続編への旅 No.1 2010年初夏の旅
続編出版を決意して
2009年から更に多くのリーメンシュナイダー作品を見ること、資料を集めることを決意して旅は始まっていたのでしたが、ヨハネスの名誉挽回を必ずしなければという決意を胸に、再度2010年にもまだ見ていない場所、作品を訪ねる旅を計画しました。寒いとトイレに行きたくなる頻度も上がりますし、気が滅入り易いため、今回は明るい季節、5月~7月にドイツを中心に回ることにしたのです。この時期、夫は大学の授業があるので一人で行かせてもらいました。とはいっても途中で娘がやってきて一緒にウィーンまで行きましたし、1カ月後には長年英語のレッスンを一緒に受けてきた友だち、藤森文子さんが退職後にドイツを見て回りたいというので合流しましたから、完全な一人旅ではありませんでした。また、後半は観光旅行が主となりました。
フランケン地方を回るためにはヴュルツブルク近辺に泊まる必要があります。でも、ヴュルツブルクは交通の要所でもあるので宿泊料金も高いのです。ドイツ語の先生にも相談して、Ferienwohnung(休暇用アパート)のサイトを見付け、キッツィンゲンに比較的安いアパートがあることがわかりました。駅からは20分近く歩かなければなりませんが、大家さんの隣の建物で、1階はガレージ、2階にリビングルーム、キッチン、ベッドルームと3室あります。お風呂にはバスタブがあり、トイレも別室という恵まれたアパートで、1泊確か€ 20,00と格安でした。ここに泊まりながらフランケン地方を回ると決めて2週間分の予約をしました。
実際、6月にやってきたこのアパートは、花一杯に飾られて美しく、清潔で居心地が良く、大家さんもとても親切でした。ただ一つだけネックになるのは、キッツィンゲンからヴュルツブルクまで歩きと列車を入れて最低40分はかかることです。フランケン地方の大半はバイエルン州に属するため、バイエルンチケットを買うと特急以外の列車もバスも午前9時~夜中の3時まで乗り放題になるのですが、9時過ぎの列車でないと乗れないためにヴュルツブルクから乗り換えていく目的地に着くのはどうしてもお昼近くになってしまいます。朝の時間がもったいないと私には思えるのでした。また、ようやく夜キッツィンゲンまで戻ってくると、くたくたの体にむち打って更にカメラと三脚と本などが入った重い鞄を持ってアパートまで歩くのがとても辛かったのが忘れられません。
この旅のルートは以下のとおりです。
フランクフルト → ハイデルベルク → シュヴェービッシュ・ハル → シュトゥットガルト → チューリッヒ → ウィーン → ベルヒテスガーデン → ミュンヘン →
ニュルンベルク → アイゼナハ → キッツィンゲン → ローテンブルク → ハノーファー → ロストック → ベルリン → ワルシャワ → クラクフ → プラハ →
チェスケ・ブディヨヴィツエ → レーゲンスブルク → フランクフルト
旅のノートには、訪ねた教会は42館、美術館・博物館は17館、拝観した作品数は、当時の数え方で222点とメモしてあります。その中で何カ所かの特筆すべき旅について書いていこうと思います。
美術史美術館の奥深くへ
ウィーンの美術史美術館にはリーメンシュナイダーの聖母子像があります。それを見たくてかつて2回訪ねたのですが、修復中ということで展示されていませんでした。ドイツからウィーンまで足を伸ばすのは時間もお金も大変かかります。今回、もし展示されているのだったら旅程に組み込もうと、早い時点で美術史美術館にメールを送ってみることにしました。すると運良く工房の修復士、バルバラ・ゴールドマンさんのメールアドレスが載っていたので、もう聖母子像の修復は終わっているのかどうかと尋ねてみました。彼女は「修復は終わっていて収蔵庫に保管されています。よければ案内しますよ。修復を担当した者ともお話ししますか?」と返信をくれたのです。驚きました。こんなチャンスは滅多にないと嬉しくて是非お願いしますと答え、日程に組み込みました。その話を娘にも伝えたところ、漆の仕事をしている娘もそれなら是非一緒に行きたいというではありませんか。そしてまもなく娘の友だちで仏像修復をしている杉浦奈央美さんも同行したいと連絡してきました。急遽3人で伺いたいとメールをし直し、5月27日に美術史美術館を訪ねることになりました。
入り口前で3人集合、パスポートを預け、訪問者カードを受け取りました。そのカードを改札のようなところにかざすと中に入れるのです。その後は自分たちで工房まで行って良いというのでちょっと驚きました。こんなにフリーにさせてもらって大丈夫なのかしらと。
工房に着くとマークさんがにこやかに迎えてくれました。今日はゴールドマンさんは別のお客さまの対応をするのでと、握手を交わしただけで、実際に聖母子像を修復したこのマークさんが案内してくれるのだそうです。若くて素敵な男性で、親切な人でした。鍵束を持ち歩き、内部のエレベーターの鍵を開けて乗り込み、下りると鍵を閉め、いくつもの部屋や廊下を通り抜けていきます。「これではぐれたら迷子になる!」と必死でついていきました。そしてたどりついた収蔵庫。白い紙のカバーをていねいにはずし、出てきた聖母子像はとても気品ある美しさでした。脚立までおかれていて、どうぞお使いくださいとのこと。上から下まで撮影させていただきました。その後、小さなアダム像も別の部屋にあるといって更に奥深くまで案内していただき、全身360℃動かして撮影させてもらいました。マークさんの話では、以前の修復は取れてしまった部分や壊れた部分を作り直して元の形に整えることが大事だったのですが、最近は「これ以上壊れないような修復をする」という方向に改められたのだそうです。本当に幸運な、そして感動的な一日でした。
<作品写真34> <作品写真35>
Madonna auf der Modsichel Adam
1505-1510 Tilman Riemenscheider 1490-1505 Tilman Riemenschneider
Kunsthistrisches Museum, Wien
<美術史美術館>
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