気候変動の適応策の理解においては、「気候変動により社会が受ける影響は,気候外力と抵抗力(レジリエンス:適応能力と感受性)の関係性によって決まる」という基本理解が重要である(図1参照)。緩和策は気候外力の上昇を抑制するものであり、適応策は抵抗力を改善するものであり、どちらも気候変動の影響の抑制を目的とするが、改善対象となる要因が異なる。
抵抗力にも適応能力と感受性の要因があり、適応能力とは「行政や事業者、住民等による気候変動への備え」である。これに対して、感受性とは「気候変動の影響の受けやすさ」であり、高密度化等の土地利用、高齢化や近隣関係の希薄化等の社会構造、大規模集約により画一化された産業構造等が相当する。
したがって、適応策には適応能力の向上と感受性の改善の2つの対策がある。適応能力の向上は、既に顕在化している気候災害に対して、既に実施されているもので、気候変動の影響への「防御」やその影響への「順応」という形で実施される。水災害の例では、「防御」とは堤防をつくることであり、「順応」とは堤防を越えて氾濫する水から早く逃げることである。感受性の改善は「転換」ということができ、水災害では、住む場所を変えることである。
「防御」によりゼロリスクを目指すが、「防御」しきれない影響を一定程度は受け止めつつ、甚大な被害にならないように影響を最小化することが「順応」である。水災害が頻繁になり、常に逃げるような状態になったとき、「順応」は限界となり、「転換」が必要となる。感受性の改善である「転換」は、気候変動の中・長期的な影響の深刻化によって必要となる対策である。そして、「転換」は一朝一夕になされないため、気候変動の影響の長期予測を行い、長期的な視点から取り組んでいくことで必要である。
参考文献:「気候変動適応の理論的枠組みの設定と具体化の試行-気候変動適応策の戦略として-」白井信雄・田中充・田村誠・安原一哉 ・原澤英夫・小松利光、環境科学会、2014年9月