僕の一人反省会が始まった直後、さっきまで立ち読みを続けていた茶色の帽子をかぶった小太りな中年の男性客が何も買わずに店の外へと出て行った。
反省会でもう一人の自分自身にダメ出しをされ凹んでいた僕は、やる気の無い声で「ありがとーございましたー」とその男性客に対して言った。
仕事が終わり、自分の部屋へ帰っても一人反省会は続いた。
もっと岩本さんが興味を示すような話題を提供できなかっただろうか。
そう、例えば、彼女は服飾の専門学校に通っているのだからファッションの事とか。
でも僕にファッションの知識などほとんど無い。そもそも持っている私服がほとんど無い。
どんな人がタイプなの?とか、好きな芸能人はいるの?という質問は予てからしたかったのだが、今となってはそれに対する答えが自分と大きくかけ離れたものだったらどうしようという恐怖が邪魔をする。
そういえば岩本さんは本当に僕の連絡先を自分の携帯電話に登録してくれたのだろうか?
彼女のような律儀な性格なら「お疲れさまです!私のメアドと番号です。登録お願いします。」的なメールがあっても良いものだが。
やはり警戒されているのだろうか。
僕の携帯電話もたまには鳴る。
だがそれらは岩本さん以外のバイト仲間からの業務連絡、母親からの心配メールや心配電話、不動産からの滞納している家賃の催促の電話、自分でもセットしていたのを忘れている目覚ましばかり。
どの着信音もアラーム音も僕の好きなバンドの同じ曲に設定してあるので、音が鳴っただけではメールなのか電話なのか目覚ましなのか分からない。
岩本さんの連絡先をゲットし、彼女からのメールや電話の時だけ着信音を違う曲に設定する事が今の僕のささやかな夢なのである。
2日が過ぎた。
今、僕の横には大仏頭の原さんが立っている。最も苦痛な時間である。
「ねぇ、二瓶君。あなたやっぱり岩本さんの事が好きでしょ?」
「え? だからそんな事ないって言ってるじゃないですか。何度も。」
「いや、間違いないね! だってものすごく話しかけたそうにしてるのに全然話しかけられてないし。バレバレよ。」
「いや、あれは岩本さんが仕事を覚えるのに集中しているから邪魔しちゃいけないなと思って… っていうか、何で原さんがそんな事知ってるんですか?」
「え、いや、それは… 勘よ! 私の勘は良く当たるの!」
「あ、そうですか…」
「もうさ、思い切って告白しちゃいなよ!」
「うーん… 告白したいのは山々なんですけど…」
僕は今、原さんに岩本さんを好きだって事を堂々と告白してしまっている。
「とりあえず今度シフトが一緒になった時に映画にでも誘っちゃいなさい!分かった?絶対よ!」
「はぁ…」
原さんは僕の恋を応援してくれているのだ。ウザいなんて思ってしまってはいけない。
僕は原さんに心から感謝をした。
先日の深夜の茶色の帽子をかぶった小太りな中年の男性客の正体が、変装した原さんだったとも知らずに。
反省会でもう一人の自分自身にダメ出しをされ凹んでいた僕は、やる気の無い声で「ありがとーございましたー」とその男性客に対して言った。
仕事が終わり、自分の部屋へ帰っても一人反省会は続いた。
もっと岩本さんが興味を示すような話題を提供できなかっただろうか。
そう、例えば、彼女は服飾の専門学校に通っているのだからファッションの事とか。
でも僕にファッションの知識などほとんど無い。そもそも持っている私服がほとんど無い。
どんな人がタイプなの?とか、好きな芸能人はいるの?という質問は予てからしたかったのだが、今となってはそれに対する答えが自分と大きくかけ離れたものだったらどうしようという恐怖が邪魔をする。
そういえば岩本さんは本当に僕の連絡先を自分の携帯電話に登録してくれたのだろうか?
彼女のような律儀な性格なら「お疲れさまです!私のメアドと番号です。登録お願いします。」的なメールがあっても良いものだが。
やはり警戒されているのだろうか。
僕の携帯電話もたまには鳴る。
だがそれらは岩本さん以外のバイト仲間からの業務連絡、母親からの心配メールや心配電話、不動産からの滞納している家賃の催促の電話、自分でもセットしていたのを忘れている目覚ましばかり。
どの着信音もアラーム音も僕の好きなバンドの同じ曲に設定してあるので、音が鳴っただけではメールなのか電話なのか目覚ましなのか分からない。
岩本さんの連絡先をゲットし、彼女からのメールや電話の時だけ着信音を違う曲に設定する事が今の僕のささやかな夢なのである。
2日が過ぎた。
今、僕の横には大仏頭の原さんが立っている。最も苦痛な時間である。
「ねぇ、二瓶君。あなたやっぱり岩本さんの事が好きでしょ?」
「え? だからそんな事ないって言ってるじゃないですか。何度も。」
「いや、間違いないね! だってものすごく話しかけたそうにしてるのに全然話しかけられてないし。バレバレよ。」
「いや、あれは岩本さんが仕事を覚えるのに集中しているから邪魔しちゃいけないなと思って… っていうか、何で原さんがそんな事知ってるんですか?」
「え、いや、それは… 勘よ! 私の勘は良く当たるの!」
「あ、そうですか…」
「もうさ、思い切って告白しちゃいなよ!」
「うーん… 告白したいのは山々なんですけど…」
僕は今、原さんに岩本さんを好きだって事を堂々と告白してしまっている。
「とりあえず今度シフトが一緒になった時に映画にでも誘っちゃいなさい!分かった?絶対よ!」
「はぁ…」
原さんは僕の恋を応援してくれているのだ。ウザいなんて思ってしまってはいけない。
僕は原さんに心から感謝をした。
先日の深夜の茶色の帽子をかぶった小太りな中年の男性客の正体が、変装した原さんだったとも知らずに。