根源を目指す魔術師という人種は真理を探究するとい点において科学者と同じである。
違うのは方向性が未来でなく過去であり、過去の再現を以て未踏の領域を目指すことにある。
しかし過去を目指すがゆえに魔術は衰退することが決まっていた。
ならば一致団結してこの問題に対応しているかといえばなかった、できなかった。
魔術師といえども人間であり、探究より象牙の塔に籠り権力闘争を楽しむ。
ということは魔術師の貴族主義的な仕組みと合わさってもはや当たり前の現象と化していた。
そんな中。
今から500年ほど前にある錬金術師が現れた。
男は天才錬金術師であった。
そして真面目で理想主義者であった。
だからこそ魔術協会における三大部門の頂点の1つにたどり着けた。
しかし男には悩みがあった。
どう計算しても人類滅亡という未来の予想を覆すことができなかった。
人間の平均寿命より先。
親、子、孫、と幾世代もの先の先の未来の予想であり、
人類滅亡より先に男が寿命で亡くなる方が先の話であるので自分には関係ない。
そう開き直る選択もできたが男は真面目で理想主義であった。
ゆえに男は諦めることを認めず考えて、考えて、考え続け―――――――狂った。
魔法に挑むが敗退。
肉体は滅び霊子で漂う存在となり果てる。
しかしそれでも男の意思は存在し続け、いつ来るか奇跡の日まで待ち続けた。
その過程で大勢の人間が亡くなることも「些末な事象」と切って捨てつつ生き続けた。
だがそれも今日で終わる。
今宵こそ必ずや奇跡に届くと男、否タタリは確信していた。
何せこれまでの舞台を予想を上回る役者たちが揃いつつああったからだ。
役者が豪勢であればあるほど人々の噂は誇張され、タタリの術式はより強化される。
自身の能力の強化。
存在の強化ともいうべき行為は奇跡へ近づくと同意義である。
―――――ズェヌピアはアトラスの禁を破り外界で研究を重ね果てに吸血鬼となった。
結果エルトナムの権威は失墜しエルトナムの者は一生消えぬ罪を負わされました・・・。
そんな時、男の子孫が呟いた。
これに対して男は未だ自身と向き合わない彼女に対して嘲笑する。
すでにこの街の隅々まで把握しているのでこの場にいなくとも彼女の言葉を聞けた。
シオン・エルトナム・アトラシア。
彼女が障害になることは万が一にもないことは計算済みである。
哀れな舞台観客として、悲劇のヒロイン役として今宵にて命を落とすであろう。
―――――君は戦う前からワラキアに負けるつもりか?
シオンに付き添っていた青年、遠野志貴が言葉を口にする。
これに男は人の形として顕現していないにもかかわらず心臓の鼓動が高ぶりと感情の揺らぎが発生する。
そして一連の現象が久々に人間らしい感情の揺らぎ、すなわち動揺という物であることを思い出す。
タタリとなって以来あり得ない事象に一瞬思考が停止。
すぐに再開するが表現しがたい感情に支配されかけ男は久方ぶりに苛立ちを覚える。
やはり、脅威とみなすならこの男と弓塚さつき、という吸血鬼もどきに違いない。
そう男は確信する。
異能を有し、才能に恵まれてはいるが2人とも魔術の「ま」を知っていても実力は素人当然。
しかし、幾度も幾重も何度も計算するたびに真祖の姫と共に最大の障害として立ちふさがる結果がでる。
埋葬機関、代行者、錬金術師、鬼。
これらを差し置いて脅威として立ちふさがる結果がでるのは『違和感』を覚える。
抑止力、という可能性も考えたがそれに相応しいのは―――――。
ほう、言峰め。
なかなか良い顔をするではないか。
例え幻であろうと貴様の人間らしい欲望の発露、実に甘美だ。
足止め役として出した第四次聖杯戦争におけるセイバーのマスターと対決しているのは冬木より来た代行者。
何故かマスターでもある代行者を手助けせず見物に徹しているサーヴァント、アーチャーが呟く。
―――――相応しいならこのサーヴァントであろう。
第四次聖杯戦争のサーヴァントが未だ現世に留まっており、
しかもこの三咲町へこのタイミングで来たのは抑止力の存在を後押しを証明する。
加えてサーヴァントとしての真名も「人類最古の王」であることはさらに抑止力の存在を肯定する。
だが、同時にいくら過去の人類史における英霊。
と言えどもサーヴァントは根本的には『魔術師の使い魔』という枠からはみ出た存在ではない。
加えてサーヴァントのマスターは代行者であるが魔術師としては大した存在ではない。
しかもサーヴァントはやる気がなく昼は町を散策し、今もなお何故かマスターに助力していない。
何を考え、何をする、そうした行動原理が不明確でありながら強い力を有した存在であるがやる気がないのは確かであり、
―――――例え人類最古の王であれども、
現象にすぎぬこの身を滅ぼすことは不可能であり、何人たりともこの身を止めることは叶わぬ。
そうタタリはそう結論を下し、
意識を間もなくエレベーターから現れる子孫へと向けた。
しかしタタリは気づいていなかった。
いや、気づくはずがないと思い込んでいた。
視界に映っていたサーヴァント、
英雄王ギルガメッシュの赤い瞳はタタリを捉えており―――――。
「精々励めよ、雑種」
と呟いていたことを。