第1 総論
1.手続きの種類
借金問題を解決するには,任意整理、自己破産、個人再生という3つの手段があり,これらをまとめて債務整理と呼びます。
これら3つのうち,どの手続を利用するかについては,弁護士と相談の上,決めることになります。
なお,法人の破産申立てについては別の機会に書きたいと思います。
2.弁護士に依頼するメリット(任意整理,自己破産,個人再生に共通のメリット)
・弁護士が債権者に対して受任通知を出すと,債権者による取り立てが止まる(弁護士の受任通知後到達後に債権者が取り立てを行うことは犯罪になります)。
・過払い金がある場合があり,過払い金を回収できる可能性がある。
3.手続選択の基準
ア 債務額の確定
手続を選択する前提として,債権者から開示された取引履歴をもとに引き直し計算を行い,債務額を確定する必要があります。
イ 任意整理か自己破産か
総債務を3年以内(長くても5年以内)で完済することができるか否かが目安となります。
通常,債権者は5年以上の返済計画には応じません。そこで,債務を長くとも5年以内で返済することができるのであれば任意整理を検討しますが,それが無理な場合には,自己破産や個人再生を検討することになります。
また,住宅など手放したくない財産がある場合や資格制限の可能性がある場合,免責不許可事由にあたることが明確であり,軽微とも言えないような場合には,自己破産の利用は避け,他の手続によることを検討します。
第2任意整理について
1 任意整理とは
任意整理とは、弁護士が、債権者と交渉し、新たな弁済計画で和解することを言います。任意整理は,当初の契約通りに返済することが困難な状況となった場合に,返済可能な条件で返済計画を練って新たに契約し直すものです。ですので,任意整理では,自己破産とは異なり,債務を全額支払うのが原則であり,通常3年~5年以内で全額を返済することになります。
毎月の返済可能額の範囲内で分割払いの合意をすることにより,遅延損害金が膨らんでいくのを防ぎ,返済について見通しを立てることができます。
任意整理の受任から和解の成立まで,約2~3か月程度かかります。
2 任意整理のメリット・デメリット
ア メリット
・分割払いとすることができる。
・債務を減額できる場合がある(遅延損害金のカットなど)。
・弁護士が債権者に対して受任通知を出すと債権者による取り立てが止まる。
・過払い金がある場合があり,過払い金を回収できる可能性がある。
・自己破産と異なり,資格制限がない。
・自己破産・個人再生と異なり,官報に公告されない。
・免責不許可事由がある場合にも利用できる。
イ デメリット
・基本的には債務の全額を支払わなければならない。
・弁護士費用がかかる。
・銀行から借り入れがある場合、当該銀行の全支店の利用ができなくなる。
→借入先銀行を給与の振込先にしている場合は、変更しておく必要がある。
・信用情報機関(ブラックリスト)に登録され、約5~7年の間、ローンや借り入れ,クレジットカードの利用ができなくなるおそれがある。
→任意整理をしなくても,返済が滞れば,いずれは信用情報機関(ブラックリスト)に登録されてしまう。
3 任意整理の流れ
ア 方針の検討
依頼者から総債務額,月々の返済可能額やどの手続を利用したいかの意向などをお聞きした上で,どの手続を利用するか決定します。
イ 受任
依頼者と弁護士の間で任意整理の方針で進めることになった場合は,依頼者が任意整理を弁護士に依頼し、弁護士がこれを受任することで委任契約が成立し,任意整理手続きが開始します。
ウ 受任通知の発送
任意整理を受任した弁護士は、まず、債権者に対して受任通知を発送します。受任通知後、債権者が債務者に対して取り立てをすることは禁止されます。これに違反して債権者が取り立てをすると、登録取り消し、業務停止、刑事罰の対象となる可能性があります。
エ 債務調査
受任通知の発送と同時に,債権者に対して取引履歴の開示を求めます。債権者が取引履歴を開示するまで通常1~2か月程度かかります。債権者から取引履歴の開示を受けたら、債務額を調査し、確定します。
このとき、引き直し計算をして過払い金があれば回収します。
オ 弁済計画の作成
依頼者と相談しながら,調査により明らかになった債務額と現在の月々の返済可能額を踏まえて返済計画を作成します。3年以内での完済が目安です。長くても5年の返済計画を作成します。
カ 債権者との交渉
弁済計画を債権者に対して提示し、債権者が納得すれば、和解契約を締結します。債権者が複数ある場合には,合意に至った債権者から和解を成立させていきます。
キ 弁済
依頼者は、債権者との間で和解した内容に沿って、弁済をしていくことになります。
4 任意整理にかかる費用
裁判所は利用しないので,裁判費用はかかりません。
弁護士費用はかかります。
第3 自己破産
1 自己破産とは
自己破産とは,債務者の資産を債権者に分配するとともに、債務者の負債について免責する手続を言います。
任意整理や個人再生と異なり,租税債務など一定の債務を除いて,債務が全て免責されることが自己破産の特徴であり,債務者からすれば,債務の免責すなわち借金を帳消しにすることに自己破産手続を利用する最大の目的があります。
自己破産の手続には,同時廃止事件と管財事件があります。同時廃止事件の場合は,自己破産の申立てから免責許可決定の確定まで約4か月程度かかります。管財事件の場合は,事案にもよりますが,自己破産の申立てから免責許可決定の確定まで,少なくとも約4~6か月程度かかります。
