僕は緊張と部屋の寒さで震えながら、受信したメールと明るい未来への扉を開いた。
そして5秒後には折りたたみ式の携帯電話と明るい未来への扉を自ら閉じた。
差出人:二瓶 和子(母)
本文:「最近どう? 風邪引いてない? お米足りてるの?」(絵文字一切無し)
これが貧乏な僕に突きつけられた現実なのだ。
「彼女はできたの?」の一文が無かっただけ今回はマシであった。
僕のドキドキワクワクタイムは数十秒で打ち切られ、なんだか一気にお腹が空いた気がした。
部屋に辛うじて付いている小さな台所の戸棚の中を覗いたが、買い置きのカップ麺が1つも無くなっていた。
「仕方ない… 買ってくるか…」
バイト先のコンビ二とは真逆の方向へ3分ほど歩いた所に行きつけのスーパーがある。
カップ麺やパンはほとんどのものが99円で買えるので、食料の調達は必ずここでするようにしている。
スーパーまで歩いている途中でさっきの母からのメールへの返事を打った。あれでも現時点で僕の唯一のメル友なのだから大切に扱わなければなるまい。
タイトル:「元気だよ」
本文:「お米はまだ足りてるけど、お金は足りてないね(笑)」
と、返信をした。
(笑)とあるが、全然笑えるような状況ではない。
スーパーに着き、店内に入り、買い物かごを手に取る。
野菜やお肉のコーナを物色しているおばさん達をかき分けて、僕はカップ麺のコーナーへ一目散に向かう。
カップ麺のコーナーにも、99円の「貧乏ゾーン」と、200円から300円くらいする「贅沢ゾーン」が存在する。
もちろん僕がうろつくのは「貧乏ゾーン」の方だけである。
「貧乏ゾーン」から適当にカップ麺を2つ取って買い物かごに入れた所で、ふと周りが気になった。もちろん万引きをする気などは一切ない。さすがの僕もまだそこまでは腐ってはいない。
気になった理由は、隣にあるカレーやシチューなどのコーナーに「なんか良い感じのオーラ」を出している女性が一人入って来たからであった。
これがさっき野菜やお肉のコーナーに群がっていたようなおばさんであったら見向きもしなかったであろう。
そして、その「なんか良い感じのオーラ」を出している女性、よく見てみると岩本さんではないか!
これは困った。普通なら何も困らないのだろう。
「あっ、岩本さん、お疲れ!偶然だね。お家この辺なんだ? 晩ご飯の買い出し?」とでも声をかければ良いのだ。他にも言葉の選択肢はいくらでもあるだろう。ここで頑張れば今度こそ明るい未来への扉が開かれる可能性だってある。
だが僕が迷っているのは、さらにその1つ前の段階のお話だ。
話しかけるべきか否か、の段階。
岩本さんは辛うじてまだ僕には気付いていない。
どうやら岩本さんは僕のように隣のコーナーに「なんか良い感じのオーラ」を感じ取ってはいないらしい。
そして5秒後には折りたたみ式の携帯電話と明るい未来への扉を自ら閉じた。
差出人:二瓶 和子(母)
本文:「最近どう? 風邪引いてない? お米足りてるの?」(絵文字一切無し)
これが貧乏な僕に突きつけられた現実なのだ。
「彼女はできたの?」の一文が無かっただけ今回はマシであった。
僕のドキドキワクワクタイムは数十秒で打ち切られ、なんだか一気にお腹が空いた気がした。
部屋に辛うじて付いている小さな台所の戸棚の中を覗いたが、買い置きのカップ麺が1つも無くなっていた。
「仕方ない… 買ってくるか…」
バイト先のコンビ二とは真逆の方向へ3分ほど歩いた所に行きつけのスーパーがある。
カップ麺やパンはほとんどのものが99円で買えるので、食料の調達は必ずここでするようにしている。
スーパーまで歩いている途中でさっきの母からのメールへの返事を打った。あれでも現時点で僕の唯一のメル友なのだから大切に扱わなければなるまい。
タイトル:「元気だよ」
本文:「お米はまだ足りてるけど、お金は足りてないね(笑)」
と、返信をした。
(笑)とあるが、全然笑えるような状況ではない。
スーパーに着き、店内に入り、買い物かごを手に取る。
野菜やお肉のコーナを物色しているおばさん達をかき分けて、僕はカップ麺のコーナーへ一目散に向かう。
カップ麺のコーナーにも、99円の「貧乏ゾーン」と、200円から300円くらいする「贅沢ゾーン」が存在する。
もちろん僕がうろつくのは「貧乏ゾーン」の方だけである。
「貧乏ゾーン」から適当にカップ麺を2つ取って買い物かごに入れた所で、ふと周りが気になった。もちろん万引きをする気などは一切ない。さすがの僕もまだそこまでは腐ってはいない。
気になった理由は、隣にあるカレーやシチューなどのコーナーに「なんか良い感じのオーラ」を出している女性が一人入って来たからであった。
これがさっき野菜やお肉のコーナーに群がっていたようなおばさんであったら見向きもしなかったであろう。
そして、その「なんか良い感じのオーラ」を出している女性、よく見てみると岩本さんではないか!
これは困った。普通なら何も困らないのだろう。
「あっ、岩本さん、お疲れ!偶然だね。お家この辺なんだ? 晩ご飯の買い出し?」とでも声をかければ良いのだ。他にも言葉の選択肢はいくらでもあるだろう。ここで頑張れば今度こそ明るい未来への扉が開かれる可能性だってある。
だが僕が迷っているのは、さらにその1つ前の段階のお話だ。
話しかけるべきか否か、の段階。
岩本さんは辛うじてまだ僕には気付いていない。
どうやら岩本さんは僕のように隣のコーナーに「なんか良い感じのオーラ」を感じ取ってはいないらしい。