白珠だより

札幌にて美人画と武者絵を扱っております白珠画廊のブログです。

雨はざっこざっこ、風はどっこどっこ

2017-11-29 | 画廊の様子
木枯らしと時雨がかわるがわるにやって来て、寒さが身にしみる季節は
冬の入り口です。

風のハープ(ウインドウ ハープ)という記事を見つけました。
もう、10年も前の朝日新聞のコラム「ひと」~

~宮沢賢治がこよなく愛した岩手県の種山が原の道の駅に不思議な楽器が
置いてあります。
形は船に似ていて帆柱のような鉄の棒から20本の弦が伸びている。
奏者は風、楽器の名は「又三郎」。作った人は種山が原に住む木工作家で
村上登志樹さん~

この記事を読んで、はて、風が奏でるのはどんな音かしらと思わず耳を
清ませて空を見上げました。

    どっどどどどうど どどうどどどう
      青いくるみも 吹きとばせ
      すっぱいかりんも吹きとばせ
    どっどどどどうど どどうどどどう

賢治さんは風をこんなふうに表現しました。

賢治さんは、北上川の岸から遠い険しい谷を渡って種山が原の高原を
目指してしばしば通いました。
地質調査のためだけではなかったようです。
この高原に辿り着くと青い空と深い緑は大きくどこまでも広がっていて、
風は激しくそして優しく彼を包み込んでくれたのでしょう。

ここに佇んでは、この美しく豊かな自然を見つめ、魂を研ぎ澄まして
確かな耳と目、肌で感じたことをたくさんの詩や童話に表したのでしょう。

賢治さんはこよなく愛したこの高原でどっどどどどうどと吹き上げて来る風の中に
ガラスのマントをひるがえして空へ飛びあがった又三郎をはっきりとその眼で
見たに違いありません。

「雨はざっこざっこ雨三郎 風はどっこどっこ又三郎」

「そうだなぃな。やっぱりあいづは風の又三郎だったな。」

今日の一枚の絵  「風ことば」 中島潔    木版





秋の日々を楽しみました。 美しい木々は今はすっかり葉を落してしまいました。
タルトタタンを焼きました。   s・y

花すすき

2017-10-14 | 画廊の様子
花すすき~古代の人はこう呼びました。
なんて美しい名前でしょう。風の通り道に静かに揺れながら秋を招いています。

平安時代のある雨の夜に歌人たちの集まりがありました。
「ますほのすすき」というのはどんなすすきであろうかという話になりました。
一人の老人が難波にそのことを知っている上人がいるらしいと言いましたところ、
登蓮法師という人が宿の主人に蓑と笠を借りて旅支度をしました。
雨が止んでからお行きなさいと人々が止めようとしましたが~そんなことは
取るに足らないこと人の命は雨の晴れ間など待つものかと即出かけていきました

そうして、「まそほのすすき」は穂の長いすすき、「まそをのすすき」は
穂先が糸のように乱れたすすきで「ますうのすすき」は穂が深い蘇芳色であると
教えてもらいました。

ものを学ぶと言うことはこのようなことであろうと兼好さまも徒然草に記して
おられます。

すすきはまた、袖振り草(袖波草)とも。尾花はすすきの別名でその花穂が
きつねのしっぽに似ているのでそう呼ばれるといいます。

我がやどの尾花が上の白露を消たずて玉にぬくものにもが
                     大伴家持  白露の歌 一首
~尾花の上に置く露の美しさを深く称えた歌
            
今日の一枚の絵   「秋苑」 木版  鏑木清方 

花すすき  穂に小さな花がくるりとついていて何とも可愛らしい紅の色で
      秋の深まりとともに白くなって呆ゖて枯れすすきとなる。

 
    なにもかもが美味しい秋、かぼちゃのプリンを焼きました。 s・y
              

色なき風

2017-08-17 | 画廊の様子
影絵のようにまわる、まわる盆踊りの輪が小さくなって消え、空から帰ってきた
大切な懐かしい人たちを再び見送りました。
お盆の三日間、思い出の中で一緒に過ごし空と地の二つの世界が重なりました。
愛する人たちが今ここに居ない淋しさが、心にこみ上げてきます。

そぞろ歩いていると野の花たち、桔梗や萩、女郎花、山百合やほおずきが
涼やかな風の中にひっそりと微笑んでいます。
やがて実りの秋を迎えるころには野山を一面に華やかに彩ってくれるでしょう。