2 自己破産のメリット・デメリット
ア メリット
・借金が帳消しになる(ただし、租税債務など一定の債務は免責されない)。
・弁護士が債権者に対して受任通知を出すと債権者による取り立てが止まる。
・過払い金がある場合があり,過払い金を回収できる可能性がある。
イ デメリット
・不動産や自動車など価値のある財産を手放すことになる(20万円以上が目安)。
・資格制限がある(詳細は後述)。
・信用情報機関(ブラックリスト)に登録され、約5~7年の間、ローンや借り入れ,クレジットカードの利用ができなくなるおそれがある。
→任意整理をしなくても,返済が滞れば,いずれは信用情報機関(ブラックリスト)に登録されてしまう。
・自己破産したことが官報に掲載される。
→しかし,官報を購読している人はめったにいない。
・保証人への請求、担保権の実行のおそれがある。
・免責許可決定から7年間は免責許可決定を受けることができない。
・免責不許可事由があると免責されない。
→免責不許可事由があっても軽微な場合などは免責される場合がある。
ウ 注意点
自己破産については誤解されている点があるので,自己破産手続の利用に当たっては以下の事実は理解しておく必要があります。
・自己破産をしても,選挙権は制限されない。
・自己破産をしたことは戸籍や住民票には記載されない。
・自己破産によって帳消しになった債務を親戚が代わりに払うことになるということもない。
・自己破産をしても勤務先にその連絡が行くわけではない。
・自己破産後に得た収入は自由に使うことができる。
・自己破産をしても,同時廃止事件となれば長期旅行や海外旅行はできる。
・自己破産をしたからといって,アパートやマンションを出て行かなければならないわけではない。
・自己破産をしても,服や家具など全ての財産を差し押さえられる訳ではなく,生活に必要な財産への差押えは禁止されている。
・自己破産のみを理由に解雇することはできません。
3 自己破産の流れ
ア 方針の検討
依頼者から債務額,返済可能額やどの手続を利用したいかの意向などをお聞きした上で,どのような手続を利用するか決定します。
イ 受任
依頼者が自己破産を弁護士に依頼し、弁護士がこれを受任します。
ウ 受任通知の発送
自己破産を受任した弁護士は、まず、債権者に対して受任通知を発送します。受任通知後、債権者が債務者に対して取り立てをすることは禁止されます。これに違反して取り立てをすると、登録取り消し、業務停止、刑事罰の対象となります。
エ 債務調査
受任通知の発送と同時に,債権者に対して取引履歴の開示を求めます。債権者が取引履歴を開示するまで通常1~2か月程度かかります。債権者から取引履歴の開示を受けたら、債務額を調査し、確定します。
このとき、引き直し計算をして過払い金があれば回収します。
オ 必要書類の収集・弁護士との打ち合わせ
依頼者は、破産手続開始申し立てに必要な書類を集め、弁護士に渡します。
カ 破産手続開始申立て
弁護士が、破産手続開始申立書を裁判所に提出することで、破産手続開始の申し立てを行います。
キ 破産手続開始決定
裁判所が、破産手続開始決定を出すことで破産手続が開始します。
ク 破産手続開始決定後~免責許可決定
ここからは、管財事件と同時廃止事件で異なります。
(管財事件の場合)
㋐管財人による調査
管財人との面談があります。本人,申立代理人弁護士,管財人で面談します。管財人の事務所で行うことが多いです。
㋑債権者集会
破産手続廃止決定から約3ヶ月後に第1回の債権者集会が開かれます。債権者集会は裁判所で開かれます。本人は出席しなければなりません。
㋒配当
(同時廃止事件)
㋐破産手続の廃止決定
裁判所が,破産手続廃止決定をするとともに,破産手続を終了させます。
㋑免責審尋
審尋が行われるか否かは裁判官が裁量によって決定します。
審尋では,破産者が裁判官と10分程度話をすることになります。
返済が不可能か,免責するのが適切かを判断するための審尋なので,借金をした理由,返済が困難になった経緯,浪費癖等について聞かれます。
ケ 免責許可決定の通知
免責許可決定が出されると,通知が来ます。
免責不許可決定がされた場合は,免責不許可決定の通知が到達してから1週間以内であれば,即時抗告をすることができます。
コ 官報公告
免責許可決定から約10日ほどで,免責許可が出たことが官報で公告されます。
サ 免責許可確定
官報の公告から2週間以内に債権者の即時広告がなければ,免責許可決定が確定します。免責許可決定が確定すると,申請により免責許可確定証明書を入手することができます。
4 同時廃止事件と管財事件の振り分け
自己破産は,同時廃止事件と管財事件に分けられます。
ア 管財事件とは
管財事件では,破産管財人が裁判所によって選任されます。破産管財人は,破産者の資産の調査やその換価をします。破産管財人の報酬は,破産者の支払う予納金によってまかなわれるので,管財事件では,同時廃止事件に比べて予納金が高くなります。
イ 同時廃止事件とは
破産管財人は破産者の資産の調査やその換価を職務としていますが,破産者に資産がないことが明らかであれば,管財人を選任する必要はなく,管財人は選任されません。このように,管財人が選任されない場合には,破産手続開始決定と同時に破産手続が終了するので,同時廃止事件と言います。
同時廃止事件では,管財人に報酬を支払わなくて良い分,管財事件に比べて予納金が少なくてすみます。
