稲敷資料館日々抄

稲敷市立歴史民俗資料館の活動を広く周知し、文化財保護や資料館活動への理解を深めてもらうことを目的にしています。

刀剣のお手入れと企画案発表

2012年09月08日 | 日記

博物館実習生のM子です。

ついに実習の最終日を迎えました。
2週間に渡る実習は、長いようで短く、少し寂しい気持ちになりました…。
が、しんみりしてはいられません。最後まで頑張っていきましょう!

9月7日

1、資料館所蔵刀剣等のお手入れ

午前中は、稲敷市の資料館に所蔵されている刀剣、
並びに常州東条庄高田郷の刀剣を収集されている
コレクターの方の刀剣のお手入れをさせて頂きました。

前日に谷津先生の工房にて、その方法やコツを教わっていたため、
そこで学んだことを活かしながら進めていきました。

綿布団を敷いた机の上に、手入れする刀剣を置きます。
長いものから短いものまで、様々な種類の御刀が並ぶ光景は圧巻でした。




〇作業工程

まずは、御刀を袋から取り出す所から作業が始まります。
「お手入れさせて頂きます」という気持ちを込めて、
御刀にお辞儀をしてから作業が始まりました。




取り出す方の口を下に向けないように気を配り、
鞘から刀身が滑り落ちるという事態を招かないように、
慎重に袋から取り出します。



そして、鞘から御刀を抜きます。
ポイントは「途中で止めず、切っ先まで一気に抜く」こと。
抜く途中で刀身を傾けると、鞘に当りヒケ傷が付く危険があるため、それを予防します。




次に、目釘抜き(めくぎぬき)で目釘(御刀と柄を結合している釘)を抜きます。
抜いた後に、御刀の柄を外します。

手で引き抜くのは危険なため、御刀を持った右手の手首を叩き、
刀身が浮き上がった所を見計らって取り外します。
この時に、所有者の了解があれば、御刀の中心(なかご)に付いている
鎺(ハバキ)も外しておきます。




柄を取り外すと、柄に隠れていた中心(なかご)部分が見えます。
ここには、御刀を作った職人の名前などが彫刻されており、
御刀を作った当時の様子などといった歴史的な背景が見えてきます。



取り出した刀身には古い油や鞘の削れカスなどが付着しているため、
奉書紙を使って拭き取りを行います。

コツは、手元から刃先に向かって動かし、最後まで拭き切ること。
途中で止めたり戻したりすると、綺麗に拭き取ることが出来ないため、
一方向に動かしていきます。




拭き取りが済むと、次は刀身に打ち粉をかけていきます。
打ち粉は、紙での拭き取りで落とし切れなかった刀身の油を
細かな粉に吸わせて取り除きます。

こちらも手元から刃先に向かって、一方向に向かって動かします。
かけ終わり次第、打ち粉を別な奉書紙で拭っていきます。

愛刀家の中には打ち粉の使用を嫌う方がいるということなので、
借用品の場合、打ち粉の使用の可否を確認する必要があります。




ライトにかざして、その刃紋の特徴や、御刀表面の傷や錆などの有無を確認します。

☆本来なら一通りの点検が終わったところで油を引いて刀を鞘に納めますが、その前に…。

油を拭って打ち粉を打った御刀を並べ、「常州東条庄高田郷の御刀鑑賞会」を行いました。

この日の鑑賞刀は、稲敷市指定文化財の太刀、銘「常州東条之庄高田住人勝貞作」や
東条庄高田鍛冶の嫡流である英定や綱貞の脇差、珍しい所では、越後系の鍛冶といわれる
脇差、銘「常州住行信」や最後の東条庄高田の刀鍛冶と言われる来国綱の脇差などなど…
これだけまとまった稲敷の郷土刀の数々は他所では絶対に見られない、とのことでした。




さて御刀鑑賞会を終えて御刀を仕舞う準備をします。
まず錆止めの役割を果たす丁子油を、脱脂綿を使って刀表面に塗りつけます。



ここでのポイントは「油は薄く、ムラなく塗る」です。
御刀の表面をライトにかざし、きちんと塗れているかの確認をします。


最後に、御刀を鞘に納めます。
刃先を上に向け、御刀の棟(刃と反対の背の部分)を鞘の底に付け、
鞘の内側に御刀をぶつけないよう気を配りながら、慎重に納めていきます。
最後に袋に入れて、紐を締めて、完了です。





