ものの資料によると、9割の事業者が通勤手当を支給しており、支給するのが当然の感がある一方で、非課税扱いからくる誤解も相当あるようです。本記事では、通勤手当を特にことわらなければ公共交通機関での運賃、定期券代として用います。
最低賃金、時間外割増等の時間単価計算からは通勤手当を除外します。通勤にかかる費用に応じてでなく、一律支給といったものですと、隠れ第2基本給ですので除外できません。年次有給休暇の休暇日賃金も、その日働く時間分の賃金の場合は、実費弁済的ということで含めなくてよい一方、平均賃金で休暇日賃金を支払う場合は、計算に含めます。ただし通勤定期券といった場合、2重払いになるなら、含めなくともよいとしています。逆に日割りで回収するなら、含めます。
雇用保険含む社会保険料計算では、通勤手当は賃金として扱われ計算の基礎となります。同じ新卒社員でも遠方から通勤する者は、高い保険料をとられ(その分源泉所得税は低まる)手取りが同期より少ないといった目にあいます。60歳以降の高年齢雇用継続給付金においても、遠距離通勤者は、実費弁済であり必要経費なので賃金でないと主張を展開されてました。同条件で働く職住近接同僚には給付金でるからです。いっそうのこと労働者をやめて、個人事業主になれば必要経費としてみとめられるでしょう(労働者でなくなるので給付金も当然うけられなくなります)。
なぜ賃金なのかは、民法におおもとの規定があります。
(弁済の費用)
第485条 弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。
ここでいう債務者とは、労務を提供する局面では、提供義務がある側「労働者」を指します。労務履行するに移動にかかる費用は、労働者持ちということです。別段の意思表示、雇用主(ここでは「債権者」)が負担するという意思がない限り、労働者持ちです。
通勤手当をださない求人をみつけることが難しい近今、現代仮名遣い以外で改正されることなくこの規定のままになっているのは、民法誕生当時のせいでしょう。公布されたのは1896年(明治29年)、山手線が環状運行(1925年)する30年も前です。公布当時の雇われ人は、住み込みか自宅からてくてく歩いて通っていた時分です。通勤手当などいう概念もなく、その後路線拡張、住域も拡大し電車通勤が主流になり、遠方からのよりよい労働者を確保するために通勤手当が当たり前になっても、別段という文句があったために、法改正の目をみなかったといえるでしょう。結論、労働者のポケットからやりくりして就業場所におもむくのが本則にかわりなく、それを雇用主にだしてもらう賃金となります。
何も時代考証しなくとも、このカウンター(反対、対抗)を考えればしっくりいきます。
労務提供を受けた雇用主は、賃金支払い債務を負います。この賃金支払い局面での「債務者」が今度は雇用主に当てはまり、その義務履行費用は、雇用主もちとなります。
賃金支払い債務をはたすための手間暇はけっこうかかります。出勤簿から時間計算し、賃金額計算、税額保険料算出、給与明細作成、銀行から金銭おろし個袋にわけて手渡し用意保管、手渡しにかえて銀行振込でしたら、銀行依頼書作成、振込料金等々、それら使用人にさせるならその賃金。労働者は一銭も負担しません。負担させたいと思う事業者はいれど、負担してよいと思う労働者はまさかいないでしょう。
通勤手当を基準にへたに「債権者もち」に法改正してたら給料もらうために労働者がめいめい賃金得るために仕事の手を休めて自分で計算し、自分で会社の取引銀行までとりにいく、それらの手数は労働時間にはいらない、費用負担「債務者もち」の民法条項に合理性があります。
(2024年7月1日投稿)