その後、しばらく香織と逢う事も電話もなく、
忙しい日々が過ぎ、哲也は専門学校を卒業した。
いくつかの企業からの内定はもらったが、
しばらくの間、就職もせず、アルバイトで生活をしていた。
デザインとは全く関係のないアルバイト、
あの店へ行けばきっと、雇ってもらえたと思うが、
アクセサリーの店でのアルバイトをする気持ちはなかった。
東京の自宅近くでの掛け持ちバイトで何とか生活はできた。
どうしても絵が描けなくて、白いキャンパスに向かっても、手が動かない。
ありきたりの募集、絵葉書などが精一杯の絵だった。
お金にはならない、掃除機や毛玉とり、コップ、皿など日用品ばかりだ。
漫画を描いては、公募し一度も本に載せるまでにはならず、
香織の事も忘れかけていた。
哲也は、親からは「就職は?」とうるさく言われる。
香織と逢わなくなった哲也には、何もなくなった、
哲也自身の、全てを失ったような、そんな気がした。
以前のバイトで少しの貯えはあったが、
酒、パチンコ、競馬、競輪に消えていった。
家賃も払えず、電話、ガスも止められた。
新聞の勧誘でヤクザ関係者とも知り合いになった。
「いつでも事務所に来いよ」
ヤクザ関係者に声をかけられ、事務所の前までは行ったが、
事務所へは入らず、もうやりきれない状況になっていた。
そんな時、学校からの手紙が届いた。
ある企業が、哲也を探してるとの事だった。
もうこの際、勤め人にでも出るかと哲也は思い、
指定どおりにその場所へ向かったが、様子がなんか変な感じがした。
二人のスーツ姿をした人がいた。
履歴書を渡すとすぐにバックの中へ入れ、何か書類を出してきた。
それは、1枚の契約書であった。
「どうして僕を探してたんですか?」
哲也は、一枚の名刺を出された。
「面接は、ないんですか?」
哲也は、こんな不思議な事があっていいのかと思った。
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