ウ 振り分けの基準
以下の場合は,管財事件となる可能性が高いです。
①20万円以上の現金がある場合
②20万円以上の資産がある場合
不動産がある場合などがこれにあたります。
③不動産の被担保債権額が不動産処分予定価格の1.5倍未満の場合
④免責調査が必要な場合
免責不許可事由の存在が明らかで,軽微とも言えない場合には,裁量免責の相当性を判断するために,破産管財人による調査が必要な場合があります。
⑤債務者が個人事業主で資産調査が必要な場合
5 免責されない場合
以下の事由がある場合には、原則として免責されません。ただし、以下の事由がある場合でも、軽微なものであれば、裁判所が裁量で免責を認める場合があります(裁量免責)。
①財産の隠匿・損壊・不利益処分・不当価値減少行為
破産管財人に対して財産の存在を隠したり,債権者を害するために保有する財産を損壊したりする場合がこれに該当します。
②破産手続開始遅延目的による著しく不利益な条件による債務負担や信用取引によって買い入れた商品の著しく不利益な条件による処分
③非義務的偏波行為
④浪費・賭博等の射幸行為による著しい財産減少・過大な債務負担
宝石やブランド品など高価品の購入や海外旅行,ギャンブルなどが問題となります。
⑤債権者を騙した詐術による借り入れ
弁護士への債務整理の依頼後に,クレジットカードを利用して物品を購入した場合はこれに該当するか問題となります。
⑥業務財産関係の帳簿等の隠滅・偽造・変造
⑦虚偽の債権者名簿の提出
債権者名簿に債権者全員を記載しない場合がこれに該当します。
⑧裁判所の調査に対する説明拒否・虚偽説明
⑨不正の手段による管財人等の職務の妨害
⑩破産手続中の義務違反行為
⑪7年以内の免責取得
1度自己破産をして免責決定を受けると,免責決定の確定日から7年間は,免責許可決定を受けることができません。
6 免責されない債務
免責許可決定を受けても,以下の債務については免責されません。
①租税債務
②破産者が悪意により加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
③破産者が故意・重過失により加えた人の身体・生命を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
④扶養料や子の監護費用,婚姻費用分担の請求権
養育費も免責されません。
⑤破産者の使用人の給料等の請求権
⑥破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった債権
⑦罰金等の請求権
7 資格制限
自己破産手続の開始決定により,一定の資格が制限されます。資格制限は復権により回復されます。通常は,免責許可決定の確定により,復権がされ,資格制限もなくなります。
資格制限を受けるのは,弁護士,公認会計士,弁理士,後見人,損害保険代理店,生命保険募集員,警備員などです。
8 財産を隠して自己破産を申し立てた場合(詐欺破産)
ア 財産を隠して自己破産を申し立てたると,免責不許可事由に該当し,自己破産手続において免責されない(つまりは借金がなくならない)上に,詐欺破産罪として罪に問われる可能性があります。
9 自己破産にかかる費用
ア 裁判所に支払う費用
㋐予納金
・同時廃止事件の場合 10,000~30,000円
・管財事件の場合 20万円~
※個人の破産申立ての場合は,25万円となることが多いです。
㋑収入印紙 1,500円
㋒郵便切手 3,000~15,000円
イ 弁護士費用
弁護士費用については,15~30万円程度のところが多いのでしょうか。
第4 個人再生
1 個人再生とは
個人再生とは、借金の一部を免除してもらい,残額を3年間で分割払いしていくという手続です。
個人再生には,小規模個人再生と給与所得者等再生の2種類があります。ただし,給与所得者等再生は,債務が減額される程度が小さく,あまり利用されていないので,以下では,小規模個人再生について説明します。
小規模個人再生とは,
小規模個人再生の申立てから再生計画の認可決定までは,約6か月ほどかかります。
2 個人再生のメリット・デメリット
ア メリット
・弁護士が債権者に対して受任通知を出すと債権者による取り立てが止まる。
・過払い金がある場合があり,過払い金を回収できる可能性がある。
・住宅を維持できる。
・返済総額を約8割程度減額できる(総債務額によって減額の程度は異なる)。
・再生手続開始申立てにより,債権者は給与差押え等の強制執行ができなくなる。
・自己破産と異なり,資格制限がない。
・自己破産と異なり,免責不許可事由があっても利用できる。
イ デメリット
・継続した収入がない場合には,個人再生を利用することができない。
・原則として,3年間は支払いを続けなければならない。
・再生委員への報酬を支払わなければならず,費用がかかる。
・申立てから再生計画の認可まで約6か月かかり,時間と労力がかかる。
・信用情報機関(ブラックリスト)に登録され、約5~7年の間、ローンや借り入れ,クレジットカードの利用ができなくなるおそれがある。
→任意整理をしなくても,返済が滞れば,信用情報機関(ブラックリスト)に登録されてしまう。
・個人再生を利用したことが官報に掲載される。
・住宅ローンは減額されない。
・一部債権について一括返済にするなどの融通が利かない。
3 個人再生の流れ
ア 方針の検討
