テレワークと今後のメンタルヘルス対策
「テレワークで(うつ状態などのメンタルヘルス不調で)休職者が出たからテレワークは廃止」といった経営者もいるようだ。
「社員がメンタルヘルス不調になった原因はどこにあったのか」とか「テレワークでのサポート体制は十分だったのか」とか検討もせず、テレワークを廃止して、それで問題が解決すると思っている経営者がいるなら、乱暴な話だ。テレワークにはデメリットも確かにあるが、それ以上のメリットもあるので、もう少し経営者はよく考えてから発言してもらいたい。
産業保健のあり方に関する検討会(厚生労働省)
「テレワークと今後のメンタルヘルス対策」は重要なイシューだと思うが、厚生労働省も同様のことを考えているようだ。厚生労働省は昨年(2022年)秋に「産業保健のあり方に関する検討会」といった有識者会議を設置し、「テレワークと今後のメンタルヘルス対策」に関する議論を始めようとしている。
昨年(2022年)10月17日に「産業保健のあり方に関する検討会」の初会合が開催され、昨日(2022年)第3回「産業保健のあり方に関する検討会」が開催された。議題は「産業保健の現状と課題に関するヒアリング(中小企業を中心に)」で、中小企業の嘱託産業医などからヒアリングが実施された。
産業保健のあり方に関する検討会ヒアリング資料
産業保健の現状としては、テレワークの拡大による就業場所の分散化等により産業保健活動のオンライン化のニーズが高まっており、産業保健のあり方関する検討会の論点の一つが「テレワークの増加に伴う分散型の就業形態における健康管理対策」。
相澤好治・北里大学名誉教授が準備した第3回「産業保健のあり方に関する検討会」ヒアリング資料には「テレワークの増加に伴う分散型の就業形態における健康管理対策」などはふれられておられず、(今までの行われてきた)産業医などによる職場巡視の重要性を訴えている。
だが、テレワークでの在宅勤務などで職場巡視が可能だろうか、また、これから取り組もうとしている「産業保健活動のオンライン化」によって可能となるのだろうか。課題は多い。だからこそ今後の検討会議論に注目したいが、新たな視点で議論されることを期待する。*産業保健のあり方に関する検討会論点には「テレワーク等により、就業場所が自宅を含めて分散化・多様化する中で、職場巡視はどうあるべきか。また、職場巡視にどのようにIT技術を取り入れられるのか」と記載されている。
また、岡山産業保健総合支援センター長の松山正春・岡山県医師会会長は「中小事業場に産業保健サービスを届けようとするなら、先ずは、中小事業場が産業保健サービスを受け入れられる体制の整備のための施策、特に財源が必要」と訴え、その実現のためには「産業医を中心とした水平、垂直の連携が必要」と。しかし「補助金削減のため、特に、小規模事業場向けの産業医活動に支障をきたし、2022年12月31日現在、 79件の利用について対応不可能となった」「地域産業保健は、限られた予算の中で運営しており、コーディネーターなどの出務も制限され、中小 事業場にあまねく産業保健サービスを提供できる体制になっていない」と問題点を指摘し、「地産保に十分な予算をつけることは、小規模事業場で働く労働者の健康と安全を担保する制度設計が可能となり、結果的に生産性の向上につながる」と訴えた。
そして、産業医科大学・産業生態科学研究所・産業精神保健学研究室の江口尚教授は、今後の産業保健のあり方に関する論点の生産性向上効果については「健康経営や、生産性向上、プレゼンティーズム防止の視点が強調されると取り残される労働者が生じ得る ため、労働者保護が基本である労働安全衛生法に 含めることに懸念がある 個別の事業者の判断、対応に任せるべきではないか」とした。さらに江口教授は、今後の産業保健のあり方に関する論点のIT技術の活用促進について科研費、AMED研究、厚生労働科学研究等を通じて、本学(産業医科大学においても、産業保健分野におけるIT技術の活用の促進に資する研究に積極的に取り組んでいく」と。
相澤好治・北里大学名誉教授準備資料(PDF)
松山正春・岡山県医師会会長準備資料(PDF)
江口尚・産業医科大学教授準備資料(PDF)
産業保健のあり方に関する検討会 開催要綱
産業保健のあり方に関する検討会 開催要綱
1.目的
職場における労働者の健康保持増進に関する課題は、メンタルヘルスや働き方改革へ の対応、労働者の高齢化への対応、女性の就業率の増加に伴う健康課題への対応、治療と 仕事の両立支援、テレワークの拡大による課題への対応、化学物質の自律管理への対応な ど、多様化しており、現場のニーズの変化に対応した産業保健体制や活動の見直しが求められている。
