環境教育学会は、法政大学市ヶ谷キャンパスで開催され、私は、長野県飯田市で開発・試行中の「気候変動の地元学」の進捗を発表させていただいた。
地元学は、仙台の結城さん、水俣の吉本さんが提唱したもの。私は、「地域のあるものを見直し、その過程を通じて、人の気づきや学びを促すとともに、地域資源と人の関係、ひいては人と人の関係を再構築していくこと」と理解している。
この地元学にとって、地球規模で進行する気候変動(地球温暖化)の問題は縁遠いものであっただろう。気候変動は、地球全体の進行するもので、将来予測に基づき危惧されるものであり、現在の地域においては見えにくい問題であったからだ。
しかし、緩和策(二酸化炭素等の排出削減)が十分に進めれておらず、既に大気中の温室効果ガスの濃度が上昇してきている。このため、1980年後半以降の気温上昇や豪雨の増加などは現在、既に進行しており、それによる地域への影響も顕在化してきている。農作物の高温障害、熱中症の増加、動植物の北上等の自然生態系の変化、豪雨による水災害の増加等である。
そこで、身の回りの地域において既に発生している気候変動の影響を調べ、それを共有することで、気候変動の問題をリアルな問題として、実感し、気候変動への気づきや学びのきっかけとすることが可能になると考えた。
地域づくりにおいは、地域資源というあるものを活かすことが重要である。その地域資源が気候変動によって変容しつつあるとしたら、その変容にどのように対応していくかは、地域づくりにおいて重要である。
飯田市での気候変動の地元学は、昨年度1年間、飯田市内の行政、NPO、企業関係者による研究会で検討を重ね、今年度5~7月で試行をしたばかりである。
まずは環境リーダー層に、気候変動の飯田市への影響事例の調査票を配布し、100近くの影響事例の回答を得た。次に、その回答を集約して、地図や年表、影響分野別の影響カルテを作成し、それを報告し、さらに意見交換をしてもらうワークショップを開催した。
こうした影響調査は、生き物の分布や開花時期の変化などとして既に実施されてきたが、この地元学がさらに踏み出している点として、4点が重要である。
第1に、生き物以外にも、農業、生活、産業、伝統文化等への影響も含め、幅広い影響事例を対象としている。第2に、影響共有を踏まえて、喚起されるべき行動を緩和策だけに置くだけでなく、適応策をも対象としている。第3に、気候変動の影響は社会経済の弱いところに発生し、その弱さを改善することが適応策という視点から、影響事例の調査では、影響を顕在化させている社会経済的要因についても考えてもらうようにしている。第4に、緩和策と適応策の両方が必要であること、各々違う施策であることを理解してもらうようにしている。
次の土曜日には、岡山県の地球温暖化防止センターの指導員向け研修で、飯田市と同様のワークショップの短縮版を実施する予定である。全国各地の地球温暖化防止センターで、「気候変動の地元学」が展開されていくことを期待している。