白珠だより

札幌にて美人画と武者絵を扱っております白珠画廊のブログです。

夢の中まで雪降るや

2011-01-21 | 画廊の様子
      山の湯や裸の上の天の川

明治27年、正岡子規は芭蕉の「奥の細道」を辿る
旅の途中、湯田という町の温泉でこの一句を詠みました。

奥羽山脈の山々を貫くトンネルを幾つもくぐりぬけると
雪に埋もれた小さな町が見えてきます。
湯田町、日本一の豪雪地帯にあります

この温泉町の片隅に木地屋というこけしのお店が誕生したのは
もう四十年以上も前のことです。
木地師の小林定雄さん輝子さん夫妻は湯田の伝統こけしを大切に
育て守り続けています。

豪雪、飢饉、貧困、身売りというのがこけし誕生の背景であると
いわれ厳しいものがありますが、軒つく雪の長い冬の暮らしの
中で、一本いっぽんの木を挽く手仕事のこけし作りはその技を磨き
これを生活の糧とし、さらに伝統を守り受け継いできた
木地師たちのふるさとへの誇りの歴史でもあります。

小林さんの挽くこけしは手柄もよう、河童、髷こけしの三種類です。
降り積もる雪の中で小林さんの手によって生まれたこの
元気なこけしたちは厳しい自然にも人生にも負けない力強い
湯田の娘っ子たちの魂そのものです。
雪の重みに負けない強い心、白雪のような純な心と美しい肌の
娘達を鮮やかな赤、黄、緑で装って送り出す熱い思いが伝わってきます。

     夫人の小林輝子さんは俳人でもあります。
        
       夢の中まで雪降るや木地師妻  輝子


いつの間にか私のところへこの娘っ子たちが集まってきてにぎやかです。
雪の降る夜は彼女達のまんまるな髷をのせたおつむと
きっちりとそろった眉、優しいおちょぼ口のくりくりしたお顔を
一つ一つ磨きたくなります。
私の宝物です。

                 s・y


若菜摘む

2011-01-06 | 画廊の様子
あけましておめでとうございます。
静に新年が幕をあげました。
今年もどうぞよろしく白珠にお付き合い
下さいますようにお願い致します。

ご挨拶申し上げているうちにもう明日は
正月七日の人日、五節句のうちの一つです。
この日には若菜七種をお粥に混ぜて頂く風習が
平安の頃より今も受け継がれています。
若菜は山野草で七日の日に野に出て貴族達も庶民も
こぞって若菜摘みに出かけたといいます。

旧の暦でも二月なのできっと雪を掻き分けながら
わくわくして春をさがしたことでしょう。

清少納言は「七日の若菜を、六日、人の持て来、
さわぎとり散らしなどするに、見も知らぬ草を、
子どもの取り持て来たるを‥‥‥【耳無草となんいふ】と
いふ者あれば、「むべなりけり、聞かぬ顔なるは」と
わらふに‥‥‥などと描いています。

当時の若菜にはどんな種類のものがあったのでしょうか。
芹、 なずな、 ごぎょう、 はこべら、 ほとけのざ、 
すずな、 すずしろ、 これぞななくさ
と四辻左大臣善成の歌にありますがそれらが今のどの
植物の名に当るのかはいろいろな説がありそうです。

春が待ち遠しいのは今も昔も変りはありません。
明日の朝はお粥を炊いて七つそろわなくても何か
香りの良い若菜をとんとん刻んで小さな命の力を
頂くことにいたしましょう。
春を待つ喜びが始まります。   s・y

新しき 年の初めの 初春の 今日降る雪の いやしけ吉事
                   大伴家持

          今日の一枚   「羽子」  伊東 深水
                           リトグラフ