2、午後には、実習のまとめとして「資料館でやってみたい企画案」の発表を行いました。
実習を踏まえ、「自分がやるとしたら」と想定して、
自分なりの企画を職員の皆さんの前で発表しました。



それぞれがやりたい企画案を発表し、皆さんからアドバイスを頂きました。
自分だけで考えていた時点では見えていなかった、企画の問題点やその解決法、
取り入れるべき要素が目に見えてきました。
企画案の作り方など、自分なりに研究を深め、もっと良いものにする方法を
考えてみるのもいいのではないかと思いました。


〇まとめ
 今回の実習では、本当に様々な体験をする機会を頂き、
中身の詰まった実習をすることが出来ました。
今まで触れる機会の無かった刀剣を初めとして、歴史的に価値のある物を見て、
実際に触れて、学びを深められたこと、非常に嬉しく思います。
今後も、今回の実習で学んだ「探求心」を大切に、何事にも取り組んでいきたいと考えています。

 最後になりましたが、資料館の皆さん、本当にお世話になりました。
資料館の方々の助けがあったからこそ、無事に実習を終えることが出来たのだと思います。
2週間という長い期間の中、私達実習生を教え導いて頂き、本当にありがとうございました。


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鉾田新額堂さんと谷津隆夫先生の工房見学

2012年09月08日 | 日記

博物館実習生のM子です。

実習も後半に突入しました。
作業が多かった前半に比べ、後半は見学中心の内容でした。
様々な分野の職人さんの元に訪問し、その技や道具を見て学んできました。

9月6日

1、この日は、午前中に「鉾田新額堂」さんへ、
額縁制作の様子の見学に訪れました。

小村さんご夫妻は私達をにこやかに迎えて下さり、
和やかな雰囲気の中で額縁制作の過程を見学しました。

小村さんは、国内にいる数少ないヨーロッパの額の研究者から技術と知識を
学んだそうで、小村さんがそれ以前に培ってきた額職人としての技術や知識、
職人気質と併せて素敵な額を制作されます。



まず作業道具について、様々な種類がある中で
特に印象的だったのが「カンナ」です。
大小様々な種類が揃えられた手作業用のものがこちら。



機械に付けて使用するカンナは、作る額の形に木材を彫刻できるよう、
小村さん自ら刃の形を加工するそうです。




○制作工程
まずは木材の製材から。電動のカンナで木材を額縁の形に加工します。



次に、額として組み合わせられるよう、1本の木材を4本に切り分けます。
切り口の角度が丁度45°になるように工夫されたカッターを用いて切っていました。



切ったものを組み合わせて額にしていきます。
ここで気を付けなければならないのは、後で接合面が離れないように固定することだそうです。
これにはちょっとしたコツがあるようで、それは職人の秘密のテクニックなのだとか。
本来であれば、他の職人さんには教えてくれないそんなコツも、ちゃんとお話ししてくれました。



最後に、額に装飾を施します。額につける飾りは、型の中に石膏を流して作ります。
これは一度に作るのではなく、パーツごとに作ったものを組み合わせながら形にしていきます。
金箔を押すなど、装飾は額によって様々で、個性的です。



額の色々…



「額は絵に対する着物」という小村さんの言葉が印象的でした。
オーダーメイドで「その絵に一番似合う額を作る」ことを大切にしている小村さんの、
職人としての誇りが伝わってきました。



2、午後は、刀剣研ぎ師の谷津隆夫先生の工房を訪問させて頂き、
刀剣の研ぎ方やお手入れの方法、刀の歴史などについて教えて頂きました。

この日は先生の普段の作業場でなく、居合の稽古場に研ぎの船が設置されていたのですが、
お邪魔してまず目に入ったのが、居合道教士八段である谷津先生の賞状の数々でした。
研ぎ師として仕事をするだけでなく、武道の面でも刀を極めているという先生の姿を
垣間見ることが出来ました。

また、谷津先生は、刀剣鑑定においても著名な刀剣鑑定家である本間薫山氏の内弟子だった
とのことや日本美術刀剣保存協会の茨城県支部長を務めてらっしゃることなどを
後で資料館の方から伺いました。