依頼者から債務額,返済可能額やどの手続を利用したいかの意向などをお聞きした上で,どのような手続を利用するか決定します。
イ 受任
依頼者が個人再生を弁護士に依頼し、弁護士がこれを受任することで再生手続は開始します。
ウ 受任通知の発送
個人再生を受任した弁護士は、まず、債権者に対して受任通知を発送します。受任通知後、債権者が債務者に対して取り立てをすることは禁止されます。これに違反すると、登録取り消し、業務停止、刑事罰の対象となります。
エ 債務調査
債権者から取引履歴の開示を受け、債務額を調査し、確定します。
このとき、引き直し計算をして過払い金があれば回収します。
オ 必要書類の収集・弁護士との打合せ
依頼者は、個人再生申立てに必要な書類(住民票や給与明細など)を集め、弁護士に渡します。
カ 個人再生申立て
弁護士が、個人再生手続開始申立書を裁判所に提出することで、個人再生手続開始の申し立てを行います。
キ 再生計画案の作成・家計収支表作成・通帳に一定額の積立て
弁護士と打合せを行い,再生計画案を作成します。
個人再生申立て直前の2か月分の家計収支表をつけていただきます。また,通帳に一定の額を積み立てていただきます。
ク 再生計画案提出
再生計画案と家計収支表,通帳の写しを裁判所に提出します。
ケ 再生計画認可決定
再生計画案の認可決定が認可されて確定すると,手続は終了します。
コ 支払開始
再生計画に沿って,返済を開始していただきます(3年又は5年)。
サ 返済終了
再生計画に沿って,返済を終了すると,債務の残額が免除されます。
4 個人再生を利用するための条件
ア 個人であること
法人には民事再生手続など別の手続が用意されているので,法人は個人再生手続を利用できません。
イ 支払不能のおそれがあること
ウ 将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあること
サラリーマンだけでなく,自営業者,農業従事者,歩合制の労働者(タクシーの運転手など)など,収入が定期的でなく,額の変動が大きいという事情があっても,将来(約3年間)にわたって,継続又は反復して収入を得られる見込みがあればよい。
エ 債務総額が5000万円以下であること
住宅ローン,担保権付債権,税金等を除いた債務が5000万円以下であることが必要です。
5 債務の減額の程度
総債務額の大きさによって減額の程度は異なります。
ア 総債務額が100万円未満の場合
債務の全額を支払う必要があります。
イ 総債務額が100万円以上500万円未満の場合
100万円を支払う必要があります。
ウ 総債務額が500万円以上1500万円未満の場合
債務額の5分の1を支払う必要があります。
エ 総債務額が1500万円以上3000万円未満の場合
300万円を支払う必要があります。
オ 総債務額が3000万円以上5000万円以下の場合
債務額の10分の1を支払う必要があります。
カ 総債務額が5000万円を超える場合
個人再生は利用できません。
6 支払い方法
債務者は,上記のように減額された金額を,再生計画案認可後,通常3年間(特別の事情があるときには5年間)で分割して支払っていくことになります。
返済額が100万円となった場合の毎月の返済額は約2万8000円となります。
7 給与所得者再生
小規模個人再生を利用する条件を満たしていて,かつ,給与等の安定収入があり,収入の変動幅が小さい場合には,給与所得者再生を利用することができます。
もっとも,一般に,小規模個人再生の場合よりも返済額が大きくなるため,あまり利用されていません。
8 個人再生にかかる費用
ア 裁判所に支払う費用
イ 弁護士費用
弁護士費用については,15~30万円程度はかかることが多いと思います。
第5 過払い金返還請求
1 過払い金とは
過払い金とは,本来支払う義務がないにもかかわらず,支払ってきた払いすぎた利息のことです。
2 過払い金が生じる理由
出資法では,金利の上限は29.2%とされており,これに違反すると,刑事罰が科せられます。そこで,消費者金融や信販会社などは,出資法に違反しないように,25~29%程度の金利で貸付を行っていました。しかし,利息制限法では金利の上限は15~20%に制限されており,これを超える部分の金利は無効とされています。
したがって,利息制限法の上限金利を超えて支払った利息は無効ですから,元本に充当して余りがあれば,返還を請求することができます。
3 過払い金が生じるかの目安
消費者金融やカード会社などから5~7年以上借り入れをして支払いを続けてきた方は,利息を払いすぎている可能性があり,過払い金がある可能性があります。
既に完済している業者についても,利息を支払いすぎている場合には,過払い金を請求できる場合があります。
4 どの程度回収できるか
消費者金融などの業者は,ここ数年間の過払い金の支払いにより経営が悪化しており,過払い金の返還請求をしても全額の回収には応じません。
5 過払い金の回収方法
ア 交渉
上記の通り,消費者金融などの業者側の経営が悪化しており,過払い金全額の返還には応じないところが多いので,任意の交渉での全額の回収は困難です。
イ 訴訟
請求額と業者側の提示額に大きな開きがある場合には,訴訟という手段が考えられます。ただし,訴訟を提起すると,業者側が細かい点を争ってくることにより訴訟が長引くことがあること,弁護士費用がかかることなど,デメリットもあります。
1.手続きの種類
