東京都への政策要望/原案 の 第2部 となります。
地域の産業と人材育成、地域社会が直面する課題についての 政策対話のテ-ブルづくり のため
皆様の議論の「下敷き」にしていただけば幸いです。
公立大学法人への移管後の東京都立産業技術高等専門学校のあり方と
産学公地域連携によるオ-プンイノベ-ションのプラットホ-ム形成について
1.25年を超える産学地域連携の蓄積と都立高専の公立大学法人化からみえてくるもの
東京中小企業家同友会では、本部、それぞれの地域支部が、様々な課題をもって、地域の教育機関と産学連携を進めてきました。
特に、東京都立産業技術高等専門学校/品川キャンパス(旧東京都立工業高等専門学校)とは、地元の大田支部を中心に、1984年以来、一貫して続く、交流/連携の歴史があります。
私どもは、戦後の経済成長に立脚する産業の成熟、連続的な技術革新の中で、テクノロジ-を扱う生産現場や企業の経営課題が急速に変化する実際を、幾多の工場訪問(研究室などの相互訪問)の中でお示しし、学生の皆さんに、学校で学ぶ技術が企業の現場でいかに運用されているかを学んでいただく実習教育(今日のインタ-ンシップ)の可能性について、注意深く探り、学校の先生方と公開講座を開催して問題意識の共有化を進めるなど、産学が共同で企画した共同事業を通して、相互の意識を変革し(交流開始当初の取り組み)、これを、ME化に対応する学科改組(生産システム工学コ-ス創設)、新校舎建設、総合科学交流センタ-(当初は、地域の産学が共同で運用する施設を要望)構想などと結びつけ、学校と共に、東京都教育庁に政策要望し、地域の教育機関改革に参画させていただきました。これを、この産学交流の入口をつくり、政策要望を進めた私どもの会員経営者は次のように述べています。
「我々はとにかく高専の先生と人づくりをやっていこう、こういう社会的実験はもう絶対にあり得ない、こんな素晴らしいことができたら、学校の教育機能も変わるし、地域の社会的機能も変わる。そういう夢をずっといだいてやってきた……」(平成14年2月10日刊 学科改組・新校舎完成記念誌『21世紀を翔る』より)
その後も、様々な試行錯誤を学校と共にさせていただき、10年前、学生への中小企業経営者の講義として始めた「中小企業家経営塾」(当初は学生有志を対象にした「私塾」)は、3年目より学校の選択科目となり、この共同運営が、現在も続いています。中小企業家経営塾よりは、担当教授の提案による「大都市産業集積論」(学生が地域の中小企業を訪問して、地域の産業集積をテ-マにレポ-トを作成)、当時の地域連携担当教授による「学生に海外学習の機会を与えたい」という提案には、地域の中小企業、東京中小企業家同友会、同窓会の寄付、財団法人鮫洲会の協力による「大連学生海外派遣」が実現し、私どもの会員が委員として参加した「高専改革検討委員会」では、長期インタ-ンシップの実施、学内インキュベ-ションオフィスの設置、中小企業経営者の講師招へいや外部人材の登用などを提案させていただきました。
昨年のインタ-ンシップでは、品川キャンパスの本科の77名の参加学生のうち30名を、私ども(理化学研究所/大森素形材研究室など、私どものネットワ-クから参画している研究室、企業を含む)で受け入れさせていただきました。
教育基本法の「主語」は日本国民です、次世代の育成は国民自身の仕事であり、地域の産業界の将来の担い手の育成は、その地域の産業の担い手自身の仕事でもあります。
一方、高等専門学校は、「深く専門の学芸を教授し、職業に必要な能力を育成」し、高度な専門知識と実践能力を持った企業の「中堅技術者」を育成することを目的することにより、社会との接続を明確にし、産業構造の変革に結びつく、連続した学校改革をにより、制度成立以来、一貫してその機能を維持することにより、戦後の教育制度のなかで、突出した成果を上げてきたものです(数少ない成功例の一つ)。
地域の産業界に産業人材を送り出す、地方自治体の教育機関に、地域の産業コミュニテイが協力するのは当然のことです。
特に、実践的な高等技術教育を進める高等専門学校では、そのテクノロジ-を、それが運用される生産現場と結びつけて学習し、生産現場の技術革新や生産管理の高度化と結びつけて、学習内容を変更し、また、産学連携による新市場、新技術、新製品創造などのオ-プンなイノベ-ションの場に、学生自身が参加することにより、確信をもって、自らの将来を選択していくことこそ大切です。
大企業の生産拠点が首都圏より姿を消した現在、実践的技術者を育成する高等専門学校が、中小企業を中心とする地域の産業コミュニテイとの深い結びつきの中から(また、国境を超えて一体化する産業システムの産業連関や爆発的に拡大する新興国市場などを身近に知る環境で)、自らの将来を決していくことの意義は、これまで以上に高いものになっています。