まず初めに見せて頂いたのが「船」です。この上で刀を研ぐそうです。
船の傍には、道具箱も置かれていました。



まず刀を布で拭って表面の油を落し、
砥石を置き、踏まえ木という道具を足で踏んでしっかりと砥石を固定し、研ぎ始めます。


  
この姿勢が難しく、研ぎの世界では「構え3年」と表現されているそうです。
私達も実際に刀剣の研ぎを体験させて頂きましたが、姿勢を作るのが非常に難しく、
上手く構えられませんでした。

砥石にも様々な種類があり、工程によって使い分けていきます。



長い時間をかけ、少しずつ研いでいきます。
非常に強い忍耐力が必要な作業であることが分かりました。

当初は錆が多く付いていた刀が、徐々に輝きを取り戻していく様子が印象的でした。


研ぐ作業の合間に、平安中末期から鎌倉、南北朝、室町と刀の歴史の概要に
ついて先生がお話して下さいました。

特に日本刀の刃紋について、直刃、丁子刃、互の目、のたれ、小乱れなどの種類があり、
これらが変化したり組み合わさったりと、とても多くの種類があることを知りました。
これまで刀を見る機会があっても、意識したことの無かった部分であり、
非常に興味深く感じました。

また、刀剣鑑賞のポイントの一つである「沸え(にえ)」と「匂い(におい)」について、
とても丁寧に教えてくださいました。



最後に、刀剣のお手入れ方法を教えて頂きました。
刀を拭い古い油を落とし、打ち粉を打って拭い、最後に新しい油を塗って仕上がりです。



手順を簡略化して書きました。
詳細は7日に行われた「刀剣のお手入れ」の記事に書きます。

谷津先生の工房訪問を通し、これまで見る機会はあっても、実際に触れる機会のなかった刀剣について、
非常に多くのことを学ぶ機会を与えて頂いたこと、非常に嬉しく思います。
刀を持ったことの無い私達に対して分かりやすく説明をして下さり、初心者にとっても理解しやすかったです。
とても貴重な体験となりました。

小村さんご夫妻、谷津先生、
見学をさせて頂き、本当にありがとうございました。


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骨董市と文書目録作成

2012年09月08日 | 日記

実習生のK子です。

実習レポートの続きです。


9月2日(日)

この日はお隣の香取市の八坂神社の骨董市に出向き、
資料収集活動の実地研修ということで各種資料の市場調査を行いました。

…が、朝からあいにくの雨で、あまり出店されていませんでした…
それでも、陶器をはじめ、戦時中のお弁当箱や勲章、
アンティークの時計など様々なものが並んでいました。
今度は賑わっているときに足を運んでみたいです。

ちなみに、雨が降らなかった去年の写真だとこんな感じの様子らしいです…


骨董市には、時折、資料館の担当者でも見たことの無いような
資料が出てくるということで、モノを見ながらモノを学ぶ、
そして市場の価格を調査する、色々なことが市場では学べる
のだそうです。

また、佐原は稲敷市から近いので、稲敷市の文化財クラスの資料も
極く稀に出てくる、とのことでした。

佐原の旧三菱銀行や小堀屋そば店、小野川沿いの街並みなどを見て歩きました。
ここでも伊能忠敬の旧宅が工事中で見学ができませんでした。
それでも小野川沿いは柳の並木がきれいです。



帰りには横利根川の閘門を見て帰りました。





9月5日(水)

この日は資料館にて、浮島・宮本市郎兵衛家の資料台帳の作成を行いました。
資料は未整理で、段ボール箱にたくさん。。。
一冊一冊、タイトルや出版年、著編集者などを調べていきます。



この日担当した資料の多くは、農会の会報でした。
土がついており使用感たっぷりのものや、虫害が酷くなかなか開けないものなど、
様々な状態の資料を目にし、手にすることができました。
文書というと、普段は博物館に展示してあるきれいな状態のものや
複写本などを目にすることが多いので、
貴重な体験をすることができました。


今回は資料収集から整理の段階を経験しました。
展示ケースに並んでいるきれいな状態のもの、それ以外にも
表には並ばないたくさんの資料があり、それらをどう扱っていくかが
博物館や学芸員の仕事のポイントになると思います。


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様々な仏像

2012年09月08日 | 日記

実習生のK子です。

早いもので稲敷市の資料館での実習も終了してしまいました…。
これから後半で行った実習の内容を紹介させていただきます。


9月4日(火)