借金問題を解決するには,任意整理、自己破産、個人再生という3つの手段があり,これらをまとめて債務整理と呼びます。
これら3つのうち,どの手続を利用するかについては,弁護士と相談の上,決めることになります。
なお,法人の破産申立てについては別の機会に書きたいと思います。
2.弁護士に依頼するメリット(任意整理,自己破産,個人再生に共通のメリット)
・弁護士が債権者に対して受任通知を出すと,債権者による取り立てが止まる(弁護士の受任通知後到達後に債権者が取り立てを行うことは犯罪になります)。
・過払い金がある場合があり,過払い金を回収できる可能性がある。
3.手続選択の基準
ア 債務額の確定
手続を選択する前提として,債権者から開示された取引履歴をもとに引き直し計算を行い,債務額を確定する必要があります。
イ 任意整理か自己破産か
総債務を3年以内(長くても5年以内)で完済することができるか否かが目安となります。
通常,債権者は5年以上の返済計画には応じません。そこで,債務を長くとも5年以内で返済することができるのであれば任意整理を検討しますが,それが無理な場合には,自己破産や個人再生を検討することになります。
また,住宅など手放したくない財産がある場合や資格制限の可能性がある場合,免責不許可事由にあたることが明確であり,軽微とも言えないような場合には,自己破産の利用は避け,他の手続によることを検討します。
第2任意整理について
1 任意整理とは
任意整理とは、弁護士が、債権者と交渉し、新たな弁済計画で和解することを言います。任意整理は,当初の契約通りに返済することが困難な状況となった場合に,返済可能な条件で返済計画を練って新たに契約し直すものです。ですので,任意整理では,自己破産とは異なり,債務を全額支払うのが原則であり,通常3年~5年以内で全額を返済することになります。
毎月の返済可能額の範囲内で分割払いの合意をすることにより,遅延損害金が膨らんでいくのを防ぎ,返済について見通しを立てることができます。
任意整理の受任から和解の成立まで,約2~3か月程度かかります。
2 任意整理のメリット・デメリット
ア メリット
・分割払いとすることができる。
・債務を減額できる場合がある(遅延損害金のカットなど)。
・弁護士が債権者に対して受任通知を出すと債権者による取り立てが止まる。
・過払い金がある場合があり,過払い金を回収できる可能性がある。
・自己破産と異なり,資格制限がない。
・自己破産・個人再生と異なり,官報に公告されない。
・免責不許可事由がある場合にも利用できる。
イ デメリット
・基本的には債務の全額を支払わなければならない。
・弁護士費用がかかる。
・銀行から借り入れがある場合、当該銀行の全支店の利用ができなくなる。
→借入先銀行を給与の振込先にしている場合は、変更しておく必要がある。
・信用情報機関(ブラックリスト)に登録され、約5~7年の間、ローンや借り入れ,クレジットカードの利用ができなくなるおそれがある。
→任意整理をしなくても,返済が滞れば,いずれは信用情報機関(ブラックリスト)に登録されてしまう。
3 任意整理の流れ
ア 方針の検討
依頼者から総債務額,月々の返済可能額やどの手続を利用したいかの意向などをお聞きした上で,どの手続を利用するか決定します。
イ 受任
依頼者と弁護士の間で任意整理の方針で進めることになった場合は,依頼者が任意整理を弁護士に依頼し、弁護士がこれを受任することで委任契約が成立し,任意整理手続きが開始します。
ウ 受任通知の発送
任意整理を受任した弁護士は、まず、債権者に対して受任通知を発送します。受任通知後、債権者が債務者に対して取り立てをすることは禁止されます。これに違反して債権者が取り立てをすると、登録取り消し、業務停止、刑事罰の対象となる可能性があります。
エ 債務調査
受任通知の発送と同時に,債権者に対して取引履歴の開示を求めます。債権者が取引履歴を開示するまで通常1~2か月程度かかります。債権者から取引履歴の開示を受けたら、債務額を調査し、確定します。
このとき、引き直し計算をして過払い金があれば回収します。
オ 弁済計画の作成
依頼者と相談しながら,調査により明らかになった債務額と現在の月々の返済可能額を踏まえて返済計画を作成します。3年以内での完済が目安です。長くても5年の返済計画を作成します。
カ 債権者との交渉
弁済計画を債権者に対して提示し、債権者が納得すれば、和解契約を締結します。債権者が複数ある場合には,合意に至った債権者から和解を成立させていきます。
キ 弁済
依頼者は、債権者との間で和解した内容に沿って、弁済をしていくことになります。
4 任意整理にかかる費用
裁判所は利用しないので,裁判費用はかかりません。
弁護士費用はかかります。
第3 自己破産
1 自己破産とは
自己破産とは,債務者の資産を債権者に分配するとともに、債務者の負債について免責する手続を言います。
任意整理や個人再生と異なり,租税債務など一定の債務を除いて,債務が全て免責されることが自己破産の特徴であり,債務者からすれば,債務の免責すなわち借金を帳消しにすることに自己破産手続を利用する最大の目的があります。
自己破産の手続には,同時廃止事件と管財事件があります。同時廃止事件の場合は,自己破産の申立てから免責許可決定の確定まで約4か月程度かかります。管財事件の場合は,事案にもよりますが,自己破産の申立てから免責許可決定の確定まで,少なくとも約4~6か月程度かかります。
