とある旅行代理店舗にて。
トラベル・エージェントがふと仕事から顔を上げて見ると、
老婦人と老人が、店の窓に掲げてある世界中の素晴らしい観光地を紹介する
ポスターに見入っている。
エージェントは、その週とても順調に仕事が入ったので気をよくしていた。
だから寂しそうにポスターを覗き込んでいる2人連れの姿を見たとたんに、
ふと、何かしてやりたいと思ったのだった。
そこでエージェントは2人を店に招き入れ、言った。
「あなたがたの年金では休暇を楽しむことは望めないでしょう。
そこで、お2人をすばらしいパリの旅にご招待したいのです。ぜひ受けてください」
2人を中で待たせておいて、エージェントは秘書に命じて2枚の航空券を用意、
そして高級ホテルに部屋を取らせた。
思いに違わず、老人たちは喜んで受け入れ、旅立って行った。
1ヶ月ほどした時、例の老婦人が旅行代理店にやってきた。
「それで、休日はいかがでした?」とエージェントは勢い込んで尋ねた。
「飛行機にはわくわくしましたし、お部屋はとっても素敵でしたの」老婦人が言った。
「お礼を申し上げに伺ったのです。でも、1つ分からないことがありまして....」
「と、おっしゃいますと?」
「私と同室したあのご老人はどなたですの? パリで逸れてしまったから気になって....」