かすかに秋の気配は五感に感じられても昼間の空気は蒸し暑く体は汗ばみます。
夕涼みの前の湯あみは暑さに疲れた体をやさしく癒してくれます。
浴衣を纏って名残惜しい夏の夜をゆっくりと過ごし、暫し暑さを忘れるのは
日本人のしなやかな感性の賜物なのでしょう。

今では若い人たちが色鮮やかな浴衣を可愛らしいアクセサリーなどで飾って
楽しんでいる姿を見かけますが、もとは藍衣と言ってお江戸の庶民の浴衣は
主に藍で染められていました。
秋草や波、水、金魚、朝顔など涼しさを呼ぶ模様で描かれた白と藍のコントラストに
彩をそえる帯をきりっと結んだ着こなしは今でも日本の夏の美しい風物詩です。

今日の一枚の絵  「浴後の美人」  富岡永洗  明治38年 明治美人画の系譜より
                                 複製版画
   
   満月の光の中で飛び交うこうもりを配した浴衣の美人です。当時はこの模様が
   流行ったそう。  
   
    夕顔の花の月夜となれるはや  高須 茂   ~歳時記
        
        う~~~ん 美しすぎる!!!   
        
        確かに秋の響を持つ風を色なき風といいます。 s・y

p・s
   おまけのおまけ。お盆の真ん中の日にいつもの散歩道、通りがかった農園の睡蓮沼で
   若い鴨のお母さんに生まれたての赤ちゃん9羽を紹介してもらいました。             
             


鳴かぬ蛍が身を焦がす

2017-07-16 | 画廊の様子


今日の一枚の絵 「娘深雪」 大正3年  上村松園  シルクスクリーン 

透き通るような水の面に夕闇が降りてくると、ほっほっと青い光が灯ります。
この神秘の舞台に哀しい恋の物語が生まれました。

   少女深雪は旅の途中、宇治川の蛍狩りで宮城阿曽次郎と云う青年に出逢い、
   たちまち恋に落ちました。
   この時から二人の~すれちがい~の悲劇が始まります。

浄瑠璃で語られる「生写朝顔話」のお話です。

   今一度必ず逢う約束をして二人は別れました。この時,
 阿曽次郎は深雪の持っていた扇に歌を書いて渡します。

   「露のひぬ間の朝顔を照らす日影のつれなきに哀れ一村雨のはらはらと
    降れかし」

   深雪は琴を奏でては時折傍らの手文庫の中にしまっている大切な扇をそうっと
   取り出して眺めては心に秘めた遠い恋人を思い出しておりました。

松園さんの描いた「娘深雪」は人の気配に思わず心の秘密を守ろうとした
少女深雪の一瞬の初々しい姿をとらえた筆の跡です。
はじらいの唇、一途な思い、可憐なその姿が瑞々しく、ほのぼのとした情感を
漂わせて観る人を惹きつけます。けれど……、

後の日に過酷な運命が待っていたのです。

いたずらな運命は二人の逢瀬をすれちがいにすれちがいさせてしまいました。
深雪は悲しみのあまりに泣きに泣いて盲目となり、名を朝顔と変えて諸国を行脚する
三味線弾きとなりました。

松園さんの言葉
        私は内気でしとやかな深雪と勝気な淀君が好きです。
        このまるきり反対の型の日本の女性が好きです。
        私は女性は美しければ良いという気持ちで描いたことは
        一度もない。一点の卑俗なところもなく清澄な薫り高い
        珠玉のような画こそ念願とするところであります。
        
かつて、井上靖氏が新聞記者時代に三度ほど松園さんにインタビューしたことがあったが
「彼女が描く美人画の人物の誰よりも美しく艶々しく感じられた。」とその印象を語られた。


少し前、豊平公園で美しい二株の卯木が満開を迎えて、紅白寄り添って咲いていました。
真白い花は阿曾次郎,真紅は深雪の魂のように思えました。  
やっと二人はここでかたく結ばれたのですね。ほっ。
                          s・y




初物大好き!

2017-05-27 | 画廊の様子
二十四節気小満、万物がいよいよ天に向かって長じ地に満ち始める初夏、
瑞々しい青葉は瞳や心の奥まで染み透って疲れを癒してくれます。
春山は陽の光に覆われた深い緑の遠山になって、小鳥たちは命を育む喜びに
いっそう空高く鳴き声を交わします。
初夏、私たちの五感に触れるものは何もかも生まれたての「初物」。

「初物」は‘お初’と言って、私の子供の頃~ずいぶん昔のことですけれど~(笑)
何か初めてのものを身に着けたり持って出かけると仲良しちゃんたちが目ざとく
見つけて、「お初っ!」とおしりをパン!パン!と叩きながら追いかけて来たものです。