多様で高度な製造装置を駆使して、様々な分野の多品種少量生産に取り組む中小企業、試作/金型などで、トップ企業の製品開発を支える企業、狭い市場ではあっても、トップレベルのシェアをもつ製造装置メ-カ-、高機能製品や新技術に挑戦する革新的企業、学会などでも活躍する研究開発型企業、また、これらの企業の属する産業コミュニテイとの産学連携の場は、すでに、この学校の学生が実践的な技術を学ぶ、他にない場になりつつあります。
また、本来、多くの研究者を有し、次世代の担い手を育成する教育機関が、地域の産業コミュニテイの様々な問題を解決し、新技術を発信し、次世代の育成をともに進める拠点となるのは当然のことです。
6年前に進められた都立高専の二校統合、4年前の公立大学法人化にあっては、民間人校長の赴任もあり、学校の改革がより進展し、オ-プンイノベ-ションを進める場を、様々な関係者と共に共同で運営していくことが可能になることを期待をしておりました。
ところが、実際は、産学連携事業の運営は、地域の産業コミュニテイからより離れたところで行われるようになりました。私どもが5年前より進めてきた国際連携事業/大連学生海外派遣についても、学校の皆さまとの議論を深め発展させていきたく考えており、繰り返し、現状の報告やこれからの課題、将来の可能性について、学校の担当責任者に説明させていただきましたが、共同で事業を発展させるためのアクションはなく、学校の方針も明示されませんでした。
私どもは、地域社会の利益のために、産学が、お互いの立場を乗りこえて、共同でつくりあげていくものが産学連携事業と考えておりましたが、公立大学法人への移管のプロセスをへて、これが「奥の院」に仕舞いこまれた …… というのが正直な実感です。
地域の公共機関は、東京都民(国民)の税金によってまかなわれる地域社会の財産です。
地方自治において、市民(地域住民)は、公共機関の運営に、直接参画し、これを育てる責任、義務と権利を有しております。そもそも、地域の様々なセクタ-が共同でつくりあげていくのが 地域社会 です。
言うまでもなく、産学連携は、特定の団体の間で進められるものでも、特定の団体の成果として取り込まれるものでもありません。
学校では、それぞれの先生方が、大変、広い研究者のネットワ-クをお持ちです。もちろん、地域の企業や産業コミュニテイも、その内外に、大きく広がるネットワ-クをもっています。
このような私達の有する地域の資産をよりよく動員して、地域社会の新しい可能性を開き、次世代の育成を進めていく オ-プンイノベ-ションの場が、地域社会を基盤とした産学連携であり、私達が作り上げようとしてきたものです。
何故、このことが機能しなくなったのか? を考え、以下の点について、提案させていただきます。
2.高等専門学校教育の目的、その発展を目指す実践的指標、ビジョンの明確化を
第一に、都立高等専門学校の公立大学法人首都大学傘下への統合プロセスを、一から見直していただくべきであると考えます。
公立大学首都大学東京の「改革加速アクション・プログラム」は、「制度疲労に陥った既存の教育システムを変革していくには、まず、大学における教育改革の実行が不可欠」とし、制度疲労に陥った既存の教育システムの頂点にある大学改革を進めるのが、公立大学法人設置の目的であったことを明示しています。
ところが、一般の義務教育、普通科高校、大学という教育課程が制度疲労し、工業高校などの専門職業教育の担い手の多くが、産業構造の変化に対応できずに荒廃する中、当初より、社会との接続を明確にするとともに、産業構造の高度化に対応し、教育プロセスの改革を進め、卒業生受入先企業など、社会よりの高い評価を維持し続けてきたのが 高等専門学校 の教育です。
産学連携でも、品川キャンパス(旧工業高専)では、学校の機能を外部に提供する(学校中心の)段階から、地域の産業コミュニテイとの共同事業、その産学地域連携を基軸とした学校改革へと歩を進めていた段階です。
(荒川キャンパスでも、学生による人工衛星軌道投入を地元の企業が支援しており、同様の取り組みを進める基盤が形成されています。)
本来、高等専門学校の教育は、「制度疲労に陥った既存の教育システム」改革の教訓をくみ取ったり、改革の実践的指標となるものであったはずです。ところが、公立大学法人傘下への統合プロセスでは、産業界や地域産業コミュニテイに対して、また、学校で学ぶ学生が自らの人生を能動的に選択するうえでの肯定的な役割を果たし続けてきた 高等専門学校 の教育の独自の発展が考慮も、意識もされなかったようです。
改革で先行するセクタ-が、改革を先送りし「制度疲労に陥った既存の教育システム」の一からの改革のプロセスに同居を強制され、新しい目標を設定することに、雁字搦めに足かせを嵌められるようであれば、どこから本来の改革を主導する原動力が生まれてくるのでしょうか?
