ぼくは言う
大げさなことは言いたくない ぼくはただ水はすき透っていて冷たいと言う
のどがかわいた時に水を飲むことは 人間のいちばんの幸せのひとつだ
確信をもって言えることは多くない ぼくはただ空気はおいしくていい匂いだと言う
生きていて息をするだけで 人間はほほえみたくなるものだ
あたり前なことは何度でも言っていい ぼくはただ鯨は大きくてすばらしいと言う
鯨の歌うのを聞いたことがあるかい 何故か人間であることが恥ずかしくなる
そして人間についてはどう言えばいいのか
朝の道を子どもたちが駈けてゆく
ぼくはただ黙っている ほとんどひとつの傷のように
その姿を心に刻みつけるために・・・
谷川俊太郎 作