このひとには「確信」という
言葉が似合う。
その時、そんなことを思った
記憶がある。
生まれてからきょうまで、数え
切れないほど多くの人とすれ
違い、出会いと別れを繰り返し
てきた。
これからも、それは繰り返され
ていくだろう。
おそらくこの世には、別れの来
ない出会いはなく、永遠に変わ
らないものなど、何ひとつとし
て、ないのかもしれない。
にもかかわらず、あのひとは今
でも、わたしにとって唯一の
「確信」であり続ける。
あのひとは、晴れた海。この世
でただひとり、わたしに「確かな
ものはある」と、信じさせてくれた
人。
「おなか、空いてる?」
「空いていない」
「喉渇いてる?」
「乾いてない」
「行きたいところ、ある?」
「アメリカ」
あのひとは笑った。声をあげて
「じゃあ一緒に行くか」。
それからあのひとは、搭乗券に目を
落として。言った。
「あと十分くらいは、一緒にいられ
るかな」
ひとりごとのようにも聞こえた。
ああ神様と、わたしは思った。時間は
止められない。わかっているけれど、
神様、どうか止めて欲しい。
止まって欲しい。一分でも、十秒でも
いいから、止めて。わたしたちの頭上
で。
「飛行機でも、見にいくか」
あのひとは呟くように言い、わたし
は小さく頷いた。
エスカレーターに並んで乗って、展望
ロビーまで上がっていった。わたし
の躰は、あのひとの躰に、引き寄せれ
たままだった。
「まるで恋人同士みたい?」
わたしが問うと、あのひとは答えた。
「恋人同士だよ。文句ある?」
エスカレーターに乗っているあいだ
に、交わされた会話はそれきりだった。
言葉が似合う。
その時、そんなことを思った
記憶がある。
生まれてからきょうまで、数え
切れないほど多くの人とすれ
違い、出会いと別れを繰り返し
てきた。
これからも、それは繰り返され
ていくだろう。
おそらくこの世には、別れの来
ない出会いはなく、永遠に変わ
らないものなど、何ひとつとし
て、ないのかもしれない。
にもかかわらず、あのひとは今
でも、わたしにとって唯一の
「確信」であり続ける。
あのひとは、晴れた海。この世
でただひとり、わたしに「確かな
ものはある」と、信じさせてくれた
人。
「おなか、空いてる?」
「空いていない」
「喉渇いてる?」
「乾いてない」
「行きたいところ、ある?」
「アメリカ」
あのひとは笑った。声をあげて
「じゃあ一緒に行くか」。
それからあのひとは、搭乗券に目を
落として。言った。
「あと十分くらいは、一緒にいられ
るかな」
ひとりごとのようにも聞こえた。
ああ神様と、わたしは思った。時間は
止められない。わかっているけれど、
神様、どうか止めて欲しい。
止まって欲しい。一分でも、十秒でも
いいから、止めて。わたしたちの頭上
で。
「飛行機でも、見にいくか」
あのひとは呟くように言い、わたし
は小さく頷いた。
エスカレーターに並んで乗って、展望
ロビーまで上がっていった。わたし
の躰は、あのひとの躰に、引き寄せれ
たままだった。
「まるで恋人同士みたい?」
わたしが問うと、あのひとは答えた。
「恋人同士だよ。文句ある?」
エスカレーターに乗っているあいだ
に、交わされた会話はそれきりだった。