改革で成果を上げたセクタ-に、予算がと人員が配置され、新しい課題に挑戦する環境が整えられず、制度疲労に陥ったセクタ-の手当てだけが考えられるのであれば、成果主義は死滅していくでしょう。
本来、高等専門学校の教育は「深く専門の学芸を教授し、職業に必要な能力を育成することを目的とする」ことにより、企業の技術開発(製品開発)、生産管理などの現場に直結する担い手に要求される能力を育成し、「7年間を要する高校段階から大学工学部レベルの教育を、重複なく5年間で完成する一貫教育を行う」とするもので、明確な目標をもち、また、産業構造の高度化や環境変化に対応して教育プロセスを不断に変革することにより、その目的を達成してきたものです。
公立法人首都大学東京には、高等専門学校の教育についての専門的な担当者がいないようですが、一般の大学教育や「制度疲労のシステムからの脱却」に埋没しない 高等専門学校教育の目標設定と実施基準がつくられているのでしょうか? また、予算や人材配置の基準はどうつくられているのでしょうか? ほとんど、理解に苦しむ(客観的に説明できない)状態であろうかと思われます。
東京都総務局(首都大学支援部) ならびに 公立大学法人首都大学東京に、高等専門学校の教育や地域産業コミュニテイに精通する専任の担当者を置き、東京における高等専門学校の教育の目標やその果たすべき役割について、再定義を進めるべきです。
3.地域産業産業コミュニテイに立脚した学校(各キャンパス)の地域機能の再生、再構築を
東京都立産業技術高等専門学校には、荒川と品川という都内を代表する産業集積地に、二つのキャンパス(多摩地域には国立高専)があります。ところが、それぞれの地域機能を重視し、それぞれのキャンパスを独自に発展させようとする意志がなく、上部機構が決められたことを決められた通り、横並びに執行していく考え方になっており、それぞれの産業コミュニテイを基盤に、産学が共同の事業を進めていくことが成り立たない環境なっています。
品川キャンパスでは、学科改組、新校舎建設へ向かう平成3~4年当時、「品川、大田地域に都立高専があって、企業の方との交流も進んでいるんだ。こういう例は全国にもありません。これは我が校の宝だし、東京都の宝だし、国の宝なので、これを大事に育てないで、なんで教育なんだ」「地域交流を基にした(企業との)共同研究を柱にしていかないと本当の意味のお宝はできないんだ。高専の特徴はそこにあるんだ」(当時の校長飛田満彦氏 平成14年2月10日刊 学科改組・新校舎完成記念誌『21世紀を翔る』の「座談会」より)とし、学科改組、新校舎建設後を展望する平成13年には、「ここに来て、再び改革の大きな嵐に直面し……学校の存在そのものが問われる……一方では、地域の中で高専の存在がますます重要になっている」(前述の『21世紀を翔る』「座談会」/司会の三浦勝也教授/当時)「まず改革構想の根本は産学公連携……専攻科の特色は地域産業界との産学連携と昼夜開講……1学級減の余ったエネルギ-を専攻科と(総合科学)交流センタ-に振り分けていく」(同前/伊藤邦彦教務主事/当時)と、学校改革の基軸に、地域の産業コミュニテイとの産学連携を据え、学校の独自性を追求しようとしていたことを考えるならば、ほとんど180度の方向転換がなされたといえます。連続する組織改組により、この(180度の方針転換がなされた)こと自身が、校内でも認識されていないように思います。
荒川キャンパスでは、学生による人工衛星投入を地域の中小企業が寄付で支援するなど、地元企業の強い支援があり、荒川、墨田、葛飾の地域には、私達の会員やネットワ-クに、早稲田大学、一橋大学、研究機関など産学連携を進め、新技術を開発や企業間連携のものづくりによる地域おこしを進めるグル-プがあり、ここにおいても、産学連携を基軸とした学校改革の条件があります。学校の地域機能を強化するためのよいアイディアを生み出せないか? 地域コミュニテイとの産学連携を、解りやすく学校改革の指針に位置付けるなど、そのアイディアを生み出す環境が与えられていないか? のどちらかであろうと思われます。
