2021年度 山陽学園大学・山陽学園短期大学 公開講座「『コロナ後の社会を考える』~歴史から考えるコロナ後&近年の事象から考えるコロナ後~」の第2回が11月27日(土)に開催されました。
2回目は、環境政策・持続可能な地域づくりを専門とする地域マネジメント学科の私(白井信雄)による講座でした。「近年の大災害と人・社会の転換~コロナ後の未来を予測し、提案する」と題し、私たちをとりまく多様なリスクの中から、東日本大震災と福島原発事故、西日本豪雨、そしてこの新型コロナ禍という大災害をとりあげ、いずれであっても私たちの社会経済システムの欠陥が被害を甚大なものとしていると指摘しました。
新型コロナ禍については、①近年のパンデミックの多くが動物由来感染であり、人類と自然との関係のバランスの取り方が人類のパンデミックリスクを高めていること、②経済活動のグローバル化が感染拡大を加速させたこと、③新型コロナによる対策として三密回避の対策がとられ、この状況変化がリモートワーク、リローカリゼーションという変化をもたらしたという点を整理しました。また、リアルとリモートとの融合、地産地消にかかるニュービジネス、15分コミュニティづくり等、これまでにない創造的な取り組みが進んでいるという点では、制約が転換を生んでおり、それを今後に活かすべきと提案しました。
リスク社会が目に見える形で露わになっている今日。私たちは、何を知り、何を考え、何をめざし、何を変えていくか。私たちのあり方が問われる時代になっています。
以下、要旨 *******************
近年の大地震とその後の社会変化
- 大規模な地震を想定しなかった地域での震災(阪神・淡路大震災)、津波やそれに伴う原子力発電所の事故(東日本大震災・福島原発事故)のように、心理的ショックを与えるような深刻な被害が発生している。
- 特に、福島原発事故は、原子力発電所に依存するエネルギー需給構造のゆがみを露わにした。
- 福島原発事故以降、再生可能エネルギーの普及政策が本格化した。経済事業としての大規模電源開発と市民・地域主導の共同発電とそれを通じた地域づくりの2つの動きが活発化した。
近年の気候災害とその後の社会変化
- 気候変動(地球温暖化)による異常気象のかさ上げにより、激甚な気候災害の被害が発生している。
- 気候災害の影響は、気候外力の変化だけでなく、社会経済の側の豪雨等の影響の受けやすさ(脆弱性)の高まりにより、深刻なものとなっている。
- 単なる防災だけだけでなく、気候変動適応という観点からの政策形成が進んでいるが、長期を見通した移転等の転換に踏み込んだ適応策の理解が進んでいるとは言いがたい。
近年のパンデミックとその後の社会変化
- 近年のパンデミックの多くが、動物由来感染である。人類と自然との関係のバランスの取り方が人類のパンデミックリスクを高めている。
- また、経済活動のグローバル化が感染拡大を加速させた。広域かつ高速に動きまわる人類の性質が医療体制の体制整備、ワクチン開発などの猶予時間を持たせなかった。
- 新型コロナによる対策として、三密回避の対策がとられた。この状況変化がリモートワーク、リローカリゼーションという変化をもたらした。
- リアルとリモートとの融合、地産地消にかかるニュービジネス、15分コミュニティづくり等、これまでにない創造的な取り組みが進んでいる(東日本大震災後、気候災害後等に比べると、全体に対する明確な制約が転換を生んでいるのではないか)。
今後、どうなるか
- 新型コロナ等の災害はこれまでの社会のゆがみを見せてくれる(考えさせてくれる、気づかせてくれる)。
- 新型コロナ等の災害後は、ゆがみを内在する社会を変え、代替的な社会を目指す小さな動き(災害イノベーション)が創造される。
- 創出される災害イノベーションは、一定の根付きを得て、社会の多様性を高める。しかし、もとに戻ろうという慣性の力は大きい(経路依存)。ワクチン開発と治療薬開発により、慣性の社会の主流はアフターコロナでも変わらないだろう。
- 社会転換に向けた動きは慣性の社会の便乗に取り込まれてしまう(慣性の改善・強化にとどまり、結局のところ社会転換は生じない)可能性がある。
どうしたらいいか
- 経験と思考の交識による学習と創造(コレクティブ・ラーニング)
- 地域間や主体間をつなぐ関係形成(セーフティネット・ビルディング)
- 長期を見通したうえでの社会計画の対話と共創(ソーシャル・デザイン)
- 一人ひとりにおける“変える知性”の獲得(セルフ・トランスフォーミング・ディベロープメント)