また、法令に基づく産業保健体制が整備されているものの、産業保健活動が効果的に 行われず、労働者の健康保持増進が有効に図られていない事業場も多いことや、保健事業 を実施する保険者との連携が十分に行われていない事例もあることから、より効果的に産 業保健活動の推進を図る必要がある。
さらに、産業医の選任義務のない労働者数50人未満の事業所においては、産業保健活 動が低調な傾向にあり、地域医療・保健との連携なども含め、こうした小規模事業所にお ける産業保健体制の確保と活動の推進が必要となっている。 こうしたことから、産業現場のニーズを踏まえつつ、より効果的に産業保健活動が推 進されるよう、産業保健に関わる者の役割分担や連携のあり方、保険者等との連携のあり 方、小規模事業場における産業保健活動のあり方について検討することとする。
2.検討事項
(1) 産業保健活動における課題に関すること
(2) 産業現場のニーズを踏まえた産業保健活動のあり方と事業場内外の関係者の役割分 担とチームによる産業保健体制・活動に関すること
(3) 産業保健関係者の確保及び資質向上に関すること
(4) 産業保健活動における新技術の活用に関すること
(5) 超高齢社会や女性就業率が高まる中での産業保健の役割・あり方に関すること
(6) 保険者、健診機関等との連携による産業保健活動の推進に関すること
(7) 小規模事業場における産業保健体制・活動のあり方に関すること
(8) 企業活動における産業保健の意義・位置づけ、具体的な体制構築・活動推進のため の普及啓発、支援、人材育成等の環境整備に関すること
(9) その他
<第1回 産業保健のあり方に関する検討会資料より抜粋>
産業保健のあり方に関する検討会 論点
今後の産業保健のあり方に関する論点
1.多様化するニーズに対応した産業保健の位置づけについて
・産業保健は業務に起因して発生する疾病や、業務により疾病が増悪することを予防することを一義的な目的としてきたが、多様化する産業現場の課題やニーズの変化を踏まえ、今後産業保健が担うべき役割、目指すべき姿は、どうあるべきか。
・疾病を抱える者の疾病管理や就業管理(治療と仕事の両立支援)、生活習慣病等の疾 病の予防、女性の健康問題への対応、感染症対策など、業務と直接的な関連がない健康問題への対応は、産業保健の中でどのように位置づけるべきか。
2.取組を推進すべき産業保健活動について
・今後、産業保健において重点的に取り組むべき課題は何か。また、どのように取り組 むべきか。
(1)増加するメンタルヘルス不調を予防するためのストレスチェック制度をはじめとする有効策
(2)疾病による離職を防ぐための治療と仕事の両立を推進するための方策
(3)アブセンティーズムの防止のみならず、生産性向上やプレゼンティーズム防止のために産業保健において進めるべき疾病予防、疾病管理、重症化予防の取組
(4)高年齢労働者が増加する中での加齢による身体機能の低下に対する対策
(5)女性の健康問題への対応
(6)化学物質の自律的な管理における健康管理対策
(7)テレワークの増加に伴う分散型の就業形態における健康管理対策
<3~6は略>
7. IT技術の活用促進について
(1)IT技術を積極的に活用することにより、労働者の健康管理を充実し、効率化することが可能ではないか。どのような業務に、どのように活用することが考えられるか。
(2)産業保健活動において、オンライン化により効率化ができるものはあるか(産業医等の移動時間も含めて効率化できる業務はあるか)。
(3)テレワーク等により、就業場所が自宅を含めて分散化・多様化する中で、職場巡視はどうあるべきか。また、職場巡視にどのようにIT技術を取り入れられるのか。
<第1回 産業保健のあり方に関する検討会資料より抜粋>
産業保健のあり方に関する検討会 名簿
産業保健のあり方に関する検討会 構成員名簿(50音順)
及川 勝 全国中小企業団体中央会 常務理事
大下 英和 日本商工会議所 産業政策第二部長
岡田 睦美 富士通株式会社健康推進本部健康事業推進統括部 健康支援室長
鎌田 久美子 公益社団法人日本看護協会 常任理事
神村 裕子 公益社団法人日本医師会 常任理事
亀澤 典子 公益社団法人全国労働衛生団体連合会 専務理事
神津 進 全国衛生管理者協議会 監事
小松原 祐介 健康保険組合連合会 組合サポート部長(保健担当)
鈴木 重也 一般社団法人日本経済団体連合会 労働法制本部長
冨髙 裕子 日本労働組合総連合会 総合政策推進局長
中島 誠 全国健康保険協会 理事
中嶋 義文 社会福祉法人三井記念病院精神科 部長
古井 祐司 東京大学未来ビジョン研究センターデータヘルス研究ユニット 特任教授
三柴 丈典 近畿大学法学部法律学科 教授
武藤 繁貴 公益社団法人日本人間ドック学会 理事
森 晃爾 産業医科大学産業生態科学研究所 教授
<第1回 産業保健のあり方に関する検討会資料より抜粋>
