Life is ART!

高齢者施設で活躍しているアートワークセラピスト達の旬な声をお届けします。

時代を越えて今も咲き続ける...

2012-03-26 13:57:40 | 素敵な現場
Yasukoです。こちら信州は今朝はまた雪が舞う寒い朝となりました。それでも桜の花の蕾は少しずつ膨らみ、スイセンの葉もぐんぐん土から顔を出してきており、春の訪れを感じます。

土曜日、高齢者施設の介護フロアでのアートワークにいってきました。
先日の強い風で桜の木の枝がたくさん落ちているのを発見。
よくみると小さな枝が四方八方自由自在に伸びていて、一本一本違って面白い。
おもいっきり背伸びをしていそうな枝や、元気に飛び回っていそうな枝。蕾がついている枝もあります。
今回はこれらの枝をつかって桜のワークをすることにしました。

お花は綿を色々な赤色に染めたものを使います。お一人お一人おにぎりサイズの綿の塊をお渡しし、
ころころと掌で転がしたり、綿のふわふわの柔らかさ味わいます。
そして指でカラダをほぐしていくように綿を裂いていきます。
シニアのワークでは、こうして手や指の運動を兼ねてワークを進めていくことが多いのです。

今回はいつもと違うことがワーク中に起こりました。
筆や絵の具やクレヨンなどが目の前に並ぶと、これから「何をするのだろう。そんなことできないわぁ」という不安から、
なかなか手にとったり、ワークに取りかかりはじめるまでに時間がかかったりします。
いかに不安なく楽しんでアートに入っていただけるかはいつも悩みます。

でも今回は違いました。目の前に木の枝とピンクの綿。
「さあこれから花をさかせたい枝を一つ選び、綿のお花をのせていきましょう」とお伝えする前に、
半分くらいの方が次々とさきほど裂いた綿を木の枝に載せはじめているのです。
やはり自然の素材というのは、 誰にとっても馴染みがあるのですね。

最後にはいかにもその人らしい桜のアートが完成です。
選んだ枝や綿の花の載せ方で本当に一つ一つ表情がちがっています。
どんなものができるかわからない、でも手を動かしているうちにその方の心の中の桜が形になっていく。
その桜を通して私たちは世代を超えて同じ今の時を分かち合う事ができるのです。






男性の参加者Aさんは、この日は同じ歌を何度も何度も大きな声で歌っていらっしゃいました。
聞いたことのない歌です。伺ってみるとそれは戦争中、兵隊だったAさんが毎日みなと歌っていたという軍歌でした。

「歩兵の本領」
万朶(ばんだ)の桜か襟の色
花は吉野にあらし吹く
大和男子と生まれては
散兵線の花と散れ

尺余の銃は武器ならず
寸余のつるぎ何かせん
知らずやここに二千年
鍛え鍛えし大和魂

・・・・・・

以下十番まで続きます。
まわりの女性の方々もつられて口ずさんでいます。

「桜はね、自分の分身だったんだよ。桜が美しく咲いて、潔く散る姿をみて、
われわれも同じように潔く散っていくんだとおもっていたんだ。

でも桜は散ってもまた新しく葉をだし次の年に満開の花をさかせるだろう。
そうやって自分たちが散っても、また次がたくさんでてくるんだと、奮い立たせて戦地にむかっていたんだね」

歌っているAさんは戦争のことを思っての悲しさというよりも、むしろいつになく堂々としているようでした。
戦争は確かに悲しい歴史ですが、ここで大きな声で歌っているAさんは、あの頃に戻ったように、誇りと自信に満ちてみえました。
いつもはあまりアートに対しても乗り気でないのですが、今回は時間になるまで桜の花を枝に咲かせ続けていらっしゃいました。
そして完成した満開の桜。腕や手を思いっきりのばしているような枝、そこに何層にも優しく重なる綿の花。
これをみてどんなことを思っていらっしゃったのでしょうね。
みなさんはどんな風にみえますか?


桜。 日本人である私たちにとってはだれもが心に桜の思い出をもっていることでしょう。
Aさんがおっしゃったように、桜を「自分の分身」として、その時その時の自分の心を重ね合わせ、
前に進むための力をもらったり、自分を励ましたりというのも、桜のもつ力ですね。

私にとっては桜は、家族や友達との楽しい思い出や、人生の節目の新しい出発をイメージするものですが、
シニアの方にとっては、「死」というものでもあるのだということを知らされました。
たった50分の短いワークですが、私が知らない戦争をAさんを通してこの日身近に感じた時間でした。
そこにアートがあるから、またさらにAさんの心の桜を一緒に愛でることができたのだと思います。

ワークが終わってサポーターのまっちが「今日はたくさん歌ってくださってありがとうございます」と伝えると
「こちらこそ来てくれてありがとうございます。嬉しかったですよ」とおっしゃってくださいました。
さらに「久しぶりに郷愁の念を感じました。」といわれ、そのあとも歩兵の本領を歌い続けていらっしゃいました。

アートセラピーはただアートをするだけのものではない。
その方の人生の経験や記憶を呼び覚まし、形にし、その方が大事にしているものを少しでも一緒に
共有させていただくという時間でもあるのです。一人一人に歴史があります。
本やネットで読んだものではない、生きたものだからこそ、よりその人を感じることができるのでしょう。



私ごとですが、今回で東京でのシニアアートセラピーの現場を修了することになりました。
次はイケちゃんにバトンタッチ!私よりももっと前からこのフロアのサポーターとして、
今まで変わらない情熱で参加してきたセラピストです。
そして同じ思いをもってやってきた最高の仲間たちも引き続き一緒です。
この仲間についてはまた次回ブログでお伝えしようと思います。

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1 コメント

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清い桜 (いけ)
2012-03-28 22:12:34
Aさん、桜が散る様子を、「清い」と表現していらっしゃいました。
…美しい表現!

私は、毎年桜を見る度に、

誰と、どこで、どんなことを話しながら桜を見たか。

そんなことを思いだします。

そんな思い出の一つに、今回のワークが加わりました!
やっちゃん、約2年半、たくさんの愛をほんとうにありがとう。

どこにいても、その愛は限りなく広がっていくことと思います!

そして、これからもどうぞよろしく!!
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