人類の意識を変えた20世紀: アインシュタインからスーパーマリオ、ポストモダンまで
「世紀」などというのは何の客観的な根拠もない勝手な線引きだと重々承知している。歴史学者は「長い一九世紀」(フランス革命が始まった一七八九年から第一次世界大戦が勃発した一九一四年まで)とか「短い二〇世紀」(一九一四年からソビエト連邦崩壊の一九九一年まで)といった時代区分を設けているくらいで、どちらにもはっきりとした始まりと終わりがある。だが、私たちが旅をする分には「二〇世紀」という区切り方で十分だろう。物事が理解不能になりだした時代から出発して、今の私たちがいる場所にたどり着けばそれでいい。(p14)
記憶が歴史に変わる瞬間はどんな世代にも訪れる。二〇世紀は遠のきつつあり、そろそろ全体を俯瞰できるところにまできた。あの世紀に起きた出来事は、もう「歴史」 の範疇に括ってよさそうに思える。立ち止まって評価するには絶好のタイミングと言えるだろう。
つまり本書は、今までになかった道を通って二〇世紀という風景を旅するものである。旅の目的は、ほかのすべての道と同じだ。その日的に導かれるままに、私たちは進んでいこう。(p15)
現実政治的(レアルポリティーク)な個人主義の時代
過去の大規模な多国籍企業は、新しい発明をし、限られた天然資源をコントロールすることを事業の土台に据えていた。一方、もっと新しい時代の大企業、たとえばグーグルやフェイスブックなどは、一人の人間が椅子に座ってプログラムを書くことで誕生している。プログラミングは、実体のある物質を扱うわけではない。情報や指示といった、形のないものを操作する作業である。その言語や文法には形式や構造が存在するとはいえ、プログラミングにはつねに芸術や魔法の匂いがつきまとってきた。読み書きには、時間と空間を越えて情報を伝える力がある。だが、その情報はいわば凍っているも同然で、それ自体がただちに何かをすることはできない。プログラミングは、生きている言語で文章を綴るようなものだ。綴られたテキストは自らに働きかけ、作者が意図した通りの作業を実行する。プログラミングコードは疲れを知らず、驚くほど正確だ。魔法をかけられた言語なのだ。(p362)
人類の意識を変えた20世紀: アインシュタインからスーパーマリオ、ポストモダンまで | |
歴史が未来を映し出す鏡であるなら、20世紀は私たちに何を見せてくれるだろう? |
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インターシフト (合同出版)発行 2250円 梶山あゆみ訳 |
内容紹介----------------
■20世紀の「大変動」を経て、人類はどこへ向かうのか■
絶対的な時空・権力が崩れ、
相対的な時空・個の社会へと大転換した20世紀。
ひび割れた世界のなかで、自由と虚無、無意識と不確定性、
SFとゲーム、ロック音楽と新自由主義・・などが台頭する。
そして、相対性理論とキュビスムが、大量生産と大量虐殺が、
先端科学と魔術思想が、カオスと秩序が・・つながり合う。
〈大変動〉によって、人類の意識はいかに変わり、
どこへ向かおうとしているのか
文化・アート・科学を横断し、新たな希望を見出す冒険が始まる!
::目次::
はじめに ◎ 暗い森を巡る冒険
第1章 相対性 ◎ 世界のヘソが消えた
第2章 モダニズム ◎ 割れた視点
第3章 戦争 ◎ 帝国の崩壊とテクノロジー
第4章 個人主義 ◎ 男も女も一人ひとりが一個の星
第5章 イド ◎ 操られる無意識
第6章 不確定性 ◎ 生きていると同時に死んでいる猫
第7章 サイエンス・フィクション ◎ 単一神話から複雑な物語へ
第8章 虚無主義 ◎ 生は絶望の向こう側で始まる
第9章 宇宙 ◎ 人類は月へ行き、地球を見つけた
第10章 セックス ◎ 女性を解放しなかった性革命
第11章 ティーンエイジャー ◎ 反逆者のジレンマ
第12章 カオス ◎ 自然は予測不能で美しい
第13章 成長 ◎ 経済と環境がぶつかるとき
第14章 ポストモダン ◎ 「知の底なし沼」から「確かさ戦争」へ
第15章 ネットワーク ◎ 他者とつながる力の未来
::著者:: ジョン・ヒッグス
ライター。文化史家。『ガーディアン』『インディペンデント』などに寄稿。
新たな視点で文化・思潮を捉える手腕に定評がある。
既刊書『The KLF: ハウス・ミュージック伝説のユニットはなぜ100万ポンドを燃やすにいたったのか』(河出書房新社)など。