この日は仏像取扱実習を行いました。

まずは仏像を借用し、研修の会場まで運搬します。


今回、特別に実習のため借用させて頂くのは、遺存高が約140㎝ほどの
木造天王立像です。長さ180㎝ほどの桁に載せて運搬する計画です。



綿座布団やエアパッキンでクッションを作り、それらを桁に取り付け、
その上に仏像を仰向けに寝かせます。



足先や顔など養生が必要な部分や、ひもが当たる部分は中性紙や綿座布団などで手当します。
この天王立像は、内刳り(うちぐり)を施していない一木造りなので、とても重く、
また虫害や腐食が進んでいたため御像を傷めないよう細心の注意が求められました。

梱包が終了した仏像です。



この状態の仏像を、資料館の学芸担当の指導の下、
今回は仏像運搬が初めてという3人で運び出しました。

***

その後、研修先の神宮寺にて、この日の講師を務めてくださった仏師の小松崎卓さんと合流し、
同寺の聖観音菩薩立像と、借用してきた天王立像とを見比べながら解説を頂き、拝観しました。


こちらは神宮寺の聖観音菩薩立像です。
平安時代末の作品で、茨城県の有形文化財に指定されています。
木造の寄木造で、虫害が多かったものを小松崎さんが修復し、今の状態となっています。

背中側から内側を刳り抜いてあり、背板と呼ばれる板を当てています。
横から見ると木材の丸みがあまり感じられず、平たい印象があります。
また、割首といって、一旦制作した御像を首から上下に分割し、
後で付け直しています。



こちらは私たちが運搬してきた天王立像です。
内刳りの無い一木造で制作されています。

両肩より先、そして両足首より先を欠失しており、自力で立つことができません。
表面にも虫害や腐食、摩耗、干割れが目立ちます。
特に側面から見ると一本の丸太材から彫り出したことが感じられる、
厚みのある丸い印象があります。
時代は平安時代のもの、との学芸担当者のお話でした。


1枚目が天王立像の頭上からの撮影、2枚目が足先側からです。
頭上から右の太もも付近に木の芯が通っており、一木造であることがうかがえる他、
表面には沢山の節が見られます。このことから、この材木はそれほど大きく無く、
用材としては造像にあまり適さないモノを敢えて選んでいることも分かります。
このような場合、仏像制作に用いられた材木が御神木等の特殊な材だったことなどが
考えられることもあるそうです。


***

この日の午後は仏師の小松崎さんのアトリエにお邪魔し、お話を伺いました。


仏像を彫るのに使用される代表的な木材を、実際に手に取って見せていただきました。
楠、カヤ、檜、白檀、桜などです。
一つ一つ、色味や重さ、香りが違っており、とても興味深いです。

仏像に使用される木材は、これら代表的なもののほかに、
ご神木や雷に打たれた木など加工しにくくても
特別の意味を持って使われている木材というものがあるそうです。

ご神木で仏像を彫る…。
そこには神仏習合や「木」という素材にこだわってきた日本人の
感性がうかがえるようです。

このように仏像を見てみると単なる美術品としてではなく、
信仰の対象として造られていた様がよく表されていることに気付きます。


小松崎さんが仏像を彫るのに使用しているノミです。
反りや刃の向きなどがすべて違っており、彫りやすいよう使い分けたり作ったりされているそうです。


生漆を材料と混ぜているところです。
漆は、麦漆やコクソ漆、サビ漆など、混ぜ合わせる材料によって呼び名が変わり、
それぞれ接着剤やパテ、下地材の役割をします。
コクソ漆は木粉や上新粉などを混ぜて作ります。
これを虫害で空いた穴などに埋め込み仏像を修復します。


小松崎さん制作の仏像のミニチュア。隣に写っているのはカメラのレンズキャップで、直径6cmほどのものです。
手先の器用さがうかがえます。


仏像についていろいろなお話を伺うことができました。
仏像には制作者の魂がこもっており、それが各仏像の迫力に現れていると強く感じました。

***



帰りには妙香寺に立ち寄り、県指定文化財の薬師如来立像を拝観しました。
高さ4.8mの寄木造の仏像です。
震災にも負けずに佇んでいる姿は圧巻です。

この日だけで様々な仏像と出会う事が出来ました。
普段1つ1つ拝観することの多い仏像ですが、製作技法などを間近で比較しながら
見てみるのも興味深いです。



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