歴タビ日記~風に吹かれて~

歴タビ、歴史をめぐる旅。旅先で知った、気になる歴史のエピソードを備忘録も兼ね、まとめています。

関東大震災100年に

2023-07-21 09:23:28 | 歴史 本と映画
映画「福田村事件」について特集されていた。

おおっ!タイムリー!!

先週末、福田村事件について読み、
映画が公開されることも知ったばかり。

映画の公開は、まだ先だが、
あまりの衝撃だったので、まとめておきたい。



今年は、関東大震災から100年。

関東大震災は、大正12(1923)年9月1日、
相模湾(神奈川県)を震源とするマグニチュード7.9の地震で、
東京・神奈川を中心として首都圏に壊滅的な打撃を与えた。
明治以降では、もっとも被害の大きかったと言われている。

実際に地震で被災したこともないわたしが
あれこれ申すことを、まずはお詫びし、おゆるしいただきたい。

子どもの頃から、この地震のことは繰り返し聞かされ、
恐ろしくてならなかった。

大人になって、関東大震災というと、
地震そのものとは違う恐ろしさを感じるようになった。
地震の後に、大杉事件をはじめ、近代日本の闇とも言える
出来事が続いていたからだ。

そんな中で、朝鮮人に対しての流言飛語により、
あちこちで自警団が作られ、無実の人たちが暴力事件に
巻き込まれたことを、知識として知った。

背景は、当時、日本の植民地だった朝鮮での抵抗運動の高まりに、
日本人が恐怖を抱いていたからだという。


だが、あれほどまでに大がかりな事件があったとは・・・
お恥ずかしい話だが、歴史好きを公言しながら、全く知らなかった。
それが「福田村事件」だ。




まずは、事件の概要をざっくりとまとめる。

関東大震災から5日後の、大正12(1923)年9月6日、
千葉県の東葛飾郡福田村(現野田市三ツ堀)で
香川県からの行商人一行15人が朝鮮人と間違われ、
うち9人が自警団に殺された。

一行は、この地に一ヶ月ほど滞在しており、
薬や文房具を、小グループに分かれ行商。
この日は大八車に荷物を積み、千葉から茨城へと移動するところだった。

利根川の渡場で自警団員から、一行は
「日本語がおかしい。朝鮮人ではないか」と疑われる。
実はこの直前に、船賃などをめぐって、船頭と言い争いにもなっている。

一行は香川県の出身、当然、訛りもあろう。
トラブルになったことで興奮し、いっそう方言や訛りが飛び出し・・・
ますます疑われることになったのかもしれない。

船頭が、近くの寺の半鐘を鳴らすと、
住民が、すぐに大勢集まってきた。
「ウンカのように集結してきました」と、
後に、生き残った当時13才の少年は語っている。

おそらく、関東大震災後の非常時ゆえ、
即座に集まる体制がとられていたのだろう。


行商人一行15人は二つの集団に分けられ、
離れた場所で、それぞれに質問を浴びせられる。

村の駐在は一行の支配人(29才)と話し、
「一行は日本人だ」と認めた。

だが、自警団員の中には収まらないものもいた。
一部の声の大きさに、駐在は本署の判断を仰ごうと村を離れた。
その間に悲劇が起きた。

きっかけは、一行の一人がタバコの火を借りようと
立ち上がったことだという。
たちまち「逃げるな」の声とともに、鳶口が振り下ろされ・・・
鳶口、竹槍、日本刀などでの殺戮が始まってしまった。

犠牲者は、成人男性4人、女性と幼児が5人の9人。
妊娠中の女性もいたので、胎児も含め、実際は10人だ。

その後、自警団の8人が騒擾(ソウジョウ)殺人罪で起訴、
最終的に、懲役3年から同10年の実刑が確定。
ただし、二年半後の昭和天皇の即位に伴う恩赦で、全員が釈放された。

以上が事件の概要だ。



森達也監督は言う。
「ふだん、村人の一人一人は優しく善良でも、
集団になるとありえないことをする。」
本映画のテーマである。

まさに!
わたしたちは、近年、その恐ろしさを否が応でも知らされた。

関東大震災での流言飛語「富士山が噴火した」「大津波がくる」
そして「朝鮮人が・・・」は
コロナ禍での根拠のないデマ情報と同じこと。

また、ネット上での誹謗中傷もあとを立たず、
自ら命を絶つ人も少なくない。

人は集団になると、歯止めがきかなくなってしまいかねないのだ。


主演の田中麗奈さんは言う。
「自分が何かの意識を持たないと、
自分で、混乱に飛び込んでしまう」と。

そうなのだ。
わたしなんて、よっぽどしっかりしていないと、絶対にダメ。
自分のことなんて、全く信用できない。

しかも平時ではないのだ。
非常時の自分なんて、わかりようがない。
こうありたい、と強く願うだけだ。



特集では、東京女子大の橋本良昭教授の言葉と
それに対処するための方策が紹介された。

「人は自分の解釈に合う情報に飛びつき、
他者に伝えることで不安や緊張をなくそうとする」

たしかに~~~!

だから、情報に対する批判能力を養うことが必要、
つまり昨今、教育現場でも必要性が叫ばれる
メディアリテラシーを身につけなければいけないのだね。


そして、こういったことの背景には
社会の中の差別や他者への敵対感情があると指摘する。


まさしく。

たとえば、先の事件。
日本人に対する暴力だから結果として実刑判決がでている。
でも、当時、関東大震災下での朝鮮人への暴力や殺人などの犯罪は
追求されてこなかったという。

100年前のこととは言え、絶対におかしい。
これは、今、わたしが冷静だから、言える言葉。
(もし、関東大震災当時、大パニックになっていたら???)



特集では、映画の一部も流れた。

劇中、言いがかりをつけられた行商の一行は、
目がギラギラとしていて、敵意がむき出しである。
こうなると、双方殺気立っているから、歯止めが利かない。
これが悲劇につながる・・・

この流れが、よくわかるのは、映像ならではのチカラだろう。


映画の公開は、関東大震災100年の当日、
9月1日だそうだ。

幸い、横浜の映画館でも観ることができる。
ぜひ観に行きたいと思う。


****************************

おつきあいいただき、どうもありがとうございます。

以下の本と特集時のメモを参考にまとめましたが、
間違いや勘違いもあることと存じます。
素人と言うことで、どうぞ、お許し下さいませ。

◆参考
●筒井功『差別と弾圧の事件史』河出書房新社

冒頭画像の書影は
辻野弥生『福田村事件 関東大震災・知られざる悲劇』(五月書房)、
映画は、この本に依拠しているそうです。
近くの図書館に所蔵がなかったので、上記の本を参考にしました。

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2 コメント

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Unknown (pukutaromama)
2023-07-21 16:09:02
集団心理、非常時の恐怖心などなど、様々な要因があれど、全国各地で昔から今もなお同じようなことが繰り返されていますよね。
確かにこういうのも含めて『歴史』だなぁ、となんだかしみじみ感じました。
返信する
pukutaromamaさま (ぴあ野)
2023-07-22 06:31:50
ままさん、コメントをどうもありがとうございます。
日本だけでなく、世界中での群集心理による悲劇の勃発もありますよね。
いつもは優しい人なのに・・・という。
そのために歴史を知ろうとしているわけではないけれど、
もしかしたら、知っていることで、自制心なり何か心の歯止めがかかるかな、と思うのです。
返信する

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