サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

適応策と緩和策の違い

2012年01月17日 | 気候変動適応

担当している研究プロジェクトで、適応策の実装化をテーマにした①特定地域でのモデルスタディとそれを踏まえた②適応策の検討手順のガイドライン化、③フォーラムを通じた適応策の普及を実施している。

 

昨年度と今年度は、長野県でのモデル的検討を、県の地球温暖化戦略全体の見直しの位置づけで検討しているところである。また、九州地域環境事務所でも熊本県をモデルスタディのフィールドとして適応策の検討を始めている。来年度はさらに複数の県で適応策の検討が立ち上がり、地域レベルでの適応策の実装化が広がりを見せることになる。

 

さて、適応策の実装に後ろ向きな意見を聞くことも多い。緩和策(低炭素施策:温室効果ガスの排出削減・吸収対策)と適応策を比較し、その相違を踏まえて、適応策の見通しやあり方を整理しておく。

 

・国による法制度の整備

緩和策の普及については、京都議定書において日本国全体の責任ある政策目標(温室効果ガスの6%削減)が決められ、それを達成するための国家戦略やそれを根拠づける法律が整備された。地域での地球温暖化対策については、まず地方自治体の事業事務に係る率先的な取組みが促され、ついで地域全体の取組みが進められてきた。

適応策については、政策目標、国の計画、根拠法等の制定は検討過程にあるが、2012年度には京都議定書目標達成計画の見直しに合わせて、適応の国家戦略が検討され、緩和策と適応策の両輪の方向性が示されると可能性がある。そうすると、地域における適応策の普及が段階的に加速するものと考えられる。

 

・産業界の自主的取り組み

緩和策の導入においては、経団連が自主的取組をいち早く示すなど、産業側の先行的な動きが見られた。これは自動車の排気ガス対策に先駆けたことが国際的競争力を高めたことやEU等での強い環境規制への乗り遅れが国際競争力を低めた経験によるものと考えられる。

適応策については、今のところ産業側の率先的な動きは一部の企業やシンクタンクを除き見られない。緩和策については、経済対策との両立性が強調され、省エネ家電やエコカーへの買換え促進が国をあげて推奨されてきた。適応策についても経済との両立性を高めて、適応策の戦略設計をしたらどうかという意見もある。しかし、地球温暖化対策のためには産業構造や企業様式の見直しが問われているのであり、既存の産業構造の延命や改革の先送りになるような経済性との両立を優先すべきではないとも考えられる。適応策を社会経済の変革の契機(入口)とするような仕掛けが必要である。

 

・被害・加害関係

  緩和策は地球温暖化への加害者として原因抑制対策であり、適応策は被害者としての影響抑制対策である。このため、緩和策では、国レベルの削減目標をトップダウンでの割り当て、経済との両立性をにらんだ自主的取組とともに、地球全体や開発途上国への貢献、あるいは将来世代への貢献といった利他的な価値規範の共有が必要となる。

これに対して被害者側の対策である適応策では、自らの安全・安心のための施策であり、利己的な価値規範のもとに対策が意義づけられる。この意味では、地球温暖化の影響が認識されれば、適応策の方が緩和策よりも現在世代の受容性が高い施策となる。

・対策に関連する行政内部局係

  適応策の方が緩和策よりも行政内の関連部局が多いことに特徴がある。これは、地球温暖化の影響は、ヒートアイランドや自然災害等の影響と重なるものであり、他要因への対策として、既に対策が実施されていることと関連する。緩和策では、エネルギー対策や都市計画と対策が重なるが、重なる対策の違いにより、関連部局がことなることも緩和策と適応策の違いである。

  具体的にいえば、適応策では農業分野や水災害分野、保健衛生分野と地球温暖化部局との連携が求められるが、これらの部局とのつきあいは緩和策ではあまりなかったのではないだろうか。あらたなつきあい先との連携に慣れていくことが適応策の課題であろうか。

 

 

適応策の導入上の課題については、さらに別の機会に整理してみたい。

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