ロシアのウクライナ侵攻が継続中の状況にあって、いま読むべきはこの本と思うのです。その本の名はウクライナ生まれでベラルーシ在住のドキュメンタリー作家アレーシ・アダモーヴィチ著『戦争は女の顔をしていない』です。この本は、男目線の戦争小説ではありません。女性の立場で書かれています。50年前の戦争をテーマーに書かれた小説ですが,いまの状況につながる内容であります。
アダモーヴィチはベラルーシに住み,ルカシェンコ独裁政権批判のスタンスを貫いています。
アダモーヴィチいわく,「戦争は女の顔をしていない。しかし,この戦争(第二次世界大戦)で我々の母親たちの顔ほど厳しく,すさまじく,また美しい顔として記憶されたものはなかった」。
『戦争は女の顔をしていない』試し読みPV(CV:日笠陽子ほか)--------------------------
第二次世界大戦で、ソ連側だけでも死者は約2700万人という「独ソ戦」。ソ連では100万人をこえる女性が従軍し,看護婦や軍医としてのみならず,兵士として前線で武器を手にして戦った。しかし彼女らは戦後は世間から白い目で見られ,みずからの戦争体験をひた隠しにしなければならなかった――。その従軍女性兵士の苦悩や悲しみ,希望や絶望を,ウクライナ生まれのアレクシエーヴィチ(1948-)が聞き取り取材し戦争の真実を明らかにしたのが,「戦争は女の顔をしていない」です。
地方紙の一記者であったアレクシエーヴィチは、「戦争の物語を書きたい。女たちのものがたりを」という思いから,元女性兵士500人にインタビューした。そして、女性たちからの証言を集め,単に「戦争」を告発するにとどまらず,戦場でも女性でありたいという希求や,女性ならではの苦悩,悲しみを克明に描がいています。
だが,完成から2年間,この本はソ連軍の兵士や国家に対する中傷だとし,出版を許されませんでした。ペレストロイカで自由化が進んだ1984年に世に出ました。200万部を超えるベストセラーになり,映画化もされました。
アレクシエーヴィチは2015年,ジャーナリストとして初めてノーベル文学賞を受賞しています。
ウクライナ・ソビエト社会主義共和国に生まれ。ベラルーシ大学でジャーナリズムを専攻し,卒業後はジャーナリストとして活動。聞き書きを通して,大事件や社会問題を描く。
第1作『戦争は女の顔をしていない』では,第二次世界大戦に従軍した女性や関係者を取材。『戦争は女の顔をしていない』は舞台化や映画化されており,劇はソ連各地で上演され,映画はソヴィエト連邦国家賞を,ライプツィヒ国際ドキュメンタリー映画祭では銀の鳩賞を受賞。
2015年,ジャーナリストとして初めてノーベル文学賞を受賞した。ロシアによるウクライナへの干渉やクリミア併合を批判しているためロシアでは非難する声が強いが,ウクライナへの干渉はルカシェンコは賛同していないことやベラルーシ唯一のノーベル賞受賞者であることから受賞には政府は祝辞を送った。
ベラルーシの独裁者ルカシェンコ大統領は彼女を「外国で著書を出版し祖国を中傷して金をもらっている」と非難し,長い間ベラルーシでは出版禁止とされてきた。