携帯電話でも靴でも、自転車でも
同じです。この世に存在するもの
で、壊れないものはありません。
「もうさんざん使ったし、新しい
ものを買ったほうが安あがり」と
いうのが流れかもしれません。
捨てることは簡単ですし、誰も
文句は言いません。
それでも僕は、壊れたものを修理
して使うほうが好きです。
ものは壊れるという大前提がある
から、そこがスタートだと思い
ます。
手をかけて修繕することで、よう
やく自分のものになっていく気が
するのです。
人とのつきあいもこれと同じです。
ぶつかり合って摩擦がおき、壊れ
たりひびが入ったときがスタート
だと思っています。
なごやかにしているだけのかかわ
りなど、浅いものです。
トラブルが生じ、気持をむき出し
て傷つけあい、これまでのつきあい
が壊れたとき、初めてその人との
関係が始まるのです。
人の気持ちはものより壊れやす
くて、何回でも壊れます。そのた
び私たちは、分かれ道に立つこと
になります。
いさかいから逃げ出し、この人との
関係を捨ててしまおうか。それとも、
ひるむことなく正面から向き合い、
懸命に丹念に関係を修繕しようとす
るか―――。
恋人時代から一度も喧嘩せずに連れ
添っている夫婦がいたら、なんだか
さびしいし、不思議な気がするのは
僕だけでしょうか。
ものは経年劣化ですり減ることも
ありますが、人とのつきあいの場合、
馴れ合いになって摩擦が起きないこ
とのほうが危険です。
壊れることが大前提だと思えば、
真正面から相手にぶつかっていく
こともできます。
大勢ではなくても、そんな相手が
何人かいれば、豊かな人生になる
はずです。
新型コロナ・ウイルス感染予防で
家族そろって食卓を囲む機会が増
えました。
子どもは友だちのコト、親は日中
のコトを、夕飯を食べながら楽しく
話し合う。
「いただきます」「ごちそうさま」
の挨拶や食事のマナーを親から子
へ伝える。昔見かけた、そんな一
家団欒のコミュニュケーションが、
今、食卓に帰ってきたらいいのに、
と。
たしかに、ウイルス感染は怖い。でも、
新型コロナ防止のためだけの内食に
とどまらず、
家族でお母さんの手料理を楽しみ、
会話を味わい、
その絆を深め合うきっかけになる
のなら、不幸中の幸いと思いたい。
もっと、もっと、食卓を温かく。
家族の絆を深めるのは、家族の食
卓です。
人間は誰でも、いくつも欠点
を持っているし、コンプレッ
クスも悩みもある。
自分には才能や感受性がない
からとあきらめるのではなく、
心をきちんと持って肥料をや
って育てていければどんどん
成長していくものである。
生まれつきの才能はもちろん
あるだろうけれども、そういう
ものは放っておけばなくなる。
才能ある人でも、心をかけて
自分を一生懸命に磨き上げる
からこそ、いい仕事を残す
のである。
さして才能がないから自分は
駄目だと放り出すよりも、自
分を大事にして心を持ち続け
ることが大切であると作家の
辻邦生さんは語る。
本を書くにしても、人はたい
へんなことと思うかかもしれ
ませんが、人より少し早く
起きて、
出かけるまでに五ページなり
十ページを書くだけでいい。
ただ毎日続けていると、ある
日気がつくと何百ページに
なっているだけのことです。
毎日やることだけきちんと
やっていれば、自然と仕事
はでき上がっていきます。
これは何でも同じで、「~
がない」と嘆いたりする
ことなく、毎日きちんと
心に決めたことをじっと
やり続ければ成果は自然
とついてきます。
「この世に存在するあらゆる
ものは、人間の心に描かれた
ものが形となって現れてきま
す。
人間の行動も同様で、心に思
ったことが行動となって現れ
る。仕事も健康も、あらゆる
ことにおける力の根源は自分
自身の心である。
実在意識は思考や想像の源で
あり、潜在意識は力の源だ」
潜在意識を強化するには、絶
えず声に出して自己暗示をか
けることです。
気力が萎えるようなときは、
カラ元気でもいいから「自分
は元気だ」と言っていると、
だんだんと現実も自然とそ
うなってきます。
そんな元気印の人の周りに
は、自然と元気な人が集ま
ってきます。
そこで交わされる会話も
自然と活気にあふれて瑞
々しい。
こんな雰囲気の中で生ま
れているアイデアは絶対
にアクティブでフレッシ
ュなものになるはずです。
とにかく声に出していると、そ
の効果は何倍にも高められる。
逆に悪い言葉や消極的な言葉
を使っていると現実もそう
なります。
生まれた時から持っている、誰
からも愛されるよい面を、生まれ
た時にはすべての人がひとりの
例外もなく持っている、
澄みきった、愛(うつく)しい
心を、損なうことになっても、
失うことになっても、それを承
知で、麻里子みたいな聡明な
女の子が、不毛な恋に踏み込ん
でいくのは、なぜ。
そんなわたしの想いを知ってか、
知らずか、しんみりとした口調
になって、麻里子は言った、
「不思議なの。桃李さんと、会
ってない時の方が、彼のこと、
身近に感じるの。
一緒にいる時の方がうんと淋し
いの。すぐにそばにいる時、た
とえば抱き合っている時なんか
にね、
ああ、この人はあたしから、
何億光年も離れたところにい
るのかもしれない、なんて思
ってしまう。だからすごく淋
しいの。変でしょう?」
どう答えたらのかわからなく
て、わたしは静かに、自分の
お酒を飲み干した。
その時、ピアニストがゆっくり
と、ジャズのバラードを弾き始め
た。
わたしは胸の中で、諳んじてい
る英語の歌詞をなぞっていた。
ひとつの物語を語り終えるよう
に、ピアニストがその曲を弾き
終えた時、
「このままでいることなんて、
あたしにはできない」と麻里子
は言い、そのあとに、呟くよ
うに言ったのだった。
「あたし、もう、だめにな
っちいそう」
誰かと、ハーモニーをつくる。ステップをふみ、街をいく。
未来。それは、白紙の五線譜。
今日も、タクトをふる。
わたしは、わたしという人間を
奏でることができる、
たったひとりの音楽家。