穂先が小刻みに揺れている。
明らかに“前あたり”というものだろう。
これまで数度ヒラメ釣りにチャレンジしているが、
恥ずかしながら、
未だ釣ったためしがない。
10:40
これがラストチャンス。
『これが最後の活き鯵なんだぞ・・・』
誰に祈ったのか判らないが、
勝手に呟いていた。
小刻みに揺れている穂先が、
時折、海面に向かって絞り込まれる。
『ヒラメは焦ってはいけない』
と、
自分に言い聞かせながら、
胸の高鳴りを必死に押さえていた。
すると、
これまでのアタリとは明らかに違う
強烈な引き込みが!
『これはヒラメだ!!』
反射的にロッドを立てアワセを入れる。
ラインからロッドを通じて生命反応を感じる。
この瞬間が釣り人を魅了しているのだろう・・・
とにかく最後の鯵だった。
いや、
厳密に言うと2匹しか餌用の鯵が釣れなっかたのだ。
先日、
新潟の寺泊港から早朝の5:00に出船し、
『五目サビキ釣り』にチャレンジした。
要するに、
餌となる鯵やイワシなどをサビキで釣り、
それを餌にヒラメやキジハタなどを狙うというもの。
太めのハリス仕掛けで、
掛かった鯵をそのまま落とし込む方法や、
別の仕掛けに付け替えて、
泳がせる方法など、人によって様々なのだが、
私は欲張りなので両方の仕掛けを用意していた。
前日の情報だと、
イワシが鈴なりで釣れていて、
キジハタもそこそこ釣れているようだったので、
期待は膨らむ一方だった。
しかし、
魚探に映し出されているであろう反応は、
恐らく小さなもので、
コマセを撒いても散ってしまう。
船長も苦悩している様子だった。
そうなると、
必然とポイント移動も増えていく。
80号の錘をつけて、
水深60メートル前後での釣りなので、
走水のそれと比べると、そうヘビーなものでもない。
むしろイージーに感じていたくらいだった。
まさか、
餌用のサビキ釣りで苦戦するなんて思いもよらなかった。
これだから釣りは奥が深い。
しかし、
時間だけが虚しく過ぎて行く。
『まさかのボウズ!?』
不吉な予感が脳裏をかすめ始めた。
すると、
ようやくサビキ仕掛けにアタリが。
餌にならないであろう鯖が釣れた・・・
船長がお情けで撮ってくれた写真。
『小さいけど食べると美味しいよ』
と、船長は言ってくれたが、
『まあ、負けたけどお前もよく頑張ったよ』
という慰めの言葉に聞こえたのは確かだった。
しかし、
そこのポイントでなんとか餌にピッタリサイズの鯵を
2匹釣ることが出来たのだ。
時計の針はもうすぐ10:00を迎える。
サビキの道具を綺麗に片付け、
泳がせ1本に集中させる。
2匹しかいない鯵で逆転を狙ったのだ。
反対の左舷側ではヒラメやキジハタが釣れている様子。
まめに棚を取り直して、
集中力を高める。
そして冒頭のラストチャンスとなった
10:40
強烈な引き込みにアワセを入れたロッドは
弧を描き大きくしなる。
『キジハタは根に潜るからドラグはキツめ』
と事前に言われていたので、
ドラグが出ることはなかった。
掛かった後に緩めれば良いだろうくらいに思っていたのだ。
そんなことを思いながら、
ファイト開始!!
その瞬間、
『ブチッ』
生命反応の無くなった仕掛けを回収すると、
ハリスが切られていた。
間違いなくヒラメだろう。
ごめん、
なんとか針が外れることを祈るしかない。
これにてフィニッシュ。
またしても、
ヒラメを釣り上げることは出来なかった。
船中見渡すと、
経験豊富な人はしっかり釣っている。
この船の元船長は、コマセ無しのサビキ釣りで鯵を釣り、
落とし込みでキジハタをサクッと釣っていた。
ベテラン過ぎて、
仕掛けを落とした瞬間に、魚がいるかどうか解るそうだ。
コマセを使っても、魚を留めることが出来なかった私には
耳の痛い言葉だ。
『次こそは絶対に釣ってやろう!』
そんな思いを抱きながら、
足早に新潟の地を去ったのである。