「テレワークで(うつ状態などのメンタルヘルス不調で)休職者が出たからテレワークは廃止」といった経営者もいるようだ。
「社員がメンタルヘルス不調になった原因はどこにあったのか」とか「テレワークでのサポート体制は十分だったのか」とか検討もせず、テレワークを廃止して、それで問題が解決すると思っている経営者がいるなら、乱暴な話だ。テレワークにはデメリットも確かにあるが、それ以上のメリットもあるので、もう少し経営者はよく考えてから発言してもらいたい。
産業保健のあり方に関する検討会(厚生労働省)
「テレワークと今後のメンタルヘルス対策」は重要なイシューだと思うが、厚生労働省も同様のことを考えているようだ。厚生労働省は昨年(2022年)秋に「産業保健のあり方に関する検討会」といった有識者会議を設置し、「テレワークと今後のメンタルヘルス対策」に関する議論を始めようとしている。
昨年(2022年)10月17日に「産業保健のあり方に関する検討会」の初会合が開催され、昨日(2022年)第3回「産業保健のあり方に関する検討会」が開催された。議題は「産業保健の現状と課題に関するヒアリング(中小企業を中心に)」で、中小企業の嘱託産業医などからヒアリングが実施された。
産業保健のあり方に関する検討会ヒアリング資料
産業保健の現状としては、テレワークの拡大による就業場所の分散化等により産業保健活動のオンライン化のニーズが高まっており、産業保健のあり方関する検討会の論点の一つが「テレワークの増加に伴う分散型の就業形態における健康管理対策」。
相澤好治・北里大学名誉教授が準備した第3回「産業保健のあり方に関する検討会」ヒアリング資料には「テレワークの増加に伴う分散型の就業形態における健康管理対策」などはふれられておられず、(今までの行われてきた)産業医などによる職場巡視の重要性を訴えている。
だが、テレワークでの在宅勤務などで職場巡視が可能だろうか、また、これから取り組もうとしている「産業保健活動のオンライン化」によって可能となるのだろうか。課題は多い。だからこそ今後の検討会議論に注目したいが、新たな視点で議論されることを期待する。*産業保健のあり方に関する検討会論点には「テレワーク等により、就業場所が自宅を含めて分散化・多様化する中で、職場巡視はどうあるべきか。また、職場巡視にどのようにIT技術を取り入れられるのか」と記載されている。
また、岡山産業保健総合支援センター長の松山正春・岡山県医師会会長は「中小事業場に産業保健サービスを届けようとするなら、先ずは、中小事業場が産業保健サービスを受け入れられる体制の整備のための施策、特に財源が必要」と訴え、その実現のためには「産業医を中心とした水平、垂直の連携が必要」と。しかし「補助金削減のため、特に、小規模事業場向けの産業医活動に支障をきたし、2022年12月31日現在、 79件の利用について対応不可能となった」「地域産業保健は、限られた予算の中で運営しており、コーディネーターなどの出務も制限され、中小 事業場にあまねく産業保健サービスを提供できる体制になっていない」と問題点を指摘し、「地産保に十分な予算をつけることは、小規模事業場で働く労働者の健康と安全を担保する制度設計が可能となり、結果的に生産性の向上につながる」と訴えた。
そして、産業医科大学・産業生態科学研究所・産業精神保健学研究室の江口尚教授は、今後の産業保健のあり方に関する論点の生産性向上効果については「健康経営や、生産性向上、プレゼンティーズム防止の視点が強調されると取り残される労働者が生じ得る ため、労働者保護が基本である労働安全衛生法に 含めることに懸念がある 個別の事業者の判断、対応に任せるべきではないか」とした。さらに江口教授は、今後の産業保健のあり方に関する論点のIT技術の活用促進について科研費、AMED研究、厚生労働科学研究等を通じて、本学(産業医科大学においても、産業保健分野におけるIT技術の活用の促進に資する研究に積極的に取り組んでいく」と。
相澤好治・北里大学名誉教授準備資料(PDF)
松山正春・岡山県医師会会長準備資料(PDF)
江口尚・産業医科大学教授準備資料(PDF)
産業保健のあり方に関する検討会 開催要綱
産業保健のあり方に関する検討会 開催要綱
1.目的
職場における労働者の健康保持増進に関する課題は、メンタルヘルスや働き方改革へ の対応、労働者の高齢化への対応、女性の就業率の増加に伴う健康課題への対応、治療と 仕事の両立支援、テレワークの拡大による課題への対応、化学物質の自律管理への対応な ど、多様化しており、現場のニーズの変化に対応した産業保健体制や活動の見直しが求められている。
