識社会(知識主導経済)を結びつける人材育成基盤の役割を果たしてきたのが、高等専門学校の教育です。
 規模は小さい(メインストリ-ムを外れる?)とはいえ、わが国の戦後教育の中で突出した成果を上げてきた高等専門学校に対する正当な評価がなされているでしょうか? その評価にもとずく人員(人材)の配置がなされているでしょうか? 大変、疑問です。
 また、後期中等教育、高等教育、専門技術教育、研究 等の領域を合わせて進める 高等専門学校の特殊性、「標準的な総授業時間数は、高校と短大を併せた時間数を大幅に上回り」「高校段階から大学工学部レベルの教育を、重複なく5年間で完成する一貫教育を行う」独自性についての正しい理解に基づいた人員(人材)配置、予算配分がなされているでしょうか? 
 戦後の高等専門学校の教育が、こうした複雑な課題に取り組み、様々な問題解決の道筋を見出すことによって、多くの成果を上げてきたことが、正しく評価されているでしょうか?
 あるいは、地方自治体が高等専門学校を設置、運営し(地方自治体で、高等専門学校を設置するのは、東京都、大阪府、神戸市のみ)、この制度を地域社会の発展に運用する独自の意義や方策が、行政の執行機関の中で、どこまで検討、検証されてきたでしょうか?
 大変、疑問です。
 成果を上げた部署に、人員を配置し、予算を配分する「成果主義」が、本当に実践されているのでしょうか? むしろ、逆行することが行われているのではないでしょうか?
 よい成果(アウトプット)を上げた部門には、この成果を発展させ、創造的に展開し、新しい課題に取り組む 裁量権 や 新しい成果を生み出す インプットの機会 を与え、それに相応しい人員や予算がつけられるのが当然のことです。
 地方自治体の執行機関(また、議会)が、横並びの人員配置、予算配分を続けながら、成果のみを刈り取ろうとすれば、「闘う現場」は疲弊し、現状改革を回避する部門が延命していくことになります。
 私達がなすべきなのは、成果を生み出す現場の能力を、その果実を受け取る社会との結びつきによって評価して、権限、人員、予算の再配分を進め、現状改革を回避する部門を延命させたり、目先の成果だけを約束する部門を優遇したりすることではなく、イノベ-ションの能力が、継続的に集積していく部門を、ひとつ、ひとつ育て上げていくことでなくてはなりません。
 また、公立大学法人首都大学では、高等専門学校教育の独自の発展を進める制度やビジョンの整備が進められているでしょうか?
 東京都と公立大学法人は、戦後のわが国の教育制度のなかで、突出した成果を上げてきた高等専門学校の教育、その基盤となった独自性を理解し、高等専門学校の教育の独自の発展を保障するためのガバナンスの整備、学校の裁量権、人員や予算の抜本的な拡大を行うべきです。
 
6.産学連携を進め、学校の地域機能を強化していくための専任スタッフの設置を
 
 前々項の産学連携を進め、学校の地域機能を強化していくための統括機構には、産学公地域連携のコ-ティネ-タ-を務める常勤の専任のスタッフ(プラス事務機能)が配置されるべきです。
 この専任スタッフは、退職者の再雇用などの「特任」でも構いませんが、地域産業コミュニテイと学内に精通した産学公地域連携の有経験者とし、学外のニ-ズと学校のシ-ズ、能力を結びつける窓口となり、両者による多様な連携を支えるとともに、その情報を集約し、センタ-機能の統括基盤となることが必要です。
 
7.研究休暇制度の大胆な導入
 
 後期中等教育、高等教育、専門技術教育等の領域を合わせて進める高等専門学校の教員が、研究者としての自立性、独自性を確保し、学校を地域コミュニテイにおける産業技術の研究者の拠点として機能させ、教育/研究機関としての本来の性格を回復していくために、研究休暇制度の大胆な導入が、是非とも、必要です。 
 7~8年(できれば5年)に1回、1年間の研究休暇を実施し、このなかで、地域産業コミュニテイとの共同研究や国境を超えた産学の地域間連携に結びつけた在外研究(相互派遣)等を進めていけば、学校の地域機能は、飛躍的に強化されることになります。
 
