超がつくほどの深夜に、自宅の電話が鳴った。
受話器を取る前にそいつは切った。
大体相手が誰だか、見当はついている。
俺のツレ、入院してるんだ、それも長いこと。療養所にね。
結局朝まで寝付けなかった。
夕方、外出から帰宅したとき、電話。
またヤツだろな。
大きく深呼吸して覚悟を決める。受話器をとる。
一方的にまくし立てるヤツの声。
自分をヤクザだと思い込んでしまっている、ヤツ。
ここ最近、繁忙さなどにかまけて、面会に行ってなかった。
一昨年の面会のときには、ヤツは喜んでくれた。
ラグビーで鍛えたその体は別人のように痩せ細り、
同い齢とは思えないほど、やつれ込んで、老け込んでいた。
それまでそんな妄想はヤツには無縁だった。
でも……もう、今はとてもまともに話できない状態だった。
悲しかった。無性に悲しかった。
酒を飲みながら、
中学生の頃に聴いたことのあるフレンチポップスを急に聴きたくなり、
ネットで検索して……
ダニエル・ギシャール、ミレイユ・マチュー、ジェラール・ルノルマン、
聴けなかった。
そして、ミシェル・ポルナレフ……YouTubeに見つけて……聴いた。
懐かしい歌、天使の遺言。
そのハ長調の明るいメロディラインとは裏腹に、詩の内容は切なく、悲しい。
アルコールは感情の起伏を激しくする……。
だめだ、涙が止まらないよ……。
ツレが壊れていく。どんどん壊れていく。
すぐ近くにいるのに、会えない、話ができない。
ボサノヴァのCDを聴きながら、じっくりと癒されるのを待つ。
ひととおり反芻し……自然と気持ちは癒えた。
とき既に午前0時を過ぎていた。
食事と入浴を済ませて、ようやくCafeに来ることができた。
今朝も早くから頻繁にまた電話。今度はデカになったヤツ。
昼にはまたヤクザに逆戻り。
面会……行くまいと一旦は決めたけど、
やっぱり行くべきか、どうなのか……
只今思案中……。
ミシェル・ポルナレフ「天使の遺言」
http://jp.youtube.com/watch?v=PlD1V8Vkd88