福岡県の福岡空港にほど近い、
糟屋郡志免町にある旧志免鉱業所竪坑櫓。
コンクリートのロボットの様なルックスとともに、
激動の20世紀を今に伝える炭鉱の巨大竪坑櫓を、
シリーズでお送りします。
ところでウェブ等で志免炭鉱竪坑櫓関連の記事を読んでいると、
「ワインディングタワー式のハンマーコプフ型竪坑で、
1000馬力ものケーペ捲きを持ち~」
といった説明を目にしますが、
これっていったいなんのこっちゃ?
さっぱりわかりませんよね。
なので、実際に櫓を登る前に、
そのあたりをちょっとまとめてみました。
1.ワインディングタワー式
まずは「ワインディンタワー式」について。
ワインディングとは「巻き上げる」「巻き取る」の意味で、
捲上機がタワーの上部に設置されている構造を、
ワインディングタワー式と呼んでいるようです。
前回の記事でも少し触れましたが、
国内の炭鉱の多くは捲上機が独立して地上にあるタイプで、
これがランドワインディング式。
ワインディングタワー式の櫓は、
この志免炭鉱の櫓以外には三池炭鉱の四山竪坑など、
国内ではほんの数基しか造られませんでした。
ちなみに海外では
ワインディングタワーという単語は単に櫓のことをさすらしく、
産業建築写真で有名なベッヒャー夫妻の炭鉱シリーズの写真でも、
特にタワー上部に捲上機を乗せていない櫓に対しても、
ワインディングタワーとタイトルをつけています。
→ 例1 例2
逆に、海外のサイトで櫓の上に捲き上げ機を設置した構造は、
「tower mounted hoist」などと紹介されているのを多く見かけます。
「櫓に設置された捲き上げ機」なのでこれなら分かりやすいですね。
2.ハンマーコップフ型
次に「ハンマーコップフ型」について。
これは「~型」という言葉からもわかるように櫓の外見の形状。
kopfはドイツ語で「頭」。
つまりハンマーヘッドだったら分かりやすいんですが、
ドイツの技術だったんで、日本語訳もドイツ語のままにしたんでしょうか。
志免炭鉱の櫓はハンマーコップフ型としては変形タイプなので、
ちょっとハンマーヘッド感がありませんが、
世界の他のハンマーヘッド型の櫓を見ると、
確かに上部が両方に出っ張っていて、ハンマーヘッド感があります。
志免の櫓の建設に大きな参考となり、
現在でも現存している同じ形の櫓が、
中国撫順の龍鳳炭鉱にあります。
→みに・ミーの部屋『満州写真館 撫順』(ページのかなり下の方)
画像を見ると、
上部がバランス良く左右に張り出しているのがわかりますが、
これは、2基の捲上機を設置しているからですが、
志免の櫓の場合は、捲上機は1基なので、
本来はバランスが悪くなる所を、
要塞の様にいろいろな出っ張りを造る事で、
バランスを保っているようです。
龍鳳炭鉱の櫓は志免の櫓よりも7年早い、
昭和11年(1936)に建設されています。
志免町教育委員の徳永博文氏が、
龍鳳の櫓を視察された際のリポートがアップされています。
→中国撫順炭鉱の竪坑櫓(PDFをダウンロード)
それによると、
櫓は煉瓦造りで、高さは志免より少し高い63mであることなど、
櫓の克明な記述が綴られていますが、
なべて言うと志免の櫓と同じ構造だそうです。
ちなみに北海道の羽幌炭鉱の竪坑櫓も、
志免と同じく捲上機を櫓の上に設置した構造、
すなわちワンディングタワー式ですが、
志免や龍鳳のように、剥き出しのハンマーコップフ型ではなく、
頑丈な鉄骨脚と捲上機室をまるごと直方体の建造物で覆う形です。
これはワインディングタワーの進化系で、
「ビルタワー型」と呼ばれるようです。
羽幌炭鉱竪坑櫓/櫓鉄骨脚(左)とビルタワー外観
羽幌のワインディングタワー上部の、
捲上機室内部を撮影した (しかも解説付!)、
貴重な映像がUstreamにアップされています。
→LEVEL 7G『羽幌炭鉱 ワインディングタワー 巻き上げ室』
余談ですが、志免炭鉱の櫓の敷地に掲示された、
志免町教育委員会の解説板には、
「建物の形はワンンディングタワーといいます」
と書いてありますが、上記の2つのことから、
「建物の形はハンマーコップフ型といいます」
が正しいのではないかと思います。
3.ケーペ
最期に「ケーペ」について。
これは滑車(英語だとシーブとかプーリーなど)とロープを使って、
物を上げ下げする際の原理の1つ、とでもいうんでしょうか。
もともと炭鉱の捲き上げ構造は、
滑車1個に1本のロープをかけ、
ロープの片方に荷物、もう片方にドラムを設置して、
巻き付けたり巻き戻したりする構造が主流で、
