そして夜が再び来る。
三咲町の空気はここ最近流れる噂のせいで重い。
人通りは少なく、肌だけでなく内臓まで凍りついてしまいそうな冷気が流れる。
そんな夜の中。
ビルの屋上で黄金の髪を揺らす人物。
アルクェイド・ブリュンスタッドは街を一望しつつ呟いた。
「まあ、予想通りね。
タタリ本体が出てくるであろう場所は。
このままだと明日の夜には現れるでしょうね」
はるか彼方に見える建物。
三咲町の中で最も高いビルとなる予定の建物。
そここそが今回の騒動の原因であるタタリが最後に現れる場所であるとアルクェイドは見抜いた。
「・・・でさ、それにしても知ってる?
あのビルの名前はね『シュライン』と言うの。
神殿なんて名前を持っているのだけ貴方はどう思うかしら?」
周囲に人影はいないはずだがアルクェイドは誰かがいることを前提に口を開いた。
「ふむ、そうだな。
この劇を組んだ脚本家は少しは気が利くではないか。
安直ではあるが観客を満足させる心意気という物を理解しているようだ」
背後で光の粒子が人の形を作ってその男は現れた。
アルクェイドと同じ黄金の髪、血のごとく赤い瞳を持つ男。
しかし、男はガイア側の吸血鬼にあらず。
そして今を生きている人間でもなく、失われた神話世界の人間。
すなわち、
「はぁーあ。
まっさか英霊。
しかも人類最古の王様がいるなんて予想外よ。
・・・加えて受肉しているようだけど、真っ当な手段じゃないみたいね」
「くくく、見ずとも分かるのか。
我の名だけでなくあの泥も見抜くか。
よいぞよいぞ――――流石は真祖の姫、ほめて遣わそう」
「どーもアリガトウゴザイマース」
英雄王ギルガメッシュ。
その名を頂く人間がこの場にいた。
「色々言いたいとことかあるけど、
貴方はこのタタリに携わる気はない、そうよね?」
「当然であろう。
王である我が何故役者として動かなくてはならない?
我は観客席にて雑種共が演ずる劇をゆるりと観賞するのみ」
「・・・そう、好きにすれば」
分かり切っていた回答を聞いたアルクェイドはそのまま立ち去ろうとする。
「ああ、だが面白い人間がいたな。
たしか名は・・・遠野志貴であったか。
奴の在り方も興味深いがまさかこの時代にあのような魔眼を持つとはな。
なかなか希少価値のある存在ゆえに、我の倉に眼だけを保管するのも良いかも・・・」
次に言葉を綴る前に濃密な殺意が場を圧した。
「志貴に手を出したら――――殺すわよ」
これまで顔すら向けていなかったがこの時初めてアルクェイドは英雄王に振り向いた。
瞳は月のごとく爛々と輝いているが、視線はどこまでも冷たいものであった。
「ほう・・・」
それに英雄王は目を細めて呟く。
途端、濃厚な殺意をアルクェイドに浴びせる。
常人ならば発狂しても可笑しくない代物である。
「我と戯れたい、
と言うならば存分に戯れようではないか。
我とて久々に体を動かすのも存外悪くはない」
英雄王の背後の空間が揺らぐ。
そして剣、槍、斧、など無数の宝具が現れ照準をアルクェイドへと向ける。
「―――――喧嘩を売ってきたのは貴方でしょ?だから私は全力で相手になってあげる」
「久しい。
久しいなぁ。
我に対してそのような言葉を述べるとは」
ここまで真正面から自分に対して挑戦してくる人物は本当に久しく、
アルクェイドの啖呵に英雄王は喜色を隠さずそのままの感情を表に出す。
「余裕な態度だけど、
この距離なら貴方の喉元を切り裂くなんて簡単な事よ?」
対するアルクェイドには武器は己の身体のみ。
しかし、真祖の吸血鬼が繰り出す身体能力は圧倒的だ。
一呼吸で英雄王の懐に飛び込んでその喉を爪で引き裂くことは容易である。
そして何よりも空想具現化という真祖の吸血鬼にしかない能力もある。
「強がっているようだが、どうかな?
見るからに一度殺された、いいや『壊された』せいで随分と弱まっているみたいだが?」
「・・・・・・」
英雄王の指摘にアルクェイドは沈黙を保つ。
何せ遠野志貴に殺され、壊されたのは事実であるからだ。
そのまま睨み合いが続いていたが、
終わりを告げたのは英雄王の方からであった。
「まあ、いいだろう。
そこまで言う痴れ者はあの杯を巡る戦い以来だ。
普段ならば八つ裂きにしてもなお足らぬが、今宵の我は観客。
観劇が始まる前に役者に手を出すなど無粋な真似は控えるとしよう」
吸血鬼タタリで街全体が死街と化する瀬戸際を「観劇」と言い切った英雄王。
加えて先にアルクェイドにとって逆鱗に触れてきたにも関わらず上から見下す態度を継続している。
「上から目線な態度。
本当に腹が立つわね、この金ピカは」
そうアルクェイドは呆れ、
どこぞのツインテールと似たような感想を口に出す。
「当然であろう。
時代は違えど雑種共が住まうこの星は我の庭ぞ」
「サーヴァントという『枠』でなければこの世界に現界できない今の状態でも?
