ガシャン
エレベーターが目的地に到達し扉が開く。
籠の中から日本の鎧とバケツ型の西洋兜に似た特殊スーツを着込んだ黄泉川が現れた。
スーツは元々宇宙空間での活動を考慮された代物で、初期の設計段階から耐熱真空に考慮されていた。
今着ているのは軍用利用のため、そこに防弾対ショックの機能を加え、
自己ならびに部隊の位置が一目でわかるデータリンクシステムが搭載され、駆動鎧とはまた違う未来の歩兵の装備だ。
「誰も・・・居ない、じゃんか?」
だが、彼女にとってはそんな事は多少マシな程度にしか不安を惑わすしかない。
主武装のアサルトライフルは先ほど放棄した上に部隊として纏まってこそ真価を発揮できるが、
その部隊があるかどうかも危うく、こうして単独行動せざるを得ない状況。
そのせいでしばらく彼女はエレベーターから出るのを躊躇していた。
「うう・・・。」
「っ!!生存者!?」
うす暗い待機所のような場所で、
唯一か所ライトが照らされた場所に男が血まみれになって床に座っていた。
「無線は・・・くそっ、ウンともスンともいわない。」
自分の任務にしたがい連絡の義務を実行したが無線はまったく通じない。
全滅、という漢字2文字の単語が出たがすぐに忘れる。
「しっかりするじゃん!救援に来たから頑張るんじゃん!!」
「あ・・・あぁ。」
駆け寄り手を握り励ます。
しかしスーツ越しにも男の体温はとっくに生存に必要な温度を下まわり。
「・・・・・・・・・・。」
息は途切れ、心臓が停止。
ただ物言わぬ亡骸へと変わった。
「・・・くそったれ。」
それにどれ程の意味と感情が込められていたのだろうか。
歯を食いしばり握った手をさらに強く握る。
「仇は絶対取るから、ん?これは・・。」
『奴らの四肢を切り離せ』
血文字で壁に書かれたそれはたった今亡くなった男が書いたものだろう。
さらにテーブルには意味ありげに、持ち手の部分が血まみれな工具が置いてある。
「これで、切り離せということか?
って、これは宇宙空間用の工具じゃん!」
黄泉川は釘打ち機に似たソレを持ち、
前にテレビで学園都市が建設している宇宙ステーションの紹介で出たのを思いだす。
Plasma Cutter<プラズマカッタ―>
名の通りたしかプラズマ化した刃を飛ばし鋼を切断する工具だったはず。
一部警備員<アンチスキル>にも犯罪者が立てこもったさい、外からこじ開ける工具として配備されている。
ただし、そこらのチェーンソーより威力が高すぎて(プレハブなら見事に貫通する)やや使いづらいなどの評価が下された。
(『奴ら』の腹にしこまたアサルトライフルの弾を叩きこんだけどまったく効果がないようだったじゃん。
つまりは、『奴ら』は例えるならばそこらのゾンビゲーのセオリーである『弱点の構造は人間の延長線』ではない。
人間ではなく『何か別の生態系』を相手にしており、四肢を切るのが正解、ということか。)
プラズマカッタ―を弄りつつ冷静に考える。
予備の弾などもあちこち散らばっている箱を破壊してかき集める。
(にして今だからこそ思えるけど、『奴ら』は一体何なんじゃん、ここの子供たちなのか?
原因は一体何だ?しかも、22学区の玄関先であるここまで来られたということは既に全滅しているのか?
いや待て、自分の部隊はどうなった?ああ、くそ。やるべきこと、疑問点が多すぎ――――。)
「ぎゃあああぁぁぁぁああ!!助けてくれええええ!!』
「!!?」
別の部屋につながるドアの向こう側から悲鳴が響いた。
また一緒に肉食動物の唸り声のような音声も同じ場所から聞こえた。
「この、ドアは閉まっている・・・だったらこうじゃん!!」
黄泉川はそのドアへ駆け寄ると
ドアが閉鎖されており、脇にとりつけられた真空管もどきが制御しているのを発見しすぐに決断した。
ガッシャアァアアアンンン!!!
重たい工具に遠心力をつけて殴りつけ、派手にブチ壊した。
ドアは上へスライドして開く。
「助けにきた―――『がァアアっァアァア!!!』くそ!!」
が、開けた瞬間わずか2メートル以内に『奴ら』の一匹がいてこちらへと襲いかかる!
(馬鹿が、初めからいるとわかっていれば何も怖くないじゃん。)
ドン!ドン!ドン!
腹まで響く鈍い音が狭い空間を支配した。
※ ※ ※
「・・・・クソっ!!」
結果として奴には勝った。
だが助けたかった者は。
「クソったれええええええェェェェ!!!」
黄泉川愛穂の咆哮が暗い部屋に虚しく木霊した。