厚労省・社保庁のヤドカリ戦術 ― 刷新できるか、責任逃れか -
社会保険庁を廃止し、2010年1月を目途に新組織「日本年金機構」を新設し、年金業務を引き継ぐなどを骨子とする改革関連法案が、07年6月に国会で採択された。
くしくも5千万件強もの年金保険料納付者の記録漏れが表面化し、昨年7月の参院選を前にして安倍政権(当時)は08年3月末までに「名寄せ」を終了させる旨公約した。
07年10月末までの作業結果では、入力ミスや結婚による氏名変更など、該当者の特定が難かしい記録が38.5%に上り、その内524万件は既に「氏名なし」で、特定出来ないことが分っている。その上、死亡、年金受給の対象外など(約28%)を除くと、救済が比較的容易とされる者は34%弱でしかなく、3月までに是正するとしているが、救済されるのはせいぜいその程度に止まるか、それ以下の可能性が強い。事実、第三者委員会による救済作業も、約1万6千件の申し立てに対し2月1日現在で1,137人しか救済できておらず、救済率は低い。
3月末までにある程度名寄せが出来、若干名が救済され、それはそれとして評価されるが、衆議院で08年度予算案が承認されるまでには、より明確な見通しとその後の対応が示されるべきであろう。
1、社会保険庁を廃止し、新組織が発足するまでに2年弱しかない。それまでにどの程度救済漏れが残るのか予想は困難だ。新機構への衣替えの準備もしなくてはならないので、記録回復作業が先送りされる恐れもある。その上、新機構に移行するに当たって記録が「紛失」されるなどの不適正管理が繰り返される恐れが指摘されている。
納付者不明は、事務的には「記録漏れ」で済まされようが、加入者にとっては支払い損であり、財産権の喪失を意味するので、国としては、相当長期に申し出を受け付けるべきであろう。
公的年金の台帳の整備が先決ではないのか。それを行わずして新機構を新設しても適正な運用・管理は期待できないと共に、新機構への国民の不信感は払拭されない恐れがある。
いわば「清算期間」として、まず現在の社会保険庁において、過去の全ての記録に遡り、
特に未納期間のある加入者については、未納期間などを付し確認を急ぐべきであろう。
2、同時に、新機構への移行準備が行われなくてはならないが、外部委託を含む組織の
あり方や人件費・管理費のあり方、積立基金を敢えて直接管理するか否かなど、次の通り不明な点も多い。
・ 非公務員型の新組織「日本年金機構」の人件費やその他管理費は、国家予算とするの
か、いわば「独立採算方式」で、徴収した保険料から賄うのか。後者であれば、保険料は人件費や管理費で浪費される恐れが強く、また、「公的年金」の意味は薄れる。
・基礎年金としての国民年金を、厚生年金等と同様拠出型を継続するのか、消費税を福祉目的税として税方式にするのかについては、民間の年金制度の方が選択も出来、効率的ではないか。
最近、麻生太郎前自民幹事長が、納付比率が低く、国民年金の維持は困難として、消費税10%への引き上げによる税方式を提案しているが、要するに増税となる。
その上、消費税の「目的税」化は、ガソリン税等の「道路特定財源」化やNHKの視聴料などと同様、財源を固定化し、毎年自動的に財源が入って来ることから、消費(税)が増えると財源がだぶつき、浪費の原因となる一方、財源が不足すれば消費税を引き上げて行けばよいので、安易な管理に陥り易く、浪費の抑制や効率改善努力のインセンテイブを失わせる可能性が高い。現在行政に最も問われていることは、歳出規律であろう。
・ 年金加入者、即ちほとんど全ての国民の個人情報が「日本年金機構」に集中すること
になるが、個人情報の管理は十分に行えるのか。社保庁でも情報管理には大きな問題があったが、非公務員型の新組織で行える保障はない。そもそも国民のほとんどが対象となる「公的年金」は、情報管理を含め国の管理が望ましいのではないか。
・ 官側は徴収には熱心だが、最大の問題は、徴収した保険料、年金積立金の管理と「価
値の保全、増進」であり、年金支給の確保である。各種の大型事業等で浪費されて来たことを繰り返してはならない。その運用を、何故証券・投資の専門家でもない公務員、準公務員が行う必要があるのだろうか。金融・投資の主要民間企業、あるいは企業団(コンソーシアム)に委託等した方が効率的、効果的であるし、年金支給以外の使用なども防げるのではないか。
疑問は尽きないが、国民への説明が浸透しないまま社保庁が消え、新機構に移行するのだろうか。年金失政の記録は消えることはない。国民、企業への十分な説明と、明朗で適正な年金業務を回復することが不可欠であろう。
