
雛山家のクリスマス
エンゲル係数が極めて高い雛山家に於いては、クリスマスとはいえケーキには無縁の生活だった。
『せめて気分だけでも』
理緒は一計を案じ、オカラを固めてケーキの形にした物を良太に渡した。
まさに子供だましの一策であり、良太もその『ケーキ』がいつも食べてるオカラであるとは判っていたが、姉の心遣いが何よりのクリスマスプレゼントであると思っていた。
理緒が高校に進学して初めてのクリスマス。
来栖川家のパーティーに家族ぐるみで招待された雛山家。
見るもの食べる物が知らない物ばかりで、子供らしく無邪気に大喜びする良太。
理緒は、喜びと悲しみの入り混じった笑顔を浮かべていた。
何より良太の心を打ったのは、大きなクリスマスケーキの存在だった。
今まで食べていたオカラの塊とは全然違う、美しく甘い本物のケーキ。
が、良太は理緒の顔色が変わっていたのに気付いていた。
『姉ちゃんの毎年の心遣いが無駄になる』
子供心にもそう思った良太は理緒に届くよう、大声で叫んだ。
「姉ちゃん、このオカラ、ケーキの味がするよ!」