使わせない理由
被災労働者に労災保険給付使わせない理由が、保険料に跳ね返るというものです。跳ね返るのはメリット制が適用されるそれなりの規模の事業所が対象です。メリット制の適用のない事業所は保険料に跳ね返りません。また労災保険の対象である通勤災害もメリット制の対象外ですので、こちらは事業規模の大小にかかわらず、保険料に跳ね返りません。
自ら補償
通勤災害の給付をのぞき、業務上災害で労災保険給付使わせず、事業者が自腹で補償する分は問題ありませんが、その場合でも、医療機関で健康保険をつかわせると、詐欺罪を構成するので注意が必要です。詐欺罪には罰金刑がありませんので、猶予のつかない実刑判決は収監を意味します。かならず自費で治療を受けさせ事業者がその治療代を全額もつことです。自由診療扱いとなると、医療機関の言い値(保険診療自己負担の10倍相当)ですので、すなおに労災保険給付しておくのがいいでしょう。
労災隠し
労災保険給付使わせないことをもって「労災隠し」呼ばわりするのも困ったものです。労災隠しは、労災保険使わせないことにではなく、休業日数に応じ、労基署に死傷病報告をなさないことをいいます(労働安全衛生法違反)。先に述べたように、労災保険つかわなくても事業者が労基法にさだめた補償をすればいいのです。この補償をしない場合は、労基法の罰則が待っています。もちろん事業者が補償したからと言って休業日数に応じた死傷病報告まぬがれませんので、報告しないとこちらが正真正銘の労災隠しになります。
通勤災害
業務上災害 | 通勤災害 |
---|---|
療養補償給付 | 療養給付 |
休業補償給付 | 休業給付 |
傷病補償年金 | 傷病年金 |
障害補償給付 | 障害給付 |
遺族補償給付 | 遺族給付 |
葬祭料 | 葬祭給付 |
介護補償給付 | 介護給付 |
労災保険給付に通勤災害を対象としています。昔は通勤(帰宅)途上のケガは健康保険でカバーされていましたが、法改正で労災保険で受け持つこととなりました。この経緯をしらない識者が、通勤災害も雇用主の責任だと論説するのをたまに見聞きします。通勤災害は、あくまでも制度上労災保険でカバーするのであって、私傷病の範疇です。給付名も、「休業補償給付(業務上災害)」「休業給付(通勤災害)」と「補償」がつくつかないで使いわけていることからもわかります。通勤災害に、使用者の補償責任は生じません。ですので、後に記述する休業最初の3日の補償義務もなく、通勤被災労働者は休業給付でるまで年次有給休暇をあてるか欠勤無給になります。なお、帰宅途上でも事業者敷地内での被災は、労災保険上業務上災害として扱われます。業務上被災とみなすのでなく、施設管理者責任ということでしょう。
打切補償
打切補償といって労基法の補償で、労災保険給付にない補償があります。この打切補償をすれば、今後事業主の労災補償しなくともよい、というものです。治療継続して休業でも在籍している限り、社会保険料の会社負担が重くのしかかりますので、打切りたいのはわからなくもないです。ただ平均賃金の1200日分を一括で支払うことになります。3年経過時、労災保険の傷病補償年金を受給していれば、打切り補償したものとして、解雇可能となります。受給に至らないものの治療を受け続けている場合、解雇したければ高額の打切補償となります。これをどう解釈するのか、1200日は3年ちょっとなので、これまで払った休業補償3年分に置き換え、1円もはらわず打切りしてくるという、ぶったまげ事業者がいます。あくまでも追加の一括払いです。また被災労働者側から、該当するから支払えとする労働者の請求権、権利ではありません。あくまで義務を逃れることのできる、事業者側の選択権です。
労基法の災害規定
労災保険法として立派な制度があるのに、なぜ労基法におなじような労災補償の規定がいまだに死文かのように取り残されているのかという点について触れておきたいと思います。労災保険法は手続法としての役割があり、対して労基法は、使用者に無過失責任として補償義務を負わす実体法です。被災者が労災保険給付を受けた範囲で使用者は労基法上の補償義務を免れるという立ち位置になります。労基法の補償規定は、無意味化して削除されないまま放置されているのではありません。
休業補償
勘違いというほどではありませんが、休業最初の3日間は労災保険給付からはありませんのでこちらは雇用主が直接補償せねばなりません。休業4日目から労災保険の給付が始まりますので、4日目以降労基法の補償義務から免れます。給付のない最初の3日は労基法の義務となります。休業する場合、被災日が第1日となりますが、所定労働時間後の被災は、翌日起算となります。事業主の補償は平均賃金の6割でいいのですが、賃金出る場合、平均賃金6割下回る差額でなく、平均賃金ともらい受けた賃金の差額の6割となります(労基法施行規則38条)。
(2023年6月1日投稿、2024年6月13日編集)