2 自己破産のメリット・デメリット
ア メリット
・借金が帳消しになる(ただし、租税債務など一定の債務は免責されない)。
・弁護士が債権者に対して受任通知を出すと債権者による取り立てが止まる。
・過払い金がある場合があり,過払い金を回収できる可能性がある。
イ デメリット
・不動産や自動車など価値のある財産を手放すことになる(20万円以上が目安)。
・資格制限がある(詳細は後述)。
・信用情報機関(ブラックリスト)に登録され、約5~7年の間、ローンや借り入れ,クレジットカードの利用ができなくなるおそれがある。
→任意整理をしなくても,返済が滞れば,いずれは信用情報機関(ブラックリスト)に登録されてしまう。
・自己破産したことが官報に掲載される。
→しかし,官報を購読している人はめったにいない。
・保証人への請求、担保権の実行のおそれがある。
・免責許可決定から7年間は免責許可決定を受けることができない。
・免責不許可事由があると免責されない。
→免責不許可事由があっても軽微な場合などは免責される場合がある。
ウ 注意点
自己破産については誤解されている点があるので,自己破産手続の利用に当たっては以下の事実は理解しておく必要があります。
・自己破産をしても,選挙権は制限されない。
・自己破産をしたことは戸籍や住民票には記載されない。
・自己破産によって帳消しになった債務を親戚が代わりに払うことになるということもない。
・自己破産をしても勤務先にその連絡が行くわけではない。
・自己破産後に得た収入は自由に使うことができる。
・自己破産をしても,同時廃止事件となれば長期旅行や海外旅行はできる。
・自己破産をしたからといって,アパートやマンションを出て行かなければならないわけではない。
・自己破産をしても,服や家具など全ての財産を差し押さえられる訳ではなく,生活に必要な財産への差押えは禁止されている。
・自己破産のみを理由に解雇することはできません。
3 自己破産の流れ
ア 方針の検討
依頼者から債務額,返済可能額やどの手続を利用したいかの意向などをお聞きした上で,どのような手続を利用するか決定します。
イ 受任
依頼者が自己破産を弁護士に依頼し、弁護士がこれを受任します。
ウ 受任通知の発送
自己破産を受任した弁護士は、まず、債権者に対して受任通知を発送します。受任通知後、債権者が債務者に対して取り立てをすることは禁止されます。これに違反して取り立てをすると、登録取り消し、業務停止、刑事罰の対象となります。
エ 債務調査
受任通知の発送と同時に,債権者に対して取引履歴の開示を求めます。債権者が取引履歴を開示するまで通常1~2か月程度かかります。債権者から取引履歴の開示を受けたら、債務額を調査し、確定します。
このとき、引き直し計算をして過払い金があれば回収します。
オ 必要書類の収集・弁護士との打ち合わせ
依頼者は、破産手続開始申し立てに必要な書類を集め、弁護士に渡します。
カ 破産手続開始申立て
弁護士が、破産手続開始申立書を裁判所に提出することで、破産手続開始の申し立てを行います。
キ 破産手続開始決定
裁判所が、破産手続開始決定を出すことで破産手続が開始します。
ク 破産手続開始決定後~免責許可決定
ここからは、管財事件と同時廃止事件で異なります。
(管財事件の場合)
㋐管財人による調査
管財人との面談があります。本人,申立代理人弁護士,管財人で面談します。管財人の事務所で行うことが多いです。
㋑債権者集会
破産手続廃止決定から約3ヶ月後に第1回の債権者集会が開かれます。債権者集会は裁判所で開かれます。本人は出席しなければなりません。
㋒配当
(同時廃止事件)
㋐破産手続の廃止決定
裁判所が,破産手続廃止決定をするとともに,破産手続を終了させます。
㋑免責審尋
審尋が行われるか否かは裁判官が裁量によって決定します。
審尋では,破産者が裁判官と10分程度話をすることになります。
返済が不可能か,免責するのが適切かを判断するための審尋なので,借金をした理由,返済が困難になった経緯,浪費癖等について聞かれます。
ケ 免責許可決定の通知
免責許可決定が出されると,通知が来ます。
免責不許可決定がされた場合は,免責不許可決定の通知が到達してから1週間以内であれば,即時抗告をすることができます。
コ 官報公告
免責許可決定から約10日ほどで,免責許可が出たことが官報で公告されます。
サ 免責許可確定
官報の公告から2週間以内に債権者の即時広告がなければ,免責許可決定が確定します。免責許可決定が確定すると,申請により免責許可確定証明書を入手することができます。
4 同時廃止事件と管財事件の振り分け
自己破産は,同時廃止事件と管財事件に分けられます。
ア 管財事件とは
管財事件では,破産管財人が裁判所によって選任されます。破産管財人は,破産者の資産の調査やその換価をします。破産管財人の報酬は,破産者の支払う予納金によってまかなわれるので,管財事件では,同時廃止事件に比べて予納金が高くなります。
イ 同時廃止事件とは
破産管財人は破産者の資産の調査やその換価を職務としていますが,破産者に資産がないことが明らかであれば,管財人を選任する必要はなく,管財人は選任されません。このように,管財人が選任されない場合には,破産手続開始決定と同時に破産手続が終了するので,同時廃止事件と言います。
同時廃止事件では,管財人に報酬を支払わなくて良い分,管財事件に比べて予納金が少なくてすみます。
ウ 振り分けの基準