また、法令に基づく産業保健体制が整備されているものの、産業保健活動が効果的に 行われず、労働者の健康保持増進が有効に図られていない事業場も多いことや、保健事業 を実施する保険者との連携が十分に行われていない事例もあることから、より効果的に産 業保健活動の推進を図る必要がある。
さらに、産業医の選任義務のない労働者数50人未満の事業所においては、産業保健活 動が低調な傾向にあり、地域医療・保健との連携なども含め、こうした小規模事業所にお ける産業保健体制の確保と活動の推進が必要となっている。 こうしたことから、産業現場のニーズを踏まえつつ、より効果的に産業保健活動が推 進されるよう、産業保健に関わる者の役割分担や連携のあり方、保険者等との連携のあり 方、小規模事業場における産業保健活動のあり方について検討することとする。
2.検討事項
(1) 産業保健活動における課題に関すること
(2) 産業現場のニーズを踏まえた産業保健活動のあり方と事業場内外の関係者の役割分 担とチームによる産業保健体制・活動に関すること
(3) 産業保健関係者の確保及び資質向上に関すること
(4) 産業保健活動における新技術の活用に関すること
(5) 超高齢社会や女性就業率が高まる中での産業保健の役割・あり方に関すること
(6) 保険者、健診機関等との連携による産業保健活動の推進に関すること
(7) 小規模事業場における産業保健体制・活動のあり方に関すること
(8) 企業活動における産業保健の意義・位置づけ、具体的な体制構築・活動推進のため の普及啓発、支援、人材育成等の環境整備に関すること
(9) その他
<第1回 産業保健のあり方に関する検討会資料より抜粋>
産業保健のあり方に関する検討会 論点
今後の産業保健のあり方に関する論点
1.多様化するニーズに対応した産業保健の位置づけについて
・産業保健は業務に起因して発生する疾病や、業務により疾病が増悪することを予防することを一義的な目的としてきたが、多様化する産業現場の課題やニーズの変化を踏まえ、今後産業保健が担うべき役割、目指すべき姿は、どうあるべきか。
・疾病を抱える者の疾病管理や就業管理(治療と仕事の両立支援)、生活習慣病等の疾 病の予防、女性の健康問題への対応、感染症対策など、業務と直接的な関連がない健康問題への対応は、産業保健の中でどのように位置づけるべきか。
2.取組を推進すべき産業保健活動について
・今後、産業保健において重点的に取り組むべき課題は何か。また、どのように取り組 むべきか。
(1)増加するメンタルヘルス不調を予防するためのストレスチェック制度をはじめとする有効策
(2)疾病による離職を防ぐための治療と仕事の両立を推進するための方策
(3)アブセンティーズムの防止のみならず、生産性向上やプレゼンティーズム防止のために産業保健において進めるべき疾病予防、疾病管理、重症化予防の取組
(4)高年齢労働者が増加する中での加齢による身体機能の低下に対する対策
(5)女性の健康問題への対応
(6)化学物質の自律的な管理における健康管理対策
(7)テレワークの増加に伴う分散型の就業形態における健康管理対策
<3~6は略>
7. IT技術の活用促進について
(1)IT技術を積極的に活用することにより、労働者の健康管理を充実し、効率化することが可能ではないか。どのような業務に、どのように活用することが考えられるか。
(2)産業保健活動において、オンライン化により効率化ができるものはあるか(産業医等の移動時間も含めて効率化できる業務はあるか)。
(3)テレワーク等により、就業場所が自宅を含めて分散化・多様化する中で、職場巡視はどうあるべきか。また、職場巡視にどのようにIT技術を取り入れられるのか。
<第1回 産業保健のあり方に関する検討会資料より抜粋>
産業保健のあり方に関する検討会 名簿
産業保健のあり方に関する検討会 構成員名簿(50音順)
及川 勝 全国中小企業団体中央会 常務理事
大下 英和 日本商工会議所 産業政策第二部長
岡田 睦美 富士通株式会社健康推進本部健康事業推進統括部 健康支援室長
鎌田 久美子 公益社団法人日本看護協会 常任理事
神村 裕子 公益社団法人日本医師会 常任理事
亀澤 典子 公益社団法人全国労働衛生団体連合会 専務理事
神津 進 全国衛生管理者協議会 監事
小松原 祐介 健康保険組合連合会 組合サポート部長(保健担当)
鈴木 重也 一般社団法人日本経済団体連合会 労働法制本部長
冨髙 裕子 日本労働組合総連合会 総合政策推進局長
中島 誠 全国健康保険協会 理事
中嶋 義文 社会福祉法人三井記念病院精神科 部長
古井 祐司 東京大学未来ビジョン研究センターデータヘルス研究ユニット 特任教授
三柴 丈典 近畿大学法学部法律学科 教授
武藤 繁貴 公益社団法人日本人間ドック学会 理事
森 晃爾 産業医科大学産業生態科学研究所 教授
<第1回 産業保健のあり方に関する検討会資料より抜粋>