2014年2月21日(金曜日)
夜の7時、家の近所にある居酒屋の前でボクはスマホをいじりながら将平さんが来るのを待っていた。
「あ、どうもはじめまして!将平です。遅れちゃってすみませんでした。」
彼は約束の時間を5分ほど過ぎてボクの前に現れた。
彼はギターが入っていると思われるケースを背負っていた。
「いえいえ、とんでもないです… どうも、はじめまして…」
バイト中を除けば久々の人間との直接の会話だったので、その先の言葉が続かなかった。
すると、それを悟ったかのような彼が
「じゃあ、お店に入りましょうか?」と言ってくれた。
「そ、そうですね…」
2人とも生ビールを注文した。
その後、ほんの数秒間だけれど、ボクにとってはとても長く感じる沈黙が流れた。
「今日はお仕事はお休みなんですか?」
彼が沈黙を破ってくれた。
「あ、はい。」
「俺も今日は仕事が休みで、さっきまでバンドでスタジオ入って練習してたんです。」
「将平さんはバンドをやってるんですか?」
「はい。バンドでギターやってます。」
ちょっとだけ会話が弾み始めた。
その後はしばらく当たり障りの無い会話が続いたが、やがて彼の生ビールが3杯目に突入した辺りから、本題へと入っていった。
「絶対に死にたいなんて思っちゃダメですよ!そりゃ死んだ方が楽だと思ってしまうような瞬間は俺にも時々ありますけどね。」
「そうですよね…」
「もし不幸な出来事とか、不運な事が続いたりした時は、これからその分も自分は幸せな思いをしなきゃ損だ!死んでたまるか!って考えるようにしてるんです。」
「なるほど…」
真剣な彼の言葉たちに対して、ボクは失礼なほど少ない返事しか用意できなかった。
それでも彼は怒ったりしないで真剣に話を続けてくれた。
そして、普段は全くビールなんて飲まないボクが、彼の強い勧めで生ビール2本目に突入すると、やっとボクも今の本音を吐き出せた。
「今は将平さんっていう、その… 友達って言ったら失礼なんですけど… 心強い仲間ができたような気がしてるので、だんだん死にたいなんて思わなくなってきました。」
「それなら良かった!ボクも嬉しいよ!」
居酒屋での飲み代は彼が全部出してくれた。
「なんか、ご馳走になっちゃってすみません。」
「いや、全然大丈夫!」
「もし良かったら明日ボクの家に遊びに来ませんか? 狭い部屋ですけど…
やっぱりボク… 死にたくないんです! 来週の火曜日に2人とも死なないように明日一緒に作戦を立てませんか?」
「おっ!イイネ~!作戦会議かぁ。」
ボクと彼は翌日の夜も会う約束をして、その日は別れた。
信じられない。
ボクの口から「死にたくない」なんていう言葉が出るだなんて。
3日前では到底考えられなかった事である。
これが酔った勢いで出た言葉じゃない事を祈るばかりだ。
(第6章へ続く)
夜の7時、家の近所にある居酒屋の前でボクはスマホをいじりながら将平さんが来るのを待っていた。
「あ、どうもはじめまして!将平です。遅れちゃってすみませんでした。」
彼は約束の時間を5分ほど過ぎてボクの前に現れた。
彼はギターが入っていると思われるケースを背負っていた。
「いえいえ、とんでもないです… どうも、はじめまして…」
バイト中を除けば久々の人間との直接の会話だったので、その先の言葉が続かなかった。
すると、それを悟ったかのような彼が
「じゃあ、お店に入りましょうか?」と言ってくれた。
「そ、そうですね…」
2人とも生ビールを注文した。
その後、ほんの数秒間だけれど、ボクにとってはとても長く感じる沈黙が流れた。
「今日はお仕事はお休みなんですか?」
彼が沈黙を破ってくれた。
「あ、はい。」
「俺も今日は仕事が休みで、さっきまでバンドでスタジオ入って練習してたんです。」
「将平さんはバンドをやってるんですか?」
「はい。バンドでギターやってます。」
ちょっとだけ会話が弾み始めた。
その後はしばらく当たり障りの無い会話が続いたが、やがて彼の生ビールが3杯目に突入した辺りから、本題へと入っていった。
「絶対に死にたいなんて思っちゃダメですよ!そりゃ死んだ方が楽だと思ってしまうような瞬間は俺にも時々ありますけどね。」
「そうですよね…」
「もし不幸な出来事とか、不運な事が続いたりした時は、これからその分も自分は幸せな思いをしなきゃ損だ!死んでたまるか!って考えるようにしてるんです。」
「なるほど…」
真剣な彼の言葉たちに対して、ボクは失礼なほど少ない返事しか用意できなかった。
それでも彼は怒ったりしないで真剣に話を続けてくれた。
そして、普段は全くビールなんて飲まないボクが、彼の強い勧めで生ビール2本目に突入すると、やっとボクも今の本音を吐き出せた。
「今は将平さんっていう、その… 友達って言ったら失礼なんですけど… 心強い仲間ができたような気がしてるので、だんだん死にたいなんて思わなくなってきました。」
「それなら良かった!ボクも嬉しいよ!」
居酒屋での飲み代は彼が全部出してくれた。
「なんか、ご馳走になっちゃってすみません。」
「いや、全然大丈夫!」
「もし良かったら明日ボクの家に遊びに来ませんか? 狭い部屋ですけど…
やっぱりボク… 死にたくないんです! 来週の火曜日に2人とも死なないように明日一緒に作戦を立てませんか?」
「おっ!イイネ~!作戦会議かぁ。」
ボクと彼は翌日の夜も会う約束をして、その日は別れた。
信じられない。
ボクの口から「死にたくない」なんていう言葉が出るだなんて。
3日前では到底考えられなかった事である。
これが酔った勢いで出た言葉じゃない事を祈るばかりだ。
(第6章へ続く)