以下の場合は,管財事件となる可能性が高いです。
①20万円以上の現金がある場合
②20万円以上の資産がある場合
不動産がある場合などがこれにあたります。
③不動産の被担保債権額が不動産処分予定価格の1.5倍未満の場合
④免責調査が必要な場合
免責不許可事由の存在が明らかで,軽微とも言えない場合には,裁量免責の相当性を判断するために,破産管財人による調査が必要な場合があります。
⑤債務者が個人事業主で資産調査が必要な場合
5 免責されない場合
以下の事由がある場合には、原則として免責されません。ただし、以下の事由がある場合でも、軽微なものであれば、裁判所が裁量で免責を認める場合があります(裁量免責)。
①財産の隠匿・損壊・不利益処分・不当価値減少行為
破産管財人に対して財産の存在を隠したり,債権者を害するために保有する財産を損壊したりする場合がこれに該当します。
②破産手続開始遅延目的による著しく不利益な条件による債務負担や信用取引によって買い入れた商品の著しく不利益な条件による処分
③非義務的偏波行為
④浪費・賭博等の射幸行為による著しい財産減少・過大な債務負担
宝石やブランド品など高価品の購入や海外旅行,ギャンブルなどが問題となります。
⑤債権者を騙した詐術による借り入れ
弁護士への債務整理の依頼後に,クレジットカードを利用して物品を購入した場合はこれに該当するか問題となります。
⑥業務財産関係の帳簿等の隠滅・偽造・変造
⑦虚偽の債権者名簿の提出
債権者名簿に債権者全員を記載しない場合がこれに該当します。
⑧裁判所の調査に対する説明拒否・虚偽説明
⑨不正の手段による管財人等の職務の妨害
⑩破産手続中の義務違反行為
⑪7年以内の免責取得
1度自己破産をして免責決定を受けると,免責決定の確定日から7年間は,免責許可決定を受けることができません。
6 免責されない債務
免責許可決定を受けても,以下の債務については免責されません。
①租税債務
②破産者が悪意により加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
③破産者が故意・重過失により加えた人の身体・生命を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
④扶養料や子の監護費用,婚姻費用分担の請求権
養育費も免責されません。
⑤破産者の使用人の給料等の請求権
⑥破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった債権
⑦罰金等の請求権
7 資格制限
自己破産手続の開始決定により,一定の資格が制限されます。資格制限は復権により回復されます。通常は,免責許可決定の確定により,復権がされ,資格制限もなくなります。
資格制限を受けるのは,弁護士,公認会計士,弁理士,後見人,損害保険代理店,生命保険募集員,警備員などです。
8 財産を隠して自己破産を申し立てた場合(詐欺破産)
ア 財産を隠して自己破産を申し立てたると,免責不許可事由に該当し,自己破産手続において免責されない(つまりは借金がなくならない)上に,詐欺破産罪として罪に問われる可能性があります。
9 自己破産にかかる費用
ア 裁判所に支払う費用
㋐予納金
・同時廃止事件の場合 10,000~30,000円
・管財事件の場合 20万円~
※個人の破産申立ての場合は,25万円となることが多いです。
㋑収入印紙 1,500円
㋒郵便切手 3,000~15,000円
イ 弁護士費用
弁護士費用については,15~30万円程度のところが多いのでしょうか。
第4 個人再生
1 個人再生とは
個人再生とは、借金の一部を免除してもらい,残額を3年間で分割払いしていくという手続です。
個人再生には,小規模個人再生と給与所得者等再生の2種類があります。ただし,給与所得者等再生は,債務が減額される程度が小さく,あまり利用されていないので,以下では,小規模個人再生について説明します。
小規模個人再生とは,
小規模個人再生の申立てから再生計画の認可決定までは,約6か月ほどかかります。
2 個人再生のメリット・デメリット
ア メリット
・弁護士が債権者に対して受任通知を出すと債権者による取り立てが止まる。
・過払い金がある場合があり,過払い金を回収できる可能性がある。
・住宅を維持できる。
・返済総額を約8割程度減額できる(総債務額によって減額の程度は異なる)。
・再生手続開始申立てにより,債権者は給与差押え等の強制執行ができなくなる。
・自己破産と異なり,資格制限がない。
・自己破産と異なり,免責不許可事由があっても利用できる。
イ デメリット
・継続した収入がない場合には,個人再生を利用することができない。
・原則として,3年間は支払いを続けなければならない。
・再生委員への報酬を支払わなければならず,費用がかかる。
・申立てから再生計画の認可まで約6か月かかり,時間と労力がかかる。
・信用情報機関(ブラックリスト)に登録され、約5~7年の間、ローンや借り入れ,クレジットカードの利用ができなくなるおそれがある。
→任意整理をしなくても,返済が滞れば,信用情報機関(ブラックリスト)に登録されてしまう。
・個人再生を利用したことが官報に掲載される。
・住宅ローンは減額されない。
・一部債権について一括返済にするなどの融通が利かない。
3 個人再生の流れ
ア 方針の検討
依頼者から債務額,返済可能額やどの手続を利用したいかの意向などをお聞きした上で,どのような手続を利用するか決定します。