8.オ-プンイノベ-ションを進める地域プラットホ-ムの設置、運営
 
 産学公地域間連携は、本来、地域産業コミュニティを基盤とした様々なセクタ-の共同事業であり、さらに、それぞれの組織間だけで行うのではなく、それぞれの組織が有するネットワ-クを有効に連携させることによって、飛躍的な問題解決を進め、そのことによって、地域社会での認知と役割を深めていくものです。学校の地域機能の強化と並行して、学校(その他のセクタ-、団体)から独立した予算/管理機能を持つ、オ-プンイノベ-ションのプラットホ-ム(センタ-)を形成していくことは、新技術、新産業、新市場創出に、産業技術の担い手が能動的に挑戦し、創造的な人材を育成し、それらの成果を、より積極的に地域社会と産業コミュニテイに還していくために、是非とも、必要なことです。
 中間自治体としての東京都には、地域の様々な要素を補完しながら、こうしたセンタ-を形成していくことについて、明らかに、責任ある立場にあります。
 このセンタ-には、当然にも、基本的な予算措置、施設整備、人材配置は必要ですが、この事業は、新しいものをつくることを意味しません。産業コミュニテイの様々なセクタ-が、真に対等な立場で、共同の事業を進めていく条件を整備し、組み立てていくことを意味します。最少の予算で、最大の(創造的な)効果を実現する、行政機関の真の能力が試される事業となります。
 地域の産業コミュニテイに、それぞれの拠点を持つ 東京都立産業技術高等専門学校 が、このセンタ-形成を主導することは、地域の産業コミュニテイのイノベ-ションの最新の成果を、学校運営と次世代産業人材育成に反映させるとともに、在籍する研究者に、新しい活躍の場を与え、最良の産業技術教育の機会を獲得することを意味し、地域の産業コミュニティの発展と産業人材育成を結び付け、地域の産業の持続的発展に能動的に関与する新しいステ-ジを開くものです。
 
9.次世代テクノロジ-創成を基軸に産業技術大学院大学の機能の再構築を
 
 産業技術大学院大学の第一義的機能は、産業技術の研究機関であるべきです。 
 併設される高等専門学校、産業技術開発センタ-、その他の首都圏の研究機関、企業などを結び、サイエンスとテクノロジ-、社会の新しいニ-ズとものづくりの基盤技術を結びつけることにより、新技術創生、次世代製品や次世代の産業連関創生へ向かい、その環境で学生を教育することを抜きに、この大学院大学を設置した意義がどこにあるでしょう。
 地域産業コミュニテイの発展に深く結び付くものとして、産業技術についての研究機関を位置付けていく考え方こそ必要です。
 専門的な技術を実践的に学習し、社会に中堅技術者を送り出す高等専門学校(本科)に、専攻科が設置され、さらに、産業技術大学院大学が設置されるとき、これを一体運用し、本科、専攻科、大学院大学の研究者を次世代技術創生へ効率的に振り向け(その中で、学生を教育し)ていくことこそ、これらの機関の社会貢献となるものです。
 
10.国境を超えた人材育成のすみやかな制度化を!
 
 民間講師を登用した「産業のグロ-バル展開論」「わが国の産業形成と世界経済のグロ-バル化」など、国際環境の激変に照応した必修科目の設置
 地域の産業コミュニティや現地の日系企業等の産業界、双方の行政との連携による海外インタ-ンシップの制度化
 海外の教育機関と連携した相互留学の制度化 …… 現地の学校制度、日本語学習の有無、双方の行政の支援、現地日系企業などの産業界の支援や国境を超えた地域間の産学連携の可能性などを深く検討し、実施可能なところから始め、徐々に障害を外しながら拡大していくもの。
 海外留学生に対する公営住宅の優先的な提供、留学生のホ-ムステイに対する行政的支援 
 等々
 
11.小学生、中学生に対する体系的なものづくり教育に対する行政的支援 
 
 わが国の将来をになうものづくり人材育成のためにも、高等専門学校などが進める産業技術教育を有効に進めるためにも、義務教育の段階で、将来の人生選択の糧になる何ものかを、身をもって身につけていただくことによって、義務教育後の進路選択を自らの意思ですることのできる生徒を育てていくことは、極めて、重要です。(解かりやすく言えば、これがあって進学してくるのか? 親に就職に有利だといわれて進学してくるのか? では、学校の雰囲気自体が変わっていきます。)
 この意味で、東京都立産業高等専門学校が、品川区の小中一貫校八潮学園と提携して進めている小中学生に対する「ものづくり授業」を体系化した教育プログラムは、大変、意義の深いものです。
 学校の退官者、民間企業で活躍した高専卒業生の退職人材活用なども含め、このプログラムの広域普及、発展に対する行政的スキ-ムづくり、支援が進められるべきです。
 
12.学校の研究者集団としてのあり方の再検証、再構築 
 
 すでに、別の項でも述べていますが、地方自治体の公共機関としての研究者集団のあり方、研究テ-マ、人材配置などが、戦略的に検証されていかなくてはならないでしょう。
 地域の産業コミュニテイなどの民間企業との人材交流(相互派遣)、海外の研究機関との人材交流(相互派遣)の制度化。
 研究活動 また 学生教育についての(地域の産業コミュニテイを巻き込んだ)他の研究機関との大胆な連携など。