社会保険庁を廃止し、2010年1月を目途に新組織「日本年金機構」を新設し、年金業務を引き継ぐなどを骨子とする改革関連法案が、07年6月に国会で採択された。
くしくも5千万件強もの年金保険料納付者の記録漏れが表面化し、昨年7月の参院選を前にして安倍政権(当時)は08年3月末までに「名寄せ」を終了させる旨公約した。
07年10月末までの作業結果では、入力ミスや結婚による氏名変更など、該当者の特定が難かしい記録が38.5%に上り、その内524万件は既に「氏名なし」で、特定出来ないことが分っている。その上、死亡、年金受給の対象外など(約28%)を除くと、救済が比較的容易とされる者は34%弱でしかなく、3月までに是正するとしているが、救済されるのはせいぜいその程度に止まるか、それ以下の可能性が強い。事実、第三者委員会による救済作業も、約1万6千件の申し立てに対し2月1日現在で1,137人しか救済できておらず、救済率は低い。
3月末までにある程度名寄せが出来、若干名が救済され、それはそれとして評価されるが、衆議院で08年度予算案が承認されるまでには、より明確な見通しとその後の対応が示されるべきであろう。
1、社会保険庁を廃止し、新組織が発足するまでに2年弱しかない。それまでにどの程度救済漏れが残るのか予想は困難だ。新機構への衣替えの準備もしなくてはならないので、記録回復作業が先送りされる恐れもある。その上、新機構に移行するに当たって記録が「紛失」されるなどの不適正管理が繰り返される恐れが指摘されている。
納付者不明は、事務的には「記録漏れ」で済まされようが、加入者にとっては支払い損であり、財産権の喪失を意味するので、国としては、相当長期に申し出を受け付けるべきであろう。
公的年金の台帳の整備が先決ではないのか。それを行わずして新機構を新設しても適正な運用・管理は期待できないと共に、新機構への国民の不信感は払拭されない恐れがある。
いわば「清算期間」として、まず現在の社会保険庁において、過去の全ての記録に遡り、
特に未納期間のある加入者については、未納期間などを付し確認を急ぐべきであろう。
2、同時に、新機構への移行準備が行われなくてはならないが、外部委託を含む組織の
あり方や人件費・管理費のあり方、積立基金を敢えて直接管理するか否かなど、次の通り不明な点も多い。
・ 非公務員型の新組織「日本年金機構」の人件費やその他管理費は、国家予算とするの
か、いわば「独立採算方式」で、徴収した保険料から賄うのか。後者であれば、保険料は人件費や管理費で浪費される恐れが強く、また、「公的年金」の意味は薄れる。
・基礎年金としての国民年金を、厚生年金等と同様拠出型を継続するのか、消費税を福祉目的税として税方式にするのかについては、民間の年金制度の方が選択も出来、効率的ではないか。
最近、麻生太郎前自民幹事長が、納付比率が低く、国民年金の維持は困難として、消費税10%への引き上げによる税方式を提案しているが、要するに増税となる。
その上、消費税の「目的税」化は、ガソリン税等の「道路特定財源」化やNHKの視聴料などと同様、財源を固定化し、毎年自動的に財源が入って来ることから、消費(税)が増えると財源がだぶつき、浪費の原因となる一方、財源が不足すれば消費税を引き上げて行けばよいので、安易な管理に陥り易く、浪費の抑制や効率改善努力のインセンテイブを失わせる可能性が高い。現在行政に最も問われていることは、歳出規律であろう。
・ 年金加入者、即ちほとんど全ての国民の個人情報が「日本年金機構」に集中すること
になるが、個人情報の管理は十分に行えるのか。社保庁でも情報管理には大きな問題があったが、非公務員型の新組織で行える保障はない。そもそも国民のほとんどが対象となる「公的年金」は、情報管理を含め国の管理が望ましいのではないか。
・ 官側は徴収には熱心だが、最大の問題は、徴収した保険料、年金積立金の管理と「価
値の保全、増進」であり、年金支給の確保である。各種の大型事業等で浪費されて来たことを繰り返してはならない。その運用を、何故証券・投資の専門家でもない公務員、準公務員が行う必要があるのだろうか。金融・投資の主要民間企業、あるいは企業団(コンソーシアム)に委託等した方が効率的、効果的であるし、年金支給以外の使用なども防げるのではないか。
疑問は尽きないが、国民への説明が浸透しないまま社保庁が消え、新機構に移行するのだろうか。年金失政の記録は消えることはない。国民、企業への十分な説明と、明朗で適正な年金業務を回復することが不可欠であろう。