私どもが、25年を超える紆余曲折のなかで、この共同事業を育ててきたように、産学公地域連携の共同事業を発展させていくためには、長期にわたる地道な取り組みと、それを可能とする条件整備、それぞれの地域の産業コミュニテイのあり方や環境の違いへの深い理解(相互理解)に基づいて、それぞれ、独自の事業を発展させていくことが必須の条件となります。「上部機関」の意向により、学校の基本的在り方がコロコロ変わるようであれば、この条件づくりを進めることは、ままなりません。
4.産学連携を進め、学校の地域機能を強化していくため、統括的な運用機構を各キャンパスに
学校の機能を社会に開放し、様々なセクタ-と共同事業を進め、これを学校の地域機能の強化へと、効果的に結び付けていくためには、この全体を統括する機能が必要です。
これらの活動と情報を集約し、学校の機能開放や他のセクタ-との共同事業から、日々生じていく、新しい課題、新しい社会的結びつきやその可能性などについて、正しく評価し、事業全体を発展させ、学校の地域機能を強化するとともに、より広く、より深く、他のセクタ-と共有し、拡大していく方針を決定していくのがこの統括機能の役割です。
かつては、品川キャンパスの総合科学交流センタ-が、学校長をトップとした委員会によって管理されると共に、様々な検査室、実験室、測定室、技術相談室等の(対外)共同利用施設など、850㎡を管理下において、包括的な運用機能を形成していました。ところが、この機能が、なし崩し的に解体されると、学校に、対外共同事業を創出したり、これに方向性を与えていく自主的能力が失われたように思います。
学校の対外活動が、行政事務の業務分掌のように、中小企業家経営塾(中小企業経営者の講義を軸とする選択科目……ただし、これを実施するセクションに担当教授が入っていない)、インタ-ンシップ、国際化(学校の国際化と中小企業家経営塾学生海外派遣のあり方は??)、現役技術者の再教育、小中学生へのものづくり教育、共同研究等々が、それぞれがバラバラに行われていれば、学校の地域機能についての情報を集約、評価し、全体の目標を設定し、地域の産業コミュニテイや様々な社会的セクタ-との共同事業を有効に組み立てたり、産業経済社会の激しい変化を、有効に、学校運営のなかに組み込んでいくことはできません。
この対外統括機能は、学校(それぞれのキャンパス)の地域機能強化を目的に、学校長(または、その直轄のそれぞれのキャンパスの責任者)をトップとて、それぞれのキャンパスで、独自のセンタ-機能を持つものでなくてはならないでしょう。
もちろん、研究者集団としての学校のあり方や研究テ-マ設定 と 地域社会の公共機関としての学校のあり方を結びつける結節点に位置するのも、このセンタ-となるでしょう。
5.高等専門学校の教育に対する正当な評価、その独自性の理解にもとずく人員の配置、予算配分を
卒業生のうち、就職希望者の求人倍率は15倍(リ-マンショック前は20倍)、受け入れ先の産業界より、高い評価を受け続け、OECDの調査団に、「日本の大学、特に、大学院教育は弱い、けれども、高専は素晴らしい、感心します」(世界思想社刊『技術者の姿……技術立国を支える高専卒業生たち』より)と評価されたのが、わが国の高等専門学校の教育です。
戦後のわが国の教育制度の中で、社会との接続を意識した明確な目標を持つとともに、知識をその知識を運用する実践的な能力と合わせて形成し、憲法の「職業選択の自由」を、実践的に保障する能力を学生たちに与え続けるとともに、わが国ものづくりと知識社会(知識主導経済)を結びつける人材育成基盤の役割を果たしてきたのが、高等専門学校の教育です。
規模は小さい(メインストリ-ムを外れる?)とはいえ、わが国の戦後教育の中で突出した成果を上げてきた高等専門学校に対する正当な評価がなされているでしょうか? その評価にもとずく人員(人材)の配置がなされているでしょうか? 大変、疑問です。
また、後期中等教育、高等教育、専門技術教育、研究 等の領域を合わせて進める 高等専門学校の特殊性、「標準的な総授業時間数は、高校と短大を併せた時間数を大幅に上回り」「高校段階から大学工学部レベルの教育を、重複なく5年間で完成する一貫教育を行う」独自性についての正しい理解に基づいた人員(人材)配置、予算配分がなされているでしょうか?