マスター・・・大方心臓にみょーな物を抱えている胡散臭い神父でしょうけど、よくまあ、そんなことが言えるわねえ」
その雑種がいなければここにいられない、
という皮肉も込めてアルクェイドが言葉を綴るが、
「は、違うな。
今世の雑種に呼び出されたのではない、我が来てやったのだ!」
英雄王はこれ以上ないドヤ顔でそう宣言した。
「何、このポジティブな思考は?
人間って色々面白いことは知りつつあるけど、
貴方ほど思考が吹っ飛んだ人は初めてよ・・・」
対するアルクェイドはあきらめ気味にぼやく。
「は、貴様が熱を入れているあの人間も、
我とは違う意味で面白い思考を持っているではないか」
「・・・否定はしないわ。
でも金ピカの貴方に志貴の内面を口にすること自体が腹立つわね」
英雄王が遠野志貴の内面を口にする。
聞き手側は身に覚えがあるのか否定の言葉は出ない。
「怒るな、
これでも我は褒めているのだぞ。
この贋物しかおらぬ世界で我に価値が見出さる数少ない雑種ゆえに」
そんな言葉を口にした後、
身をひるがえしてその場を後にする。
「さて、我も少し眠い。
今晩はここまでとしよう。
明日の夜に開催される観劇には期待しているぞ・・・」
そう言い終えると光の粒子と共に英雄王はその場から消えた。
「・・・・・・・・・なんて身勝手なのかしら」
残されたアルクェイドは短い間ながらも会話を交わした相手に対してそう総括する。
何せ吸血鬼タタリがしようとしているのを観劇と表現した上で、自分は観客として見物する。
と言い切ってしまう存在に対して好意的な印象など持ちようがない。
「まあ、いいわ。
邪魔だけはしてこないみたいだし・・・後は」
振り返った先にはタタリが現れるであろう高層ビルが変わらずある。
だが、吸血鬼特有の魔性の匂い、あるいは気配がより濃厚になりつつあり、
決着の日が近づいていることをアルクェイドは確信した。
三咲町の空気はここ最近流れる噂のせいで重い。
人通りは少なく、肌だけでなく内臓まで凍りついてしまいそうな冷気が流れる。
そんな夜の中。
ビルの屋上で黄金の髪を揺らす人物。
アルクェイド・ブリュンスタッドは街を一望しつつ呟いた。
「まあ、予想通りね。
タタリ本体が出てくるであろう場所は。
このままだと明日の夜には現れるでしょうね」
はるか彼方に見える建物。
三咲町の中で最も高いビルとなる予定の建物。
そここそが今回の騒動の原因であるタタリが最後に現れる場所であるとアルクェイドは見抜いた。
「・・・でさ、それにしても知ってる?
あのビルの名前はね『シュライン』と言うの。
神殿なんて名前を持っているのだけ貴方はどう思うかしら?」
周囲に人影はいないはずだがアルクェイドは誰かがいることを前提に口を開いた。
「ふむ、そうだな。
この劇を組んだ脚本家は少しは気が利くではないか。
安直ではあるが観客を満足させる心意気という物を理解しているようだ」
背後で光の粒子が人の形を作ってその男は現れた。
アルクェイドと同じ黄金の髪、血のごとく赤い瞳を持つ男。
しかし、男はガイア側の吸血鬼にあらず。
そして今を生きている人間でもなく、失われた神話世界の人間。
すなわち、
「はぁーあ。
まっさか英霊。
しかも人類最古の王様がいるなんて予想外よ。
・・・加えて受肉しているようだけど、真っ当な手段じゃないみたいね」
「くくく、見ずとも分かるのか。
我の名だけでなくあの泥も見抜くか。
よいぞよいぞ――――流石は真祖の姫、ほめて遣わそう」
「どーもアリガトウゴザイマース」
英雄王ギルガメッシュ。
その名を頂く人間がこの場にいた。
「色々言いたいとことかあるけど、
貴方はこのタタリに携わる気はない、そうよね?」
「当然であろう。
王である我が何故役者として動かなくてはならない?
