僕たちは夢をみた
何千回も夢をみたが
何旋回も夢からさめた
そして 夢をみていたことを
ひたかくしにした
楽しいことは何もなかったが
忘れたふりをしていると
わけのわからないおそれを
忘れることができた
そしてきみ出会えた
きみはあの光りかがやく希望の中に
生きていた
僕たちはこわかった
きみを認めると僕たちがいなくなる
きみは何か話しかけてきたけれど
きみの声は聞こえなかった
矢のようにすぎていく
油断するとあっという間
こんなに大切なことが
知らないうちにどんどん
流されていくとは知らなかった
気をひきしめなくては
油断したまま終わりがきそう
誰かを思い
せつなくなる時
その気持ちを大事にしよう
話しながらコーヒーを一口
飲んでみよう。
相手が同じように飲み物を
飲んだら、あなたの話に意気
投合している証拠。
これは同調ダンス(手足やう
なずきなどの動作が一致す
ること)と呼ばれる現象だが、
ラブラブのカップルによく
見られる。
桜の季節に、佳代子は東京にやって
きてわたしの部屋に泊まり、不倫
の恋を終わらせた。
別れ話しの前の夜には「京都に
戻る前に、奥さんのところに乗り
込んでいく」と息巻いていたけれ
ど、翌日の夕方、わたしが仕事か
ら戻ってくると、佳代子はベット
の中から力なく「お帰りなさい」
とわたしを出迎え、
そのあとに、「疲れた。別れと同
時に魂も、抜き取られたみたい」
と呟いた。その夜遅く、学ぶさ
んからわたしの部屋にかかって
きた電話に、佳代子は「いない
と言って」首をふった。
走るのを、佳代子はやめたのだ
った。
わたしはひとりで、走り続けて
いた。三月が終わり、四月が来
て、桜がすっかり散り、五月(
さつき)の蕾が膨らみ始めても
―――来る日も、来る日も。
朝、目覚めた時にはまっさき
に、あのひとのことを考えた。
朝には夕暮れ時の風景を、夜
になると朝の風景を、思い浮
かべる癖がついた。なぜなら
東京の朝は、ニューヨークは
まだその日の朝だから。
成田空港で、あのひとは教え
てくれた。
午前と午後を入れ替えて、二
時間引いたら、俺の時間。四
月になったらサマータイムに
なるから、引くのは一時間だけ。
これからは、同じ時間を共有
することさえできないのだと
思った。
俺の方がいつもあとから、追
いかけてるってこと。
朝と夜が反対になるなんて、
悲しいな。
なんで?
だって、同じ時間に同じ空、
見られないでしょ。
その代わりに、ふたつの時間
が持てて、ふたつの空を見ら
るじゃん。
コーヒーとクロワッサンと
フルーツの朝食をとって、
ひとり暮らしのアパートを
出るのは、七時四十分。あの
ひとの時間は夕方の六時四
十分。
わたしはいつも、少しずつ
暮れていくニューヨーク
の空を思い浮かべた。街を
思い浮かべようとしても、
行ったことがないから、
うまくいかない。
ひとりの例外もなく、誰の
心の中にも、大切な人が
棲んでいるのだと、当たり前
のことなのに、まるで初めて
知ったことのように、思う。
あのひとは今、わたしのこと
を想ってくれているだろうか。
わたしが想っているほどに。
思いこんではいけない
思いすぎてはいけないと
何度も自分に言いきかせた
愛は強くひきつけてしまう
その人のもとへと
起きているあいだじゅう考えて
起きる素材が底をついたら
妄想が始まる
思い込んではいけない
思いすぎてはいけない
愛が心の中で
愛の心の中で
妄想を生んでしまうから
夜明け前の星くずを
シャンパングラスに浮かべて
あなたの腕の中で眠るの
やがてくる不安な夢も
時のどこかへ置き去り
何もかも忘れて
深いしじまにただよう
あなたが好き
どんなあなたでも・・・