戦後の高等専門学校の教育が、こうした複雑な課題に取り組み、様々な問題解決の道筋を見出すことによって、多くの成果を上げてきたことが、正しく評価されているでしょうか?
あるいは、地方自治体が高等専門学校を設置、運営し(地方自治体で、高等専門学校を設置するのは、東京都、大阪府、神戸市のみ)、この制度を地域社会の発展に運用する独自の意義や方策が、行政の執行機関の中で、どこまで検討、検証されてきたでしょうか?
大変、疑問です。
成果を上げた部署に、人員を配置し、予算を配分する「成果主義」が、本当に実践されているのでしょうか? むしろ、逆行することが行われているのではないでしょうか?
よい成果(アウトプット)を上げた部門には、この成果を発展させ、創造的に展開し、新しい課題に取り組む 裁量権 や 新しい成果を生み出す インプットの機会 を与え、それに相応しい人員や予算がつけられるのが当然のことです。
地方自治体の執行機関(また、議会)が、横並びの人員配置、予算配分を続けながら、成果のみを刈り取ろうとすれば、「闘う現場」は疲弊し、現状改革を回避する部門が延命していくことになります。
私達がなすべきなのは、成果を生み出す現場の能力を、その果実を受け取る社会との結びつきによって評価して、権限、人員、予算の再配分を進め、現状改革を回避する部門を延命させたり、目先の成果だけを約束する部門を優遇したりすることではなく、イノベ-ションの能力が、継続的に集積していく部門を、ひとつ、ひとつ育て上げていくことでなくてはなりません。
また、公立大学法人首都大学では、高等専門学校教育の独自の発展を進める制度やビジョンの整備が進められているでしょうか?
東京都と公立大学法人は、戦後のわが国の教育制度のなかで、突出した成果を上げてきた高等専門学校の教育、その基盤となった独自性を理解し、高等専門学校の教育の独自の発展を保障するためのガバナンスの整備、学校の裁量権、人員や予算の抜本的な拡大を行うべきです。
6.産学連携を進め、学校の地域機能を強化していくための専任スタッフの設置を
前々項の産学連携を進め、学校の地域機能を強化していくための統括機構には、産学公地域連携のコ-ティネ-タ-を務める常勤の専任のスタッフ(プラス事務機能)が配置されるべきです。
この専任スタッフは、退職者の再雇用などの「特任」でも構いませんが、地域産業コミュニテイと学内に精通した産学公地域連携の有経験者とし、学外のニ-ズと学校のシ-ズ、能力を結びつける窓口となり、両者による多様な連携を支えるとともに、その情報を集約し、センタ-機能の統括基盤となることが必要です。
7.研究休暇制度の大胆な導入
後期中等教育、高等教育、専門技術教育等の領域を合わせて進める高等専門学校の教員が、研究者としての自立性、独自性を確保し、学校を地域コミュニテイにおける産業技術の研究者の拠点として機能させ、教育/研究機関としての本来の性格を回復していくために、研究休暇制度の大胆な導入が、是非とも、必要です。
7~8年(できれば5年)に1回、1年間の研究休暇を実施し、このなかで、地域産業コミュニテイとの共同研究や国境を超えた産学の地域間連携に結びつけた在外研究(相互派遣)等を進めていけば、学校の地域機能は、飛躍的に強化されることになります。
8.オ-プンイノベ-ションを進める地域プラットホ-ムの設置、運営
産学公地域間連携は、本来、地域産業コミュニティを基盤とした様々なセクタ-の共同事業であり、さらに、それぞれの組織間だけで行うのではなく、それぞれの組織が有するネットワ-クを有効に連携させることによって、飛躍的な問題解決を進め、そのことによって、地域社会での認知と役割を深めていくものです。学校の地域機能の強化と並行して、学校(その他のセクタ-、団体)から独立した予算/管理機能を持つ、オ-プンイノベ-ションのプラットホ-ム(センタ-)を形成していくことは、新技術、新産業、新市場創出に、産業技術の担い手が能動的に挑戦し、創造的な人材を育成し、それらの成果を、より積極的に地域社会と産業コミュニテイに還していくために、是非とも、必要なことです。
中間自治体としての東京都には、地域の様々な要素を補完しながら、こうしたセンタ-を形成していくことについて、明らかに、責任ある立場にあります。
