周平の『コトノハノハコ』

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小説第1弾『草食系貧乏』~第8章~

2011年02月26日 | 小説
「なんか最近面白い事ないの?」

翌日はまた昼間のシフトで、大仏頭の原さんと一緒だった。
そして「おはよう」の次に言われた言葉がこれだったのだ。
原さん自身に特に面白い話がなければ決まってこの無茶ぶりを受けるのだ。

「面白い事ですか… あ、そういえば昨日の夜、近所のスーパーで買い物してたら中村君に会いましたよ。」
「中村君? 誰だっけ?中村君って。」
「中村君は夜のシフトが多かったんで、原さんはあまり会った事ないかもしれないですね。こないだここのバイト辞めた子です。」
「あぁ!いたね、そんな名前の子。2、3回だけ昼間一緒になったわ。」
「それと岩本さんも見かけました。」
「岩本さん? 誰だっけ?岩本さんって。」
どうやら大きさの割に大仏頭の中には脳みそはそんなに詰まってはいないらしい。
「先日新しく入った女の子ですよ。」
「あぁ!そうかそうか、どこかで聞いた名字だとは思ったんだけど。ねぇところで、見かけたってどういう事よ? 声はかけなかったの?」
「なんか急いでいるように見えたので。」
「へぇ。本当は恥ずかしくて声かけられなかったんじゃないの?」
「そんなまさか。」

図星であったパート2である。

「二瓶君ってさ、なんかいかにも''草食系男子!!''って感じだよね。」
「えっ? そうですかね?」
「好きなら好きって言っちゃえば良いのに。」
「だからそんな事ないですって。そもそもまだ一回しかシフト一緒になってないですし。」
「3つ年下なんでしょ? ちょうど良いじゃん!」
何がちょうど良いのか分からないようで、分からなくもなかった。

「私にも21歳になる息子が一人いるんだけどさ。そういうのは積極的よ!ガツガツいくんだから。いわゆる肉食系っていうやつ? こないだ彼女と別れちゃったらしいんだけどね。」
その後も原さんは自分の息子の自慢にもならないような話を長々と続けていたが内容は全く覚えていない。

とにかく僕は原さんの息子のように恋愛において決して肉食系ではないし、実際、中村君のように自分で肉を買って食べることも出来ない。

とても悔しいが、恋愛においても食生活においても僕は草食系なのだろう。

その翌日は深夜のシフトで、岩本さんと2回目の一緒のシフトである。
あれから結局岩本さんからのメールは1通も来ていない。
つまり僕の連絡先を一方的に知られているだけで、彼女の連絡先を僕はまだ入手できていないのだ。