遠くの山々が煙るような浅緑に染まり始めるとふんわりと、まるで
天女の羽衣を広げたような純白の姿で春を告げるのは辛夷です。
ふかふかの莟は南風がまだ吹いてこないのにその頬をいっぱいに膨ら
ませて春を待ち構えています。それはなんとも健気です。
あたたかな湿った風が吹きはじめると莟の一つ一つが優雅な白い六枚の
花びらを開きます。
花びらはとても良い香りがします。
辛夷の花は舞踏会に出かけていく貴婦人の手袋のようですね。
茨木のり子さんの詩に「花の名」というのがあります。
父の葬儀を終えた帰りの列車でたまたま乗り合わせた男の人に
きかれた花の名を駅で別れたあとにまちがえたことに「私」は気づいた。
今、春に咲く白いおおきな花は辛夷に決まっているのに。
あの男の人はいつそれに気づいてくれるだろうか。昔、
「女の人が花の名前をたくさん知っているのなんかとてもいいものだよ」と
「私」の父の言葉…
この詩の中に私も辛夷の木を植えてくれた亡き父を思い出します。
「花びらは良い匂いがするんだよ」と言って父は春を喜びました。
父が亡くなった後もこの木は変わらずに私と一緒に春を迎えてくれます。
父は散歩をしながら野に咲く小さな花の名前をたくさん教えてくれました。
巡ってきた春、雪解け水をたっぷり吸い込んだ黒土の中から元気に顔を
出した花たちに会いに行くことにいたしましょう。
s・y
私の家の辛夷の木
散歩道で出会った野の花、えぞえんごさくとえんこうそう
我が友 美人の祐子さんの一句
碧空ヘ言霊放ち辛夷咲く
天女の羽衣を広げたような純白の姿で春を告げるのは辛夷です。
ふかふかの莟は南風がまだ吹いてこないのにその頬をいっぱいに膨ら
ませて春を待ち構えています。それはなんとも健気です。
あたたかな湿った風が吹きはじめると莟の一つ一つが優雅な白い六枚の
花びらを開きます。
花びらはとても良い香りがします。
辛夷の花は舞踏会に出かけていく貴婦人の手袋のようですね。
茨木のり子さんの詩に「花の名」というのがあります。
父の葬儀を終えた帰りの列車でたまたま乗り合わせた男の人に
きかれた花の名を駅で別れたあとにまちがえたことに「私」は気づいた。
今、春に咲く白いおおきな花は辛夷に決まっているのに。
あの男の人はいつそれに気づいてくれるだろうか。昔、
「女の人が花の名前をたくさん知っているのなんかとてもいいものだよ」と
「私」の父の言葉…
この詩の中に私も辛夷の木を植えてくれた亡き父を思い出します。
「花びらは良い匂いがするんだよ」と言って父は春を喜びました。
父が亡くなった後もこの木は変わらずに私と一緒に春を迎えてくれます。
父は散歩をしながら野に咲く小さな花の名前をたくさん教えてくれました。
巡ってきた春、雪解け水をたっぷり吸い込んだ黒土の中から元気に顔を
出した花たちに会いに行くことにいたしましょう。
s・y
私の家の辛夷の木
散歩道で出会った野の花、えぞえんごさくとえんこうそう
我が友 美人の祐子さんの一句
碧空ヘ言霊放ち辛夷咲く