働き方改革関連法ノート

労働政策審議会(厚生労働大臣諮問機関)や厚生労働省労働基準局などが開催する検討会の資料・議事録に関する雑記帳

プロバイダ責任制限法 改正議論とは

2020年06月10日 | プロバイダ責任制限法
プロバイダ責任制限法とは
プロバイダ責任制限法の正式名称は、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」となる。プロバイダ責任制限法の趣旨は、「特定電気通信による情報の流通(掲示板、SNSの書き込み等)によって権利の侵害があった場合について、特定電気通信役務提供者(プロバイダ、サーバの管理・運営者等。以下「プロバイダ等」という。)の損害賠償責任が免責される要件を明確化するとともに、プロバイダに対する発信者情報の開示を請求する権利を定めた法律」。また、プロバイダ責任制限法の内容は、次の2点になる。

1 プロバイダ等の損害賠償責任の制限
特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害されたときに、関係するプロバイダ等が、これによって生じた損害について、賠償の責めに任じない場合の規定を設けるもの

2 発信者情報の開示請求
特定電気通信による情報の流通により自己の権利を侵害されたとする者が、関係するプロバイダ等に対し、当該プロバイダ等が保有する発信者の情報の開示を請求できる規定を設けるもの

プロバイダ責任制限法改正への提言(日本弁護士連合会)
「プロバイダ責任制限法検証に関する提言(案)」に対する意見書を日本弁護士連合会が2011年6月30日に公表している。

「プロバイダ責任制限法検証に関する提言(案)」に対する意見書(日本弁護士連合会)
第1 意見の趣旨
1 本年(2011年)6月に総務省「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関 する研究会」が取りまとめた、「プロバイダ責任制限法検証に関する提言(案)」(以下「本提言(案)」という。)で採り上げられている提言事項の見直しについて本提言(案)で提言されている事項のうち,以下の点については,提言内容が不適当であると思料されるので,指摘に従って、速やかに見直しをされたい。
(1) 「情報の流通により」権利が直接侵害されてない場合についても創設的に発信者情報開示が認められてよいかについて、本提言(案)は、プロバイダ責任制限法に関する検討のみにより、一定の結論を得ることは困難であるとしているが、インターネットの匿名性を悪用した被害の実態に照らし検討が不十分というほかない。「情報の流通により」直接権利侵害がされていない ような場合であっても、広く発信者情報開示の対象にして、不当請求を防止する問題は、「権利侵害」、「必要性」等の要件で限定することが可能である。
(2) 「権利侵害の明白性」について、本提言(案)では、要件の維持が必要で あるとしているが、「明白」という文言はあまりにも限定的であり、紛争類型ごとに、必要な要件を明確に規定するべきである。
(3) 「開示する発信者情報の範囲」について、本提言(案)では,包括的な規定を不適当としているが、少なくとも、裁判上の請求については、裁判所が必要と認めた情報の範囲に従うべきであり、包括的な規定を設けるべきである。
(4) 「通信履歴の保存義務」について、本提言(案)では、規定を創設することを否定しているが,発信者情報開示請求が行われたときは,その結論が出るまでの間にログが抹消されることを防ぐために、開示を求める情報に関する通信履歴を一定期間保存することを請求できる規定を設けるべきである。
2 本提言(案)で触れられていない事項の早急な検討について
本提言(案)では、以下の事項について検討されていない。しかしながら、プロバイダ責任制限法に関する重要な問題であり、早急に検討されたい。
(1) 違法なメールの送信等を含め発信者情報開示請求の対象とするべきであること。
(2) 発信者情報開示の管轄を被害者の住所地とするよう、管轄の規定を設け ること。
(3) 情報開示の不当拒否に対して主務大臣による措置命令を可能にするよう、規定を設けること。

第2 意見の理由
1 プロバイダ責任制限法の問題が指摘される事案
現行のプロバイダ責任制限法では、以下のような事案において、発信者情報開示が不可能または著しく遅延する問題があり、これらに対応する必要がある。
(1) インターネットで「お金を寄付する」という勧誘をうけて、有料課金されるメールで連絡をしたが、実態は有料でメールをさせるための虚偽の勧誘であった事案において、特定電気通信に該当しないという理由で開示を拒否された(特定電気通信、情報の流通)。
(2) 氏名不詳の者から、インターネット上の掲示板において、「この馬鹿」、「頭がおかしい」、「きちがい」等の文言が繰り返された、一見して明白に権利侵害が認められる書込みによって中傷を受けた事案において、被害者が任意開示を求めたところ、権利侵害の明白性の判別ができないことを理由に任意開示を拒否された(権利侵害の明白性)。
(3) 氏名不詳の者から、逮捕歴があるなどと虚偽の事実を受けて誹謗中傷された事案において、被害者が任意開示を求めたところ、登録情報が、氏名、勤務地名、勤務地連絡先であったため、省令で開示が認められている氏名の開示しかされず、同姓同名が多いため、訴訟提起を断念した(開示請求可能な 情報の内容)。
(4) 氏名不詳の者から、インターネット上の掲示板において誹謗中傷を受けた者(地方在住)が、発信者情報開示仮処分の為に東京地方裁判所に2回行く費用だけでも10万円以上の費用がかかることがわかり開示請求を断念した(発信者情報開示の管轄)。
(5) 氏名不詳の者から、プロバイダ責任制限法に基づいて発信者情報開示請求をしたが、請求中に通信履歴が削除されていたため、発信者情報開示を断念した(発信者情報の保存請求権)。
(6) 被害者が、発信者情報開示の判決を得たが、プロバイダ等が開示に応じないため、発信者が特定できない(措置命令)。 ―以下略―