「初物」は縁起のよいものですね。何といってもその代表は初鰹。
初物が大好きな江戸っ子は見栄と張りで初鰹は値が高くなければ売りも買いもせぬと。
この新緑の時節、目玉がとび出るほどの値の鰹を食べるのを粋としたそう。
お刺身にするのが一番。皮目の美しさを大切にして炙り、身を薄く造って
二三枚箸で取り辛子酢で食べるのが通だったとか。

鰹はビタミン類が豊富で疲労回復、体調を整えるには優れた魚で冬の寒さに
耐えた身体に栄養をたっぷりと満たしてくれるのでしょう。 
昔も今も命を守り力を与えてくれる季節の贈りものは変わりありません。

~鰹のたたき~大好きです。ビールと共に今宵も……。🍻 s・y

  藤咲いて鰹食う日をかぞえけり  其角

     今日の一枚の絵  「初松魚」 二代 豊国画 木版

緑のセンター豊平公園の藤の花が甘く薫っています。








けふ一日また金の風~

2017-05-16 | 画廊の様子
   
    けふ一日また金の風
      大きい風には銀の鈴
    けふ一日また金の風……   中原中也

      今日の一枚の絵  「若葉」 上村松園 シルクスクリーン

青葉若葉を揺らしながら馨しい五月の風が通り過ぎて行きます。
松園さんの「若葉」のやわらかな青葉の香りがこの画の置かれた
白珠の部屋にも漂っています。
窓辺の佳人は身も心も若葉に染められ洗われて初夏の心地よい風に
身を任せています。
若葉とお揃いの色の着物を身にまとったこの女性のつつましやかな
姿は優しく清々しく心に残ります。


   十三夜の朧月と我が家の庭の北辛夷。
   
   金の風の一吹きで白い花びらが一斉にふるえだし、
   やがてそれが静まると月影の淡い光に乗って横笛の音が
   微かに流れて来ました。
   そんな風に思える美しい五月の宵でした。
      
      心よき青葉の風や旅姿   子規

   もうすぐ夏ですね。ヤッホー!      s・y


桜狩

2017-04-16 | 画廊の様子
  見渡せば柳桜をこきまぜて都ぞ春の錦なりける  素性法師
  
   今日の一枚の絵  「桜狩」 明治美人画 文芸倶楽部 口絵 複製版画

               鈴木華邨 1860~1919年
                 美人画、花鳥山水画に優れた作品が多く
                 挿絵界でも活躍した。

春の香り豊かな雨、その雨がもたらす生命の恵みが大地に満ちています。
寒さに縮まった心や体を思いっきり広げてみたら春を迎えた歓びが胸に
こみ上げてきます。

日本の春と言えば桜につきます。桜色は紅染のもっとも淡い色で、平安の貴族たちは
襲の色目で春の雅な装いを楽しみ競い合いました。

素性法師が詠った満開の桜とたおやかに揺れる柳は平安の都の春爛漫の情景が
目の前の大きなスクリーンに映し出されるようです。
この時代に花は梅に代わって桜、漢詩から和歌、漢字は仮名、唐絵が大和絵と日本文化、日本人の
美意識がはっきりと形を整えて根を張っていったのでしょう。

梅は一輪、二輪の静かな佇まいが心をうちます。
桜は人の心を烈しく揺さぶるお騒がせな花です。
満開の花びらが一瞬の風に花吹雪となって降り注ぐ美しさ。
桜の精が舞い降りたとしか思えない美しさ。
人の一生は梅一輪?それとも満開の桜の木?      

今年はどんな桜に出会えるのでしょうか。     s・y

春の使者 スノウドロップとお祝いのりんごのデープパイ



今日はイースター、復活祭です。
  「復活祭」  春の指がすみれの鼓動をさぐっている
                  深尾須磨子





  
  

月の光も薫ります

2017-02-22 | 画廊の様子
   今日の一枚の絵   水野年方  「紅辨白芭」 明治31年  手摺木版
              ~月岡芳年の門下生  浮世絵師 日本画家~


梅は春風を待って咲く花、風待草とも呼ばれ、遥か昔、中国大陸から海を渡って
日本に運ばれて来ました。
春を一番に告げるのはその枝いっぱいに膨らんでほころんだ香しいつぼみたちの
ため息です。

「幾里か月の光もにほふらん梅咲く山の峰の春風」と藤原家隆は詠いました。
その甘い香りをのせた月の光が下の山々、里並みを照らして、白い花びらがいっそう愛らしく
身をふるわせて春風を立てているように思われます。