このセンタ-には、当然にも、基本的な予算措置、施設整備、人材配置は必要ですが、この事業は、新しいものをつくることを意味しません。産業コミュニテイの様々なセクタ-が、真に対等な立場で、共同の事業を進めていく条件を整備し、組み立てていくことを意味します。最少の予算で、最大の(創造的な)効果を実現する、行政機関の真の能力が試される事業となります。
地域の産業コミュニテイに、それぞれの拠点を持つ 東京都立産業技術高等専門学校 が、このセンタ-形成を主導することは、地域の産業コミュニテイのイノベ-ションの最新の成果を、学校運営と次世代産業人材育成に反映させるとともに、在籍する研究者に、新しい活躍の場を与え、最良の産業技術教育の機会を獲得することを意味し、地域の産業コミュニティの発展と産業人材育成を結び付け、地域の産業の持続的発展に能動的に関与する新しいステ-ジを開くものです。
9.次世代テクノロジ-創成を基軸に産業技術大学院大学の機能の再構築を
産業技術大学院大学の第一義的機能は、産業技術の研究機関であるべきです。
併設される高等専門学校、産業技術開発センタ-、その他の首都圏の研究機関、企業などを結び、サイエンスとテクノロジ-、社会の新しいニ-ズとものづくりの基盤技術を結びつけることにより、新技術創生、次世代製品や次世代の産業連関創生へ向かい、その環境で学生を教育することを抜きに、この大学院大学を設置した意義がどこにあるでしょう。
地域産業コミュニテイの発展に深く結び付くものとして、産業技術についての研究機関を位置付けていく考え方こそ必要です。
専門的な技術を実践的に学習し、社会に中堅技術者を送り出す高等専門学校(本科)に、専攻科が設置され、さらに、産業技術大学院大学が設置されるとき、これを一体運用し、本科、専攻科、大学院大学の研究者を次世代技術創生へ効率的に振り向け(その中で、学生を教育し)ていくことこそ、これらの機関の社会貢献となるものです。
10.国境を超えた人材育成のすみやかな制度化を!
民間講師を登用した「産業のグロ-バル展開論」「わが国の産業形成と世界経済のグロ-バル化」など、国際環境の激変に照応した必修科目の設置
地域の産業コミュニティや現地の日系企業等の産業界、双方の行政との連携による海外インタ-ンシップの制度化
海外の教育機関と連携した相互留学の制度化 …… 現地の学校制度、日本語学習の有無、双方の行政の支援、現地日系企業などの産業界の支援や国境を超えた地域間の産学連携の可能性などを深く検討し、実施可能なところから始め、徐々に障害を外しながら拡大していくもの。
海外留学生に対する公営住宅の優先的な提供、留学生のホ-ムステイに対する行政的支援
等々
11.小学生、中学生に対する体系的なものづくり教育に対する行政的支援
わが国の将来をになうものづくり人材育成のためにも、高等専門学校などが進める産業技術教育を有効に進めるためにも、義務教育の段階で、将来の人生選択の糧になる何ものかを、身をもって身につけていただくことによって、義務教育後の進路選択を自らの意思ですることのできる生徒を育てていくことは、極めて、重要です。(解かりやすく言えば、これがあって進学してくるのか? 親に就職に有利だといわれて進学してくるのか? では、学校の雰囲気自体が変わっていきます。)
この意味で、東京都立産業高等専門学校が、品川区の小中一貫校八潮学園と提携して進めている小中学生に対する「ものづくり授業」を体系化した教育プログラムは、大変、意義の深いものです。
学校の退官者、民間企業で活躍した高専卒業生の退職人材活用なども含め、このプログラムの広域普及、発展に対する行政的スキ-ムづくり、支援が進められるべきです。
12.学校の研究者集団としてのあり方の再検証、再構築
すでに、別の項でも述べていますが、地方自治体の公共機関としての研究者集団のあり方、研究テ-マ、人材配置などが、戦略的に検証されていかなくてはならないでしょう。
地域の産業コミュニテイなどの民間企業との人材交流(相互派遣)、海外の研究機関との人材交流(相互派遣)の制度化。
研究活動 また 学生教育についての(地域の産業コミュニテイを巻き込んだ)他の研究機関との大胆な連携など。