要するに釣りのロッドの様な構造でした。
従来のドラム捲上機 ※オレンジ色がモーターの接続された滑車
それに対してケーペ式はエンドレスに繋いだロープを滑車に引っかけ、
行ったり来たりさせながら荷物の上げ下げを行なう構造で、
要するに端が繋がっている井戸釣る瓶のような造りです。
ランドワインディングのケーペ捲上機
つまりドラム式の捲上機は、
必要距離のワイヤーが巻き付くための、
溝が深く幅も広い大きな巻き取りドラムが必要なのに対して、
ケーペ式は1本ないし数本のワイヤーが行ったり来たり移動するだけなので、
1つの溝の深さと幅は、ワイヤー1本分でことたります。
ケーペ(カール・フリードリッヒ)はドイツの鉱山技術者で、
彼の発明に因んでケーペ巻きと呼ばれるそうですが、
一般的には friction hoist (摩擦捲上機) と呼ばれます。
国内でもこの捲上方式を採用した炭鉱は結構多く、
現存する赤平炭鉱・奔別炭鉱(北海道)や、
三池炭鉱有明坑の第1&2竪坑櫓(福岡県)など、
全てケーペ式の捲上機でした。
ただし捲上機は櫓から離れた場所に設置され、
志免の竪坑櫓のように、
捲上機を櫓の上に設置したものは殆どありません。
ワインディングタワーのケーペ捲上機
志免の解説板には
「捲き上げに使われたモータは1,000馬力もの力があり」とありますが、
龍鳳炭鉱の捲上機は5,500馬力もあったので、
果たして志免炭鉱の馬力が「~もの力があり」と、
自慢出来る程のものだったかは疑問です。
しかし、
捲上機が1基のみのハンマーコップフゆえに造られた外観は、
極めて特殊な形であると同時に、この不規則な頭の形が、
志免の櫓の大きな魅力でもあると思います。
それでは次回から、櫓の上へ登ってみたいと思います。
★ ワンダーJAPAN _ vol. 11★
志免炭鉱竪坑櫓内部レポート 地上50mの《異空間》
オープロジェクトによる志免炭鉱竪坑櫓のリポート。
このブログに掲載中の画像以外の画像を含め、
オープロ全員の画像と詳しい解説を掲載。
★ オープロジェクト DVD ★
『鉄道廃線浪漫 ~風の声・時の音~』
国鉄専用の炭鉱だったことから、
鉄道廃墟としてのアプローチで、
志免炭鉱のパートを収録。
糟屋郡志免町にある旧志免鉱業所竪坑櫓。
コンクリートのロボットの様なルックスとともに、
激動の20世紀を今に伝える炭鉱の巨大竪坑櫓を、
シリーズでお送りします。
ところでウェブ等で志免炭鉱竪坑櫓関連の記事を読んでいると、
「ワインディングタワー式のハンマーコプフ型竪坑で、
1000馬力ものケーペ捲きを持ち~」
といった説明を目にしますが、
これっていったいなんのこっちゃ?
さっぱりわかりませんよね。
なので、実際に櫓を登る前に、
そのあたりをちょっとまとめてみました。
1.ワインディングタワー式
まずは「ワインディンタワー式」について。
ワインディングとは「巻き上げる」「巻き取る」の意味で、
捲上機がタワーの上部に設置されている構造を、
ワインディングタワー式と呼んでいるようです。
前回の記事でも少し触れましたが、
国内の炭鉱の多くは捲上機が独立して地上にあるタイプで、
これがランドワインディング式。
ワインディングタワー式の櫓は、
この志免炭鉱の櫓以外には三池炭鉱の四山竪坑など、
国内ではほんの数基しか造られませんでした。
ちなみに海外では
ワインディングタワーという単語は単に櫓のことをさすらしく、
産業建築写真で有名なベッヒャー夫妻の炭鉱シリーズの写真でも、
特にタワー上部に捲上機を乗せていない櫓に対しても、
ワインディングタワーとタイトルをつけています。
→ 例1 例2
逆に、海外のサイトで櫓の上に捲き上げ機を設置した構造は、
「tower mounted hoist」などと紹介されているのを多く見かけます。
「櫓に設置された捲き上げ機」なのでこれなら分かりやすいですね。
2.ハンマーコップフ型
次に「ハンマーコップフ型」について。
これは「~型」という言葉からもわかるように櫓の外見の形状。
kopfはドイツ語で「頭」。
つまりハンマーヘッドだったら分かりやすいんですが、
ドイツの技術だったんで、日本語訳もドイツ語のままにしたんでしょうか。
志免炭鉱の櫓はハンマーコップフ型としては変形タイプなので、
ちょっとハンマーヘッド感がありませんが、
世界の他のハンマーヘッド型の櫓を見ると、
確かに上部が両方に出っ張っていて、ハンマーヘッド感があります。
志免の櫓の建設に大きな参考となり、
現在でも現存している同じ形の櫓が、