「春の夜は軒端の梅をもる月の光もかをるここちこそすれ」 藤原俊成
鬘物の能「東北」は「軒端の梅」とも呼ばれています。
昔、旅の僧が東北院(一条天皇の皇后 上東門院の御所)に咲いた真紅の美しい梅に
見とれていると土地の女が現れてこれは和泉式部の遺愛の梅だと告げました。
和泉式部はこの御所に仕えて方丈の間の一隅に住まい、亡き娘の小式部内侍のために
軒端にこの梅を植えて慈しんだとつたえられています。
僧は一晩お経を読み続けると式部の霊が現れて礼を述べたといいます。

朧に霞む月、渡る風、花の香りは今も昔も切なく待ち遠しくて
愛おしく、廻る季節の賜物です。

二月半ばから北海道十勝の羊の牧場ではあかちゃんブーム。
黒やブチや白のきかんぼうたちがじゃれあっているそうです。
元気に育つといいですね。  s・y


春を待ちながら朝のトースト。熱~いアイルランドの紅茶がお伴です。

 




香しきものは

2017-01-07 | 画廊の様子
明けましておめでとうございます。慎んで新年のご挨拶を申し上げます。
今年もどうぞこの白珠の小部屋をよろしくお願いいたします。

大雪の朝、~いとつめたきころなれば、さしいでさせたまへる御手の
はつかに見ゆるが、いみじうにほひたる薄紅梅なるは「かぎりなくめでたし」と、
見知らぬ里心地には、「かかる人こそは、世におはしましけれ」と、
おどろかるるまでぞ、目守りまゐらする。~

あの冬の初め、内裏の登花殿に上がったばかりの清少納言は深い雪の朝、
この上もなく美しい中宮様にお目見えしたのです。
一生忘れられないそのお姿が心に深くきざまれたのでした。

「遺愛寺の鐘は枕をそばだてて聴き香櫨峰の雪は簾をかかげて看る」

それからしばらくして、雪が高く降り積もった日に「香櫨峰の雪はいかに」と
中宮様は清少納言に仰せになりました。
白楽天のあの詩句を宮さまはなぞかけになさったのです。
そっと進み出て御簾をかかげて雪景色をお見せした賢さに宮さまは満足なさり
微笑まれたのです。

お正月も七日、今日は七草のお節句です。ゆうべのうちにお支度をして
とろりと美味しいお粥をいただきました。
若菜の芽はまだまだ深い雪の中、でも、朝の光の中に微かな春の匂いがふうっと
心地よく漂っています。
年が明けてからはとても静かな日々です。夜のうちに新しい雪が少し積もって
朝日にきらきらしています。
月も星たちも夜のしじまの中をやさしく回ります。
雪も月も星たちも氷った夜空に生きる香しいものたちです。

今日の一枚の絵  「清少納言」 吉村忠夫 筆
                       國の華絵巻 その十一 


お正月、二日の夕月と宵の明星
  美しい夕暮れの空でした。  s・y
                




月の宴

2016-12-28 | 画廊の様子
弁慶かっと怒りたち、薙刀えながに追取り伸べ、走りかかって薙ぎ払えば、
牛若もさる者、左に外し右に避け、宙を拂えば頭を地につけ、裾を拂えば
踊り越え、前にあらはれ後ろにせまり、さながら花に戯るる胡蝶の如く、
空に飛び交う燕に似たり。

今日の一枚の絵  「五條の橋」 松岡映丘 筆   
                       キング國の華絵巻  その八

日本画家 松岡映丘(1881年~1938年) 大正、昭和にかけて活躍した。
          王朝貴族、鎧武者を優美に叙情豊かに描き、やまと絵の
          復興に努めた。

五條橋に月影が淡く注がれています。銀色の光に静かに見守られていることに
二人は気づいてはいないようです。
ほんとうに美しい月下のシーンです。

あと一本で人から奪った太刀が千本になるという弁慶は必死です。
笛を吹きながらそこへ通りかかる牛若少年、月の光は少しづつ上って
いっそうその輝きを増していきます。
この光は優しい母性を放っているように思われます。
心の月を二人に注いだのでしょう。
    「心の月」は清く明らかなことを月に例えて表す言葉です。

お月さまに心を映す美しい言葉を私たち日本人はたくさん知っています。
夕月夜、眉月、星月夜、月代、月天心、月花、月の船、田毎の月、月雪花……

新しい年にはこの「心の月」をふところにしっかりと抱きしめて
日々を大切に送りたいと思います。
今年も拙いこの小部屋におでかけ下さいましてありがとうございました。
どうぞ希望あふれる佳い新年をお迎えくださいませ。                  
                        s・y