「プロバイダ責任制限法検証に関する提言(案)」に対する意見書(全文、PDF)

プロバイダ責任制限法に関する最所義一弁護士ブログ記事
プロバイダ責任制限法に関する記事を最所義一弁護士がブログに書いておられるので、紹介させていただく(最新の記事から順)。

プロバイダ責任制限法に対する総務省の考え方(2020年6月10日)

プロ責法の改正についての私案(2020年6月6日)

電話番号の開示だけでは「簡素化」されない(2020年6月4日)

ネット中傷に対する「規制」『2020年5月27日)

発信者情報開示のあり方を見直し!?『2020年5月1日)

プロバイダ責任制限法の改正と刑事罰化を求める署名キャンペーン
プロレスラーの木村花さんがSNS上での誹謗中傷に悩んだ末に亡くなったことを受け、渡辺大和さんがプロバイダ責任制限法の改正を求めてスタートしたキャンペーン「SNSの匿名アカウントによる誹謗中傷を撲滅するために、プロバイダ責任制限法の改正と刑事罰化を求めます!」に多くの賛同の署名が集まっている。

この渡辺大和さんの署名キャンペーンが求めているのは次の点になるが、要求が大雑把とも言えるが、プロバイダ責任制限法の改正だけでなく、プロバイダに「刑事罰化」ということで刑法の改正も求めている。心情的には理解できないでもないが、プロバイダの責任を制限しようとするプロバイダ責任制限法の趣旨とは全くかけ離れた要求になる。渡辺大和(やまと)さんは、俳優の渡辺大知(だいち)さんとは別の方。渡辺大和さんの経歴等はまったくわからない。

1 発信者情報開示のための要件を下げる
2 費用をかけて弁護士に頼まなくても開示請求出来るように、開示までのプロセスを簡略化・デジタル化する
3 削除等の要請に応じず被害者の不利益を拡大する「プロバイダ」には、刑事罰を下す

発信者情報開示の在り方に関する研究会(総務省)
プロバイダ責任制限法における発信者情報開示の在り方等について検討するため「発信者情報開示の在り方に関する研究会」を総務省は立ち上げ、第1回会合を2020年4月30日に、第2回会合を2020年6月4日に開催。

発信者情報開示の在り方に関する研究会・主な検討課題(案)(PDF)

プロバイダ責任制限法条文(全文)
平成13年法律第137号 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律

(趣旨)
第1条 この法律は、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害があった場合について、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示を請求する権利につき定めるものとする。

(定義)
第2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
1 特定電気通信 不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信(電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第2条第1号に規定する電気通信をいう。以下この号において同じ。)の送信(公衆によって直接受信されることを目的とする電気通信の送信を除く。)をいう。
2 特定電気通信設備 特定電気通信の用に供される電気通信設備(電気通信事業法第2条第2号に規定する電気通信設備をいう。)をいう。
3 特定電気通信役務提供者 特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者をいう。
4 発信者 特定電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記録媒体(当該記録媒体に記録された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を記録し、又は当該特定電気通信設備の送信装置(当該送信装置に入力された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を入力した者をいう。

(損害賠償責任の制限)
第3条 特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害されたときは、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下この項において「関係役務提供者」という。)は、これによって生じた損害については、権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合であって、次の各号のいずれかに該当するときでなければ、賠償の責めに任じない。ただし、当該関係役務提供者が当該権利を侵害した情報の発信者である場合は、この限りでない。
1 当該関係役務提供者が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき。
2 当該関係役務提供者が、当該特定電気通信による情報の流通を知っていた場合であって、当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき。
二 特定電気通信役務提供者は、特定電気通信による情報の送信を防止する措置を講じた場合において、当該措置により送信を防止された情報の発信者に生じた損害については、当該措置が当該情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度において行われたものである場合であって、次の各号のいずれかに該当するときは、賠償の責めに任じない。
1 当該特定電気通信役務提供者が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があったとき。
2 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者から、当該権利を侵害したとする情報(以下この号及び第4条において「侵害情報」という。)、侵害されたとする権利及び権利が侵害されたとする理由(以下この号において「侵害情報等」という。)を示して当該特定電気通信役務提供者に対し侵害情報の送信を防止する措置(以下この号において「送信防止措置」という。)を講ずるよう申出があった場合に、当該特定電気通信役務提供者が、当該侵害情報の発信者に対し当該侵害情報等を示して当該送信防止措置を講ずることに同意するかどうかを照会した場合において、当該発信者が当該照会を受けた日から7日を経過しても当該発信者から当該送信防止措置を講ずることに同意しない旨の申出がなかったとき。

