働き方改革関連法ノート

厚生労働省の労働政策審議会(労政審)労働条件分科会や労働基準関係法制研究会などの議論に関する雑記帳

裁量労働制適用拡大の対象業務が曖昧すぎる

2021年07月03日 | 裁量労働制
日本経済新聞「社説:裁量労働制を広げよう」は疑問
日本経済新聞が社説(「生産性向上へ裁量労働制を広げよう」、2021年6月30日配信)で「仕事の時間配分を働き手が決められる『裁量労働制』の拡大に向けた議論がようやく再開する。厚生労働省の調査データの不備が原因で2018年に頓挫していたが、改めて実施した調査結果がまとまった。厚労省は時間の空費を自省し、待ったなしの改革ととらえて議論を迅速に進めるべきだ」と主張。日本経済新聞は「厚労省は時間の空費を自省し」と辛らつなことを書いている。

厚生労働省は6月25日、裁量労働制実態調査結果を公表したが、1日の平均労働時間は、裁量労働制は9時間で、適用されない人の8時間39分より長かったし、また、あらかじめ定めた『みなし労働時間』より長く働いていることも判明した。そして厚労省は7月にも有識者検討会を設置し制度の見直しに着手すると報じられている。

だが、厚労省の黒澤朗・労働基準局労働条件政策課長は「裁量労働制の方が時間が長いというのが正しい実態だ。結果を踏まえ、制度全般を幅広く議論していく」(毎日新聞デジタル版「裁量労働制、適用者の勤務時間長く 厚労省調査 制度見直し」抜粋、2021年6月25日配信)と慎重な姿勢も示している。

経団連が裁量労働制対象(適用)拡大を要望
「改訂 Society 5.0の実現に向けた規制・制度改革に関する提言-2020年度経団連規制改革要望-」を昨年(2020年)10月13日に経団連(一般社団法人 日本経済団体連合会)が公表したが、その「Ⅲ.2020年度規制改革要望」「2.テレワーク時代の労働・生活環境の整備」に「企画業務型裁量労働制の対象業務の見直し」などが要望として記載されている。

No. 44. 企画業務型裁量労働制の対象業務の見直し
<要望内容・要望理由>
労働基準法は、企画業務型裁量労働制の対象を「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であって、当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務」と定めている。

しかしながら、経済のグローバル化や産業構造の変化が急速に進み、企業における業務が高度化・複合化する今日において、業務実態と乖離しており、円滑な制度の導入、運用を困難なものとしている。

そこで、「働き方改革関連法案」の審議段階で削除された「課題解決型提案営業」と「裁量的にPDCAを回す業務」を早期に対象に追加すべきである。

<根拠法令等>
労働基準法第38条の4


2020年10月の経団連要望には「『働き方改革関連法案』の審議段階で削除された『課題解決型提案営業』と『裁量的にPDCAを回す業務』を早期に対象に追加すべき」とある。

だが、この「課題解決型提案営業」「裁量的にPDCAを回す業務」を付け加えて裁量労働制対象拡大しようとする案は2018年2月28日に安倍晋三首相(当時)は「働き方改革関連法案」から削除して一度は断念している。

日本経済新聞の社説「裁量労働制を広げよう」は、2018年に働き方改革関連法案から削除された「課題解決型提案営業」と「裁量的にPDCAを回す業務」を裁量労働制対象に追加すべきとする2020年度経団連要望に追従するものであろう。

上西充子・法政大学教授は岩波書店『世界』2018年5月号に寄稿された「裁量労働制を問い直せ」の中に「どちらも対象業務が曖昧で、幅広く適用されるおそれがある」と記載。

そして上西充子教授は、前者については「あらゆるホワイトカラー労働者が適用対象に含まれる可能性がある」、また後者については「法人相手の営業職は、すべて対象とされると考えて良いだろう」との嶋崎量弁護士の指摘を紹介。


2018年2月6日に閣議決定した裁量労働制に関する答弁書
厚労省は新検討会を設置し #裁量労働制 対象拡大再議論が始まる。だが、最も懸念すべきは2018年(平成30年)2月6日に閣議決定した「契約社員や最低賃金で働く労働者にも適用可能」とする答弁書。嶋崎量弁護士も「注意すべきは、年収要件がないこと、雇用形態に制限がないことだ」と指摘している。

企画業務型裁量労働制が予定している適用対象者は、企業の中枢にいるホワイトカラー労働者だ。

ただ、注意すべきは、年収要件がないこと、雇用形態に制限がないことだ。(嶋崎量『「働き方改革」に含まれる猛毒・裁量労働制の「本当の姿」と「あるべき姿」』2018年2月28日)

この嶋崎量弁護士の言葉を明確にしているのが、2018年2月6日に安倍政権が閣議決定した「衆議院議員山井和則(希望)提出営業活動に携わる労働者の具体的事例への裁量労働制の適用の適否等に関する質問に対する答弁書」になる。

「衆議院議員山井和則(希望)提出営業活動に携わる労働者の具体的事例への裁量労働制の適用の適否等に関する質問に対する答弁書」には「企画業務型裁量労働制の対象労働者についての賃金、労働契約の期間、雇用形態、勤続年数及び年齢に関する要件はない」と記載されている。まさに上西充子・法政大学教授の「対象業務が曖昧で、幅広く適用されるおそれがある」との指摘を明確に裏付けるものとなっている。

企画業務型裁量労働制の対象労働者についての賃金、労働契約の期間、雇用形態、勤続年数及び年齢に関する要件はないが、労働基準法第三十八条の四第一項の規定により、「対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者」であること等が必要であり、これらの要件に該当する労働者に限り、企画業務型裁量労働制を適用することができる。

また、法案要綱においては、「対象業務に従事する労働者は、対象業務を適切に遂行するために必要なものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する知識、経験等を有するものに限るものとすること」とされており、これを企画業務型裁量労働制の対象労働者の要件として定めることを検討中である。さらに、新対象業務に係る企画業務型裁量労働制についても、当該要件を満たすことを必要とすることを検討中である。(衆議院議員山井和則君提出営業活動に携わる労働者の具体的事例への裁量労働制の適用の適否等に関する質問に対する答弁書」抜粋、2018年<平成30年>2月6日)


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