中国撫順の龍鳳炭鉱にあります。
→みに・ミーの部屋『満州写真館 撫順』(ページのかなり下の方)
画像を見ると、
上部がバランス良く左右に張り出しているのがわかりますが、
これは、2基の捲上機を設置しているからですが、
志免の櫓の場合は、捲上機は1基なので、
本来はバランスが悪くなる所を、
要塞の様にいろいろな出っ張りを造る事で、
バランスを保っているようです。
龍鳳炭鉱の櫓は志免の櫓よりも7年早い、
昭和11年(1936)に建設されています。
志免町教育委員の徳永博文氏が、
龍鳳の櫓を視察された際のリポートがアップされています。
→中国撫順炭鉱の竪坑櫓(PDFをダウンロード)
それによると、
櫓は煉瓦造りで、高さは志免より少し高い63mであることなど、
櫓の克明な記述が綴られていますが、
なべて言うと志免の櫓と同じ構造だそうです。
ちなみに北海道の羽幌炭鉱の竪坑櫓も、
志免と同じく捲上機を櫓の上に設置した構造、
すなわちワンディングタワー式ですが、
志免や龍鳳のように、剥き出しのハンマーコップフ型ではなく、
頑丈な鉄骨脚と捲上機室をまるごと直方体の建造物で覆う形です。
これはワインディングタワーの進化系で、
「ビルタワー型」と呼ばれるようです。
羽幌炭鉱竪坑櫓/櫓鉄骨脚(左)とビルタワー外観
羽幌のワインディングタワー上部の、
捲上機室内部を撮影した (しかも解説付!)、
貴重な映像がUstreamにアップされています。
→LEVEL 7G『羽幌炭鉱 ワインディングタワー 巻き上げ室』
余談ですが、志免炭鉱の櫓の敷地に掲示された、
志免町教育委員会の解説板には、
「建物の形はワンンディングタワーといいます」
と書いてありますが、上記の2つのことから、
「建物の形はハンマーコップフ型といいます」
が正しいのではないかと思います。
3.ケーペ
最期に「ケーペ」について。
これは滑車(英語だとシーブとかプーリーなど)とロープを使って、
物を上げ下げする際の原理の1つ、とでもいうんでしょうか。
もともと炭鉱の捲き上げ構造は、
滑車1個に1本のロープをかけ、
ロープの片方に荷物、もう片方にドラムを設置して、
巻き付けたり巻き戻したりする構造が主流で、
要するに釣りのロッドの様な構造でした。
従来のドラム捲上機 ※オレンジ色がモーターの接続された滑車
それに対してケーペ式はエンドレスに繋いだロープを滑車に引っかけ、
行ったり来たりさせながら荷物の上げ下げを行なう構造で、
要するに端が繋がっている井戸釣る瓶のような造りです。
ランドワインディングのケーペ捲上機
つまりドラム式の捲上機は、
必要距離のワイヤーが巻き付くための、
溝が深く幅も広い大きな巻き取りドラムが必要なのに対して、
ケーペ式は1本ないし数本のワイヤーが行ったり来たり移動するだけなので、
1つの溝の深さと幅は、ワイヤー1本分でことたります。
ケーペ(カール・フリードリッヒ)はドイツの鉱山技術者で、
彼の発明に因んでケーペ巻きと呼ばれるそうですが、
一般的には friction hoist (摩擦捲上機) と呼ばれます。
国内でもこの捲上方式を採用した炭鉱は結構多く、
現存する赤平炭鉱・奔別炭鉱(北海道)や、
三池炭鉱有明坑の第1&2竪坑櫓(福岡県)など、
全てケーペ式の捲上機でした。
ただし捲上機は櫓から離れた場所に設置され、
志免の竪坑櫓のように、
捲上機を櫓の上に設置したものは殆どありません。
ワインディングタワーのケーペ捲上機
志免の解説板には
「捲き上げに使われたモータは1,000馬力もの力があり」とありますが、
龍鳳炭鉱の捲上機は5,500馬力もあったので、
果たして志免炭鉱の馬力が「~もの力があり」と、
自慢出来る程のものだったかは疑問です。
しかし、
捲上機が1基のみのハンマーコップフゆえに造られた外観は、
極めて特殊な形であると同時に、この不規則な頭の形が、
志免の櫓の大きな魅力でもあると思います。
それでは次回から、櫓の上へ登ってみたいと思います。
★ ワンダーJAPAN _ vol. 11★
志免炭鉱竪坑櫓内部レポート 地上50mの《異空間》
オープロジェクトによる志免炭鉱竪坑櫓のリポート。
このブログに掲載中の画像以外の画像を含め、
オープロ全員の画像と詳しい解説を掲載。
★ オープロジェクト DVD ★
『鉄道廃線浪漫 ~風の声・時の音~』
国鉄専用の炭鉱だったことから、
鉄道廃墟としてのアプローチで、
志免炭鉱のパートを収録。
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