周平の『コトノハノハコ』

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小説第1弾『草食系貧乏』~第7章~

2011年02月19日 | 小説
迷っていても始まらない。
僕は意を決して岩本さんに話しかけた。

「あっ、岩本さん、偶然だねっ!お疲れさま!」
「あっ、二瓶さん… 偶然ですねっ!夕ご飯の買い出しですか?」
「うん、そうなんだ。家に何も無くってさ。」
「そうなんですか。今夜は何にするんですか?」
僕は慌ててカップ麺が2つ入った買い物かごを体の後ろに隠して答えた。
「カレーにでもしようかなぁと思ってるんだ。雨があがったとはいえ、今日はちょっと寒いからね。」
嘘はついていない。買い物かごに入っている2つのカップ麺のうちの1つはカレーヌードルだ。
「あっ、これまた偶然ですねっ!私も今夜はカレーにしようかと思ってたんです。」
「えっ、そうなんだ? 寒いもんね。もう5月なのに。」
「もし良かったら私の家で一緒にどうですか? いつもたくさん作り過ぎちゃって一人じゃ食べきれないんです。」
「えっ?良いの?」
「はい! 二瓶さんさえ宜しければ…」

はい。妄想タイム終了!!
現実の世界へ戻って顔をあげると、もう目の前に岩本さんの姿は無かった。

しまった… 
なんで僕は声をかけられなかったのだ。
でもまだチャンスはある。まだ岩本さんが店内にいる可能性もある。

僕は急いでレジの方へ岩本さんを探しに向かった。

と、その時!

「あっ、二瓶さん、偶然ですね。」
きたっ!と思ったが、その声は岩本さんのような透き通った綺麗な声ではなかった。
「覚えてますか? 中村です。」
なんて事だ。僕の記憶から完全に消し去ったはずのコイツと呑気に立ち話をしている時間など無い。
「お、覚えてるよもちろん! 新しい仕事はどう?」
しまった…(パート2)
 何で僕は話が広がってしまうような事を訊いてしまったのだろう。
「えー、おかげさまで少しずつですが慣れてきました。そういえば僕の代わりのバイトは入りましたか?」
「うん、入ったよ。」
「それは良かったです。僕も安心です。どんな人なんですか?」
素敵な20歳の女性だよ!だから今その人を追いかけてる真っ最中なんだよ!
分かったんならさっさと僕の前から消えてくれ!と言いたかった所だが、
「えーとね、たしか20歳くらいの女の子だったよ。」と適当に答えておいた。

その後も中村君とおそらく過去最長記録ではないかと思われるほど長い会話をした気がするが内容は一切覚えていない。
そしてその会話が終わった頃には当然店内に岩本さんの姿はなかった。

中村君の買い物かごに高そうな肉が入っていたのが悔しかったのか、僕はカップ麺2つを元の棚に戻し、寿司が10巻入ったものを買って帰った。