(公職の候補者等に係る特例)
第3条の2 前条第二項の場合のほか、特定電気通信役務提供者は、特定電気通信による情報(選挙運動の期間中に頒布された文書図画に係る情報に限る。以下この条において同じ。)の送信を防止する措置を講じた場合において、当該措置により送信を防止された情報の発信者に生じた損害については、当該措置が当該情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度において行われたものである場合であって、次の各号のいずれかに該当するときは、賠償の責めに任じない。
1 特定電気通信による情報であって、選挙運動のために使用し、又は当選を得させないための活動に使用する文書図画(以下「特定文書図画」という。)に係るものの流通によって自己の名誉を侵害されたとする公職の候補者等(公職の候補者又は候補者届出政党(公職選挙法(昭和25年法律第100号)第86条第1項又は第八項の規定による届出をした政党その他の政治団体をいう。)若しくは衆議院名簿届出政党等(同法第86条の2第1項の規定による届出をした政党その他の政治団体をいう。)若しくは参議院名簿届出政党等(同法第86条の3第1項の規定による届出をした政党その他の政治団体をいう。)をいう。以下同じ。)から、当該名誉を侵害したとする情報(以下「名誉侵害情報」という。)、名誉が侵害された旨、名誉が侵害されたとする理由及び当該名誉侵害情報が特定文書図画に係るものである旨(以下「名誉侵害情報等」という。)を示して当該特定電気通信役務提供者に対し名誉侵害情報の送信を防止する措置(以下「名誉侵害情報送信防止措置」という。)を講ずるよう申出があった場合に、当該特定電気通信役務提供者が、当該名誉侵害情報の発信者に対し当該名誉侵害情報等を示して当該名誉侵害情報送信防止措置を講ずることに同意するかどうかを照会した場合において、当該発信者が当該照会を受けた日から2日を経過しても当該発信者から当該名誉侵害情報送信防止措置を講ずることに同意しない旨の申出がなかったとき。
2 特定電気通信による情報であって、特定文書図画に係るものの流通によって自己の名誉を侵害されたとする公職の候補者等から、名誉侵害情報等及び名誉侵害情報の発信者の電子メールアドレス等(公職選挙法第142条の3第3項に規定する電子メールアドレス等をいう。以下同じ。)が同項又は同法第142条の5第1項の規定に違反して表示されていない旨を示して当該特定電気通信役務提供者に対し名誉侵害情報送信防止措置を講ずるよう申出があった場合であって、当該情報の発信者の電子メールアドレス等が当該情報に係る特定電気通信の受信をする者が使用する通信端末機器(入出力装置を含む。)の映像面に正しく表示されていないとき。

(発信者情報の開示請求等)
第4条 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。
1 侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
2 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。
二 開示関係役務提供者は、前項の規定による開示の請求を受けたときは、当該開示の請求に係る侵害情報の発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き、開示するかどうかについて当該発信者の意見を聴かなければならない。
三 第1項の規定により発信者情報の開示を受けた者は、当該発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならない。
四 開示関係役務提供者は、第1項の規定による開示の請求に応じないことにより当該開示の請求をした者に生じた損害については、故意又は重大な過失がある場合でなければ、賠償の責めに任じない。ただし、当該開示関係役務提供者が当該開示の請求に係る侵害情報の発信者である場合は、この限りでない。

附 則 (平成25年4月26日法律第10号)抄
(施行期日)
第1条 この法律は、公布の日から起算して1月を経過した日から施行する。

(適用区分)
第2条 この法律による改正後の公職選挙法(以下「新法」という。)の規定(新法第142条の4第2項、第4項及び第5項(第2項及び第5項にあっては、通知に係る部分に限る。)、第152条、第229条並びに第271条の6の規定を除く。)及び附則第6条の規定による改正後の特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成13年法律第137号)の規定は、この法律の施行の日(以下「施行日」という。)以後初めてその期日を公示される衆議院議員の総選挙の期日の公示の日又は施行日以後初めてその期日を公示される参議院議員の通常選挙の期日の公示の日のうちいずれか早い日(以下「公示日」という。)以後にその期日を公示され又は告示される選挙について適用し、公示日の前日までにその期日を公示され又は告示された選挙については、なお従前の例による。(e-Govより)


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