イ 受任
依頼者が個人再生を弁護士に依頼し、弁護士がこれを受任することで再生手続は開始します。
ウ 受任通知の発送
個人再生を受任した弁護士は、まず、債権者に対して受任通知を発送します。受任通知後、債権者が債務者に対して取り立てをすることは禁止されます。これに違反すると、登録取り消し、業務停止、刑事罰の対象となります。
エ 債務調査
債権者から取引履歴の開示を受け、債務額を調査し、確定します。
このとき、引き直し計算をして過払い金があれば回収します。
オ 必要書類の収集・弁護士との打合せ
依頼者は、個人再生申立てに必要な書類(住民票や給与明細など)を集め、弁護士に渡します。
カ 個人再生申立て
弁護士が、個人再生手続開始申立書を裁判所に提出することで、個人再生手続開始の申し立てを行います。
キ 再生計画案の作成・家計収支表作成・通帳に一定額の積立て
弁護士と打合せを行い,再生計画案を作成します。
個人再生申立て直前の2か月分の家計収支表をつけていただきます。また,通帳に一定の額を積み立てていただきます。
ク 再生計画案提出
再生計画案と家計収支表,通帳の写しを裁判所に提出します。
ケ 再生計画認可決定
再生計画案の認可決定が認可されて確定すると,手続は終了します。
コ 支払開始
再生計画に沿って,返済を開始していただきます(3年又は5年)。
サ 返済終了
再生計画に沿って,返済を終了すると,債務の残額が免除されます。
4 個人再生を利用するための条件
ア 個人であること
法人には民事再生手続など別の手続が用意されているので,法人は個人再生手続を利用できません。
イ 支払不能のおそれがあること
ウ 将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあること
サラリーマンだけでなく,自営業者,農業従事者,歩合制の労働者(タクシーの運転手など)など,収入が定期的でなく,額の変動が大きいという事情があっても,将来(約3年間)にわたって,継続又は反復して収入を得られる見込みがあればよい。
エ 債務総額が5000万円以下であること
住宅ローン,担保権付債権,税金等を除いた債務が5000万円以下であることが必要です。
5 債務の減額の程度
総債務額の大きさによって減額の程度は異なります。
ア 総債務額が100万円未満の場合
債務の全額を支払う必要があります。
イ 総債務額が100万円以上500万円未満の場合
100万円を支払う必要があります。
ウ 総債務額が500万円以上1500万円未満の場合
債務額の5分の1を支払う必要があります。
エ 総債務額が1500万円以上3000万円未満の場合
300万円を支払う必要があります。
オ 総債務額が3000万円以上5000万円以下の場合
債務額の10分の1を支払う必要があります。
カ 総債務額が5000万円を超える場合
個人再生は利用できません。
6 支払い方法
債務者は,上記のように減額された金額を,再生計画案認可後,通常3年間(特別の事情があるときには5年間)で分割して支払っていくことになります。
返済額が100万円となった場合の毎月の返済額は約2万8000円となります。
7 給与所得者再生
小規模個人再生を利用する条件を満たしていて,かつ,給与等の安定収入があり,収入の変動幅が小さい場合には,給与所得者再生を利用することができます。
もっとも,一般に,小規模個人再生の場合よりも返済額が大きくなるため,あまり利用されていません。
8 個人再生にかかる費用
ア 裁判所に支払う費用
イ 弁護士費用
弁護士費用については,15~30万円程度はかかることが多いと思います。
第5 過払い金返還請求
1 過払い金とは
過払い金とは,本来支払う義務がないにもかかわらず,支払ってきた払いすぎた利息のことです。
2 過払い金が生じる理由
出資法では,金利の上限は29.2%とされており,これに違反すると,刑事罰が科せられます。そこで,消費者金融や信販会社などは,出資法に違反しないように,25~29%程度の金利で貸付を行っていました。しかし,利息制限法では金利の上限は15~20%に制限されており,これを超える部分の金利は無効とされています。
したがって,利息制限法の上限金利を超えて支払った利息は無効ですから,元本に充当して余りがあれば,返還を請求することができます。
3 過払い金が生じるかの目安
消費者金融やカード会社などから5~7年以上借り入れをして支払いを続けてきた方は,利息を払いすぎている可能性があり,過払い金がある可能性があります。
既に完済している業者についても,利息を支払いすぎている場合には,過払い金を請求できる場合があります。
4 どの程度回収できるか
消費者金融などの業者は,ここ数年間の過払い金の支払いにより経営が悪化しており,過払い金の返還請求をしても全額の回収には応じません。
5 過払い金の回収方法
ア 交渉
上記の通り,消費者金融などの業者側の経営が悪化しており,過払い金全額の返還には応じないところが多いので,任意の交渉での全額の回収は困難です。
イ 訴訟
請求額と業者側の提示額に大きな開きがある場合には,訴訟という手段が考えられます。ただし,訴訟を提起すると,業者側が細かい点を争ってくることにより訴訟が長引くことがあること,弁護士費用がかかることなど,デメリットもあります。
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