我は観客席にて雑種共が演ずる劇をゆるりと観賞するのみ」
「・・・そう、好きにすれば」
分かり切っていた回答を聞いたアルクェイドはそのまま立ち去ろうとする。
「ああ、だが面白い人間がいたな。
たしか名は・・・遠野志貴であったか。
奴の在り方も興味深いがまさかこの時代にあのような魔眼を持つとはな。
なかなか希少価値のある存在ゆえに、我の倉に眼だけを保管するのも良いかも・・・」
次に言葉を綴る前に濃密な殺意が場を圧した。
「志貴に手を出したら――――殺すわよ」
これまで顔すら向けていなかったがこの時初めてアルクェイドは英雄王に振り向いた。
瞳は月のごとく爛々と輝いているが、視線はどこまでも冷たいものであった。
「ほう・・・」
それに英雄王は目を細めて呟く。
途端、濃厚な殺意をアルクェイドに浴びせる。
常人ならば発狂しても可笑しくない代物である。
「我と戯れたい、
と言うならば存分に戯れようではないか。
我とて久々に体を動かすのも存外悪くはない」
英雄王の背後の空間が揺らぐ。
そして剣、槍、斧、など無数の宝具が現れ照準をアルクェイドへと向ける。
「―――――喧嘩を売ってきたのは貴方でしょ?だから私は全力で相手になってあげる」
「久しい。
久しいなぁ。
我に対してそのような言葉を述べるとは」
ここまで真正面から自分に対して挑戦してくる人物は本当に久しく、
アルクェイドの啖呵に英雄王は喜色を隠さずそのままの感情を表に出す。
「余裕な態度だけど、
この距離なら貴方の喉元を切り裂くなんて簡単な事よ?」
対するアルクェイドには武器は己の身体のみ。
しかし、真祖の吸血鬼が繰り出す身体能力は圧倒的だ。
一呼吸で英雄王の懐に飛び込んでその喉を爪で引き裂くことは容易である。
そして何よりも空想具現化という真祖の吸血鬼にしかない能力もある。
「強がっているようだが、どうかな?
見るからに一度殺された、いいや『壊された』せいで随分と弱まっているみたいだが?」
「・・・・・・」
英雄王の指摘にアルクェイドは沈黙を保つ。
何せ遠野志貴に殺され、壊されたのは事実であるからだ。
そのまま睨み合いが続いていたが、
終わりを告げたのは英雄王の方からであった。
「まあ、いいだろう。
そこまで言う痴れ者はあの杯を巡る戦い以来だ。
普段ならば八つ裂きにしてもなお足らぬが、今宵の我は観客。
観劇が始まる前に役者に手を出すなど無粋な真似は控えるとしよう」
吸血鬼タタリで街全体が死街と化する瀬戸際を「観劇」と言い切った英雄王。
加えて先にアルクェイドにとって逆鱗に触れてきたにも関わらず上から見下す態度を継続している。
「上から目線な態度。
本当に腹が立つわね、この金ピカは」
そうアルクェイドは呆れ、
どこぞのツインテールと似たような感想を口に出す。
「当然であろう。
時代は違えど雑種共が住まうこの星は我の庭ぞ」
「サーヴァントという『枠』でなければこの世界に現界できない今の状態でも?
マスター・・・大方心臓にみょーな物を抱えている胡散臭い神父でしょうけど、よくまあ、そんなことが言えるわねえ」
その雑種がいなければここにいられない、
という皮肉も込めてアルクェイドが言葉を綴るが、
「は、違うな。
今世の雑種に呼び出されたのではない、我が来てやったのだ!」
英雄王はこれ以上ないドヤ顔でそう宣言した。
「何、このポジティブな思考は?
人間って色々面白いことは知りつつあるけど、
貴方ほど思考が吹っ飛んだ人は初めてよ・・・」
対するアルクェイドはあきらめ気味にぼやく。
「は、貴様が熱を入れているあの人間も、
我とは違う意味で面白い思考を持っているではないか」
「・・・否定はしないわ。
でも金ピカの貴方に志貴の内面を口にすること自体が腹立つわね」
英雄王が遠野志貴の内面を口にする。
聞き手側は身に覚えがあるのか否定の言葉は出ない。
「怒るな、
これでも我は褒めているのだぞ。
この贋物しかおらぬ世界で我に価値が見出さる数少ない雑種ゆえに」
そんな言葉を口にした後、
身をひるがえしてその場を後にする。
「さて、我も少し眠い。
今晩はここまでとしよう。
明日の夜に開催される観劇には期待しているぞ・・・」
そう言い終えると光の粒子と共に英雄王はその場から消えた。
「・・・・・・・・・なんて身勝手なのかしら」
残されたアルクェイドは短い間ながらも会話を交わした相手に対してそう総括する。
何せ吸血鬼タタリがしようとしているのを観劇と表現した上で、自分は観客として見物する。
と言い切ってしまう存在に対して好意的な印象など持ちようがない。
「まあ、いいわ。
邪魔だけはしてこないみたいだし・・・後は」
振り返った先にはタタリが現れるであろう高層ビルが変わらずある。
だが、吸血鬼特有の魔性の匂い、あるいは気配がより濃厚になりつつあり、
決着の日が近づいていることをアルクェイドは確信した。