白井信雄・栗島英明「持続可能な発展に向けた地域からのトランジション~私たちは変わるのか・変えられるのか」環境新聞社が、2023年9月に発刊となりました。
編著者としての紹介と本の目次を示します。
転換(トランジション)とは根本にある構造やメンタルモデル(考え方の前提や価値観)を変えることである。変容や変化、改善、修正等とは異なる意味だと強調したい。行動変容を進める環境施策も活発であるが、ごみの分別の徹底や空調の設定温度の変更を転換とは言わない。
例えば、転換すべき構造とは化石資源に依存するエネルギー構造であり、工業が主導してきた産業構造やグローバリゼーションである。東京一極集中の国土構造や自動車利用を前提とした都市構造も諸問題の根本にある。市場を通じた交換に依存し、自立や共生の歓びが希薄な生き方もまた、転換すべき根本である。
脱炭素を目指すため、エネルギー構造の転換は必須となってきている。しかし、食やエネルギーの地産地消、小さな経済、地方分散、都市のコンパクト化、市民主導の政策立案、共同や共創等は支流に過ぎず、既存の社会構造の本流を代替するまでには至っていない。
(絶対に望ましいことではないが)強力な指導者が登場し、転換を進めない限り、構造の転換は難しいようにみえる。なぜなら、既存の社会や組織の維持・発展を図るために既存のソフトウエア(制度や組織)が形成され、ストックとして整備されたハードウエア(設備や構造物)の維持・活用が前提となる。それらの担い手を育てる教育によって、ヒューマンウエアは維持・強化される。再帰的に組み込まれた人々や組織の解放は容易ではない。
それでも本書は希望をもって、トランジションの実例を示す。移住や起業、市民活動の創発等のように生き方の転換を果たした先人から多くを学ぶことをできる。地域のフロントランナーによるニッチイノベーションの創出と展開を図る道具やマネジメント手法も導入され、実践が行われている。実践知から、なりゆきの危機を見通し、転換後の社会の論点を整理し、目指すべき社会の理想や転換のダイナミズムのあり方を記すことができる。
「私たちは変わる・変えられる」と信じ、既にある実践を宝物のように大切に思う気持ちから、本書の発刊に至った。編著者なりの到達点として重要なことは2つ。1つめは転換をコーディネイトする人材と中間支援組織を地域で確立していくこと。2つめは一人ひとりが自己や社会を俯瞰し、転換していくことができる知性(自己転換型知性)を高めることである。本書の読者はどのように考えるだろうか。
【本書の目次】
序 章 本書の前提と構成
序-1 本書で取り上げる「転換」とは
序-2 本書の構成
第1章 なぜ、地域からの転換の必要なのか?
1-1 構造的な加害・被害と地域からの転換の必要性
1-2 経済学からみた地域からの転換の必要性
第2章 意識や行動を転換した人々に何を学ぶか?
2-1 地域に関わる人の転換のライフストーリー
2-2 人の転換に関するアンケート調査
2-3 人の転換を支援する方法
第3章 地域の現場でどのように人と地域の転換が進んでいるか?
3-1 地域の転換を担う人々
3-2 トランジション・タウンの実践
3-3 再生可能エネルギーを活かす地域づくりにみる転換プロセス
3-4 地域づくりの転換におけるキーアクション
第4章 地域社会の転換のためにどのような方法が試されているか?
4-1 未来カルテやシミュレーターを用いたワークショップ
4-2 市民参加型合意形成プラットフォームを用いたデジタル民主主義
4-3 Z世代が主役となるシティズンシップ教育
4-4 内発的動機づけと次世代の参画によるローカルSDGs
4-5 トランジション・マネジメントの課題と解消方策
第5章 転換後にどのような地域社会を目指すのか?
5-1 関係人口を活かすコミュニティとネットワークのあり方
5-2 脱炭素社会の選択に向けた論点
5-3 資源循環の転換、脱物質社会はどうなる
5-4 脱工業化・脱近代化・脱成長・脱都市:島から未来を考